チャプター6:「現るヤツ」
ようやく戦いの場面(一方的だけど)。
場所は、かつて東京23区と呼ばれた地域の、その内の郊外寄りにある地域区画。
そこは件のグロンダー家が本家本拠地を置き、そして縄張りとして支配する街。
街並み、通りには人々が行きかい、その営みから賑わい雑多な喧騒が聞こえているが。
しかし同時にその空気には、隠せぬ重さ暗さと、ピリピリした気配が漂っていた。
グロンダー家は支配地域の人々に『税』などと称してみかじめ料を要求し。
またその軍隊並みの戦力に物を言わせ。治安維持などの名目で暴力を行使し、それにより人々を押さえつけていた。
その中で、しかしそれぞれの理由からこの地を離れられず、または行き場が無いために暮らす人々は。
それに怯え、そして負担に苦しみながらも。それを受け入れての生活日々を余儀なくされていた。
「あの一家、ついに家から姿を消したそうだ……」
「地上げに耐えられずの夜逃げか、それともグロンダーに『消された』か」
「商店へのみかじめ料もまた上げやがった……グロンダーめっ」
「おい、よせ。連中の耳に入ったらただでは済まないぞ」
街の、その一区画の内を貫き通る大通り。
賑わい喧騒に包まれる中で、しかし注意を向ければ人々は。息苦しい空気の巻く街に滅入り、その愚痴を漏らし。
その原因であるグロンダーへの恨みを密かに漏らしている。
「CSは何で連中をなんとかしないんだよっ」
「CSなんてとうに賄賂でも渡されて取り込まれてるんだろ?おかけでグロンダーは調子に乗る一方だ……」
「っ……なんとかできる力があれば……」
住民たちの不満、鬱憤は溜まりに溜まっていたが。
しかし、生半可な力ではグロンダーをどうにかすることはできない。それ程までにグロンダーは巨大で力のある組織に膨れ上がっていた。
「……ん?何か?……!お、おい……っ!」
しかし、あちこちで人々が密かに苦く暗い声を漏らしていた中。
住民の一人がその「気配」に気づいた。
そして次には視線を向けた先で、その「姿」を目撃し。目を剥きながら、その姿を指し示す。
周りの人々の視線はまた、それを皮切りとするように次々にその方向へと集まり。そしていずれもがその「姿」を見て、人々は騒めき始める。
直後。大通り同士が交差する大きな交差点のその角の向こうより。
――あまりに堂々と。その存在は、シルエットは出現した。
交差点の角から、曲がり進路を変えながらその姿を現し。
そして人々で混雑し賑わう大通りのど真ん中を、堂々の最たる姿でドシドシと進み始めるシルエット。
それこそ――制刻。
その規格外の体躯と。そして正直、生理的嫌悪すらを与える容姿を持つ姿。
併せてその両側後ろには、雑把に並んで同行する、鳳藤とアリックスの姿もあった。
「……な、何か……異様に注目を集めて無いか……?皆、他所者を見る目としても何か妙だ……っ」
その内で、鳳藤は歩きながらも視線を周りに向け、そして困惑の声を零す。
制刻等は、その姿を現すと同時に人々から異様な注目を集めていた。
制刻等が突然現れた余所者であるという点から。制刻自身のその凄まじい容姿風貌に、三名それぞれのこの場に似合わぬ格好。
などなども、注目を集めるのも無理はない理由要素は確かにいくつもあったが。
それにしても、人々からの注目の集め度合いは異様で。
そして人々の気配には何か微かに興奮が見え、その視線には心なしか「期待」の色が見える気がした。
「なんだかんだ、〝ブランド力〟があるからな」
そんな様子光景からの、鳳藤が戸惑いつつ零した声に。
通りを引き続きズカズカと進みながらも、制刻はそんな言葉を返す。
――CRF。
制刻が胸元に装着する、最低限の大きさとデザインの装甲プロテクタの表面端。
また、アリックスが身に着けるジャケットの背面。
そのそれぞれには、何らかの形でCRFの名称が表記がされていた。
事業所でのやり取りの際に言及された通り、制刻等はCRFのパスファインダーの指定を受ける身であり。此度の案件もそのパスファインダーとして行動するに足るものと判断され、その身分立場として動いている。
そしてそのCRFのパスファンダーとして行動する場合、その名称を記載し掲げることがまた指定されていた。
「見ろよ……!」
「マジで……?」
明かせば人々が沸き立ち始めた理由は、そのCRFの記載を気づき認めた所が大きい。
昨今、CRFの影響と期待度は中々に大きなものとなっていたのだ。
「来たのか……!」
「ヒュゥ」
制刻を中心に、雑把な並びのままにどんどん歩み進んで行く三名。
その途中にも、居合せた人々の側を抜け通り、すれ違う度に。三名を見止めた人々は歓喜を含む色で騒めき、口を鳴らす。
そして徐々に、通りを歩み進む制刻等に続き、追従を始める人々が現れ始める。
そんな様相を伴いながらも、制刻等が、主には制刻がズカズカ進んで目指すのは。
件のグロンダーの本拠地。
その敷地、その悪趣味な造りの建物とその大きな正面門は。実はもう大通りの向こう正面に聳え見えている。
そして大通りを進めてその正面門に近づくにつれ、そのグロンダーの配下と思しきチンピラのような人間が人々に混じり見え始め。
そのチンピラたちはまた制刻等の存在に驚きつつも、剣幕を見せて慌て動く色を見せる。
「オイオイ、オラァ!!テメェっ、一体何モンだァ!?」
「どこをデカい顔で歩いてるか分かってんのかコラァ!?」
そしてついに、そんなチンピラたちの内から数名が。
制刻等の進路を阻む形で、対面から声を荒げながら迫って来た。
「おうテメェ、どこに向かおうってんだァ?」
代表するように先頭正面から迫り立ちはだかったのは、とてつもなく屈強な体に、そして緑色の肌を持つ存在、『オーク』。
逃れ流れ着いた者か、その二世三世系なのかは不明だが。やはり「接続」した異世界からの種族人種。
そのオークのチンピラは制刻に詰め寄り迫り、乱暴な口調で詰問の声を荒げる。
「なんのつもりだオラァ!?」
「痛い目見てェのかぁ!?あぁ!?」
さらに、そのオークたちの行動を皮切りに続くように。正面周りにはあちこちから、計十人以上のチンピラたちが声を荒げて集まって来る。
グロンダーが異世界系マフィア故、人間に限らずその中には屈強なオークや獣人、爬虫類系人などがまた散見される。
そしてその内には、すでに『ドス』や『チャカ』をチラつかせている者も見える。
(ちょ……!)
その事態に、制刻に追従していた鳳藤は流石に焦った。
状況はもちろん。今に正面に立ちはだかったオークのチンピラは、見た目は制刻以上に身長体躯が大きい巨漢。
流石に不利だ、まずい。
そう思った鳳藤――であったが、
――ベギャリャッ。
何か、鈍く嫌な拉げる音が響いたのは直後。
「え?」
そして鳳藤は驚く暇も無く、目の前にその音の理由を見る。
見れば、制刻が拳骨を作ったその片腕を。しかし何か軽さを覚える気配で動作で、立ち構えたまま、真横に振り上げ薙いだポーズを見せている。
「び゜ゃっ」
そしてだ、鳳藤は一瞬しか目に留められなかったが。
制刻がその拳骨を振るう瞬間と、鈍い嫌な音が聞こえると併せて。
別の何かの妙な、鳴き声のような「音」が混じり聞こえ。
そして、立ちはだかっていたオークのチンピラが「吹っ飛んだ」ように。
さらに、その横に立っていたまたガタイの良いマフィアたちの二三人が、それに巻き込まれる形で吹っ飛んだように見え。
気づけば立ちはだかっていたはずのオークのチンピラたちの姿が、制刻の前から消えている。
そして――ゲグシャッ、と。
側方向こうから聞こえた鈍い音が、そしてそれを追って向こうにみえた光景が。それぞれが今に見えた気がしたものを、「事実」と伝える。
見えたのは、向こう側方にある建物の上階の壁。
そこに、今に立ちはだかって来たはずのオークを始めとするチンピラたちが。
「束ね重なる」形で、建物上階の壁に叩きつけられ、そして「めり込んで」拉げ。漏れなく痙攣して気絶している様であった。
目撃したまま、今の一連は。
制刻の薙いだ拳骨の一撃に、オークたちが悲鳴を上げて吹っ飛ばされ、叩きつけら拉げた証明の光景だ。
「え」
しかしそんな様子に光景を見た鳳藤は、だが今の起こりにすぐには理解が及ばず。
また呆けた声を漏らしてしまう。
「――コンコン代わりだ」
そんな鳳藤の耳に届き、そして意識を引き戻したのは。制刻が淡々と発したそんな一声。
「う、うわぁぁぁぁっ!?」
「な、なんだコイツぅっっ!?」
そして次に上がったのは数々の狼狽の声、いや悲鳴。
それは鳳藤よりわずかに早く事態を。
オークたちに仲間たちが、制刻の「一撃」で吹っ飛ばされて今の有様とされたことを理解して、チンピラたちが上げた驚愕狼狽の悲鳴。
見ればその通り、集ったチンピラたちはここまでの凄む様から一転。面白いまでの狼狽の様に陥っていた。
「お邪魔するぜ」
一方、そんなチンピラたちの様はしかし気にせず。
制刻は今にオークたちを吹っ飛ばした腕を、軽く揺らして慣らす動きを見せつつ、そんな一言を零すと。
次にはそんなチンピラたちの中へと割り入るように、ズカと踏み出しそして踏み入った。
「て、てめ!……ぎゃぶェぁ!?」
「ふざけ!……ひっ!ぎゃべ!?ぎゃぶ!?」
「う、うわ……ぶぎょぉ!?」
そして始まったのは、チンピラたちにとっての阿鼻叫喚の光景。
いよいよ本気でドスを抜き、チャカを取り出し、慌て制刻に応じようとしたチンピラたちは。
しかしその前に制刻の手によって、人間も亜人獣人も関係なく手当たり次第に、
殴り薙ぎ飛ばされ。
捕まえられ、叩きつけられ拉げられ。
ブン投げられ、ぶつけられ。
「蹴散らされて」行く。
「これじゃ一方的な災害よ」
そして最早ポカンとしてしまっていた鳳藤の前隣りで。アリックスがまるでいつものこと言うように、驚きはせずに微かに呆れた色で声を零す。
そしてそのアリックスは次には。前方でチンピラたちにとっての阿鼻叫喚の光景を作りながら、ズカズカドスドス進んで行く制刻を追って。
最低限の警戒の色を周囲に張りながら、続き歩み出す。
「すげェ、すげェのが始まったぜ!!」
「見たか、オークが一撃だった!」
「あれは、制刻博士じゃないか?」
そして、背後周りに集っていた住民たちは、始まった「アガる」光景にいよいよ沸き立ち。
声を上げ、口を鳴らし、潜め隠さなくなった囃し立てる色を見せ。
中には制刻のことを知り気づく者も現れ。
そしてまた制刻等に次々に続く。
「剱ちゃん、離れないで」
「あ、はい」
そんな中、一人呆気に取られていた鳳藤に。
先を行ったアリックスから、併せて忠告が寄越され飛んで来て。
それに言われるままに、鳳藤はポカンとしたまま続いた。




