チャプター5:「合流悪魔」
それから、少し急く色で「作戦」は動き始めた。
できるならば、軍隊並みの武力を持つグロンダー家とぶつかることとなった以上、十分な準備時間を設けたい所であったが。
その学園のエルフ娘の生徒と調査室の若い男は、希望的観測をしてもグロンダー家の手に落ちて捕まっている可能性が濃厚。
まだ生かされていると仮定しても、それも長く持つ保証は無い。
とにかく、時間は無く急ぐ必要があった。
現在時刻は、夕方までは間がある程度の午後の時間。
鳳藤が制刻等の元を訪れたの午前中から、話がまとまり急ぎ準備に手配が進められて今に至る。
場所は制刻の事業所を発ち、現在地は「特別地方」内のまた別の地区に入った。
かつては主として多摩地域または東京郊外などと定め呼ばれた地域と、東京23区と通称された地域の境目辺り。
その辺りはすでに、件のグロンダー家の影響が徐々に及び始める地域。
「――」
「……」
その地域の中を通る幹線道路を走る、一台の乗用車がある。
詳細な車名を言えば、それは日産 セドリック。
「衝突」が起こるよりも大分前に、すでに生産が終了した乗用車のシリーズ。
おまけにどうやら一般家庭向けのものでは無く、かつての道路公団で運用された道路巡回車のお下がり品のようであり。
大まかにはその機構機械は外され降ろされていたものの、その仕様の名残がチラホラ残って見える。
そんな古くマニアックな車の、その車内にあるのは制刻と鳳藤の姿。
そのハンドルは制刻が預かり操り。鳳藤は助手席に収まっている。
聞けば、その車は敢日が趣味で手に入れた車の内の一台であり。それを制刻が譲り受けて使っているとのこと。
ちなみに出発の際に回されてきた時には、鳳藤も少し驚きそして困惑した。
そんなセドリックにて、制刻と鳳藤は目的地、そのグロンダーの支配地域に向けて進んでいた。
「この辺りは……すでに?」
「あぁ、グロンダーの縄張りにちょい前に入った」
車内で、神妙な面持ちで口を開き尋ねた鳳藤に。制刻は端的にすでにグロンダーの影響地域に入ったことを肯定する。
もっとも一応尋ねた鳳藤も、先からそのことは嫌でも理解していた。それ程に、周りの景色に気配は大きくそして急に、荒み暗くなり始めていた。
「……」
暗く重く、しかしピリピリとした空気に。鳳藤はその顔を強張らせて身を硬くする。
「必要以上に、身を硬くし過ぎんな。つっても無理のある話だろうが」
そんな鳳藤に制刻は一応のアドバイスの言葉を向け。しかし鳳藤の心持ち、その緊張を理解してそんな言葉を併せ零す。
「もうチョイ行ったら、「待ち合わせ場所」に入って一旦止まるからな。声を掛けたヤツの一人を合流して拾う」
「あぁ……」
そしてまた併せて、制刻はそう都合を伝える言葉を向け。鳳藤はほぐれぬ緊張の表情でそれを了解した。
少し行程を進めた後、セドリックは打ち捨てられ廃墟となっていた小さな工場施設の駐車場に入った。
聞くにそこは、制刻等がまた「色々な都合」の時のために利用できるようにしている小拠点とのこと。
そんなものまで用意している制刻等に、鳳藤はもはや呆れに近いそれで驚きを覚えた。
「その合流する人というのは?」
敷地内に止められたセドリックを降り、周り近くを軽く見回しつつ尋ねる鳳藤。
その合流する人物について、鳳藤はまだ詳しくは聞いていなかった。
ちなみに解放にあっては、自身の周りの準備と。
そして「兵隊」の都合を付けに行った関係から一旦別行動中。それが終わり次第、追いかけてきて合流する予定となっている。
「あぁ――「闇」だの「悪魔」だの。そんな様なけったいなヤツだ」
「え?」
その、ここで合流予定の人物についてを尋ねた鳳藤に。
制刻が返したのはそんな表現での言葉。そこに含まれ聞こえたワードに、しかし鳳藤はまた疑問の声を漏らしてしまう。
「――アンタに言われたかないわよ」
そんな所へ。背後「頭上」より聞こえ届いたのは、透るそして愛らしさを含む声色でのそんな言葉。
「あぁ、来たな」
「!」
それに、制刻は驚くでもなく淡々とした声と併せて振り向き。
対して鳳藤は少し驚きつつ、その制刻の視線を追う。
そして振り向き見上げた鳳藤の目に映ったのは――宙空頭上より「降りて」来る、少女の物である姿体。
「!……悪魔……っ?」
その姿体に、その特徴に気づいて。
鳳藤は次には無意識に、そんな表現を零した。
その少女に体にまず見えたのは、その背中の尻腰の近くから生えて持つ、「翼」。
よく見ればそれは、それは揺らめく「漆黒」の流動体が。有翼竜か、もしくはコウモリ類の物を大まかに真似て象ったと思しきもの。
その少女は、そんな漆黒の翼をバサバサと羽ばたかせて、降下の速度を殺す行動を見せ。
次にはVTOL機の着陸を思わせる動きで、その足を地面に着いた。
「っと」
声を零しつつ着地し、ちょうど鳳藤の目の前に立った少女。
その容姿風貌がそこで明確に見える。
少女は、その外見年齢は15~6歳程か。
身長は160cm弱程。
尻腰の位置までに届いて越える長さの、美しいまでに真っ白なストレートロングの髪を持ち。
その前髪の元には、真白い肌の愛らしさと妖艶が調和した顔立ちが覗き。そして紅の瞳を持つ、凛とした釣り目が映える。
その顔の両側に見えるは、エルフのような笹状に尖った耳。
しかし一番目を引くのは先に羽ばたきを見せた、尻腰部分から生える大きな一対の漆黒の翼。
さらに少女にはその頭、白い頭髪の両後側にも。二対、片側二枚づつ計四枚の小さな漆黒の翼を携え。
そして尻部から、鋭利な先端を持つやはり漆黒色の尻尾を生やし、揺らし覗かせている。
それらの特徴から、その少女が『悪魔』の類と。
異世界からの流れ来た『魔族』と呼ばれる人々の中でも、その高位に位置する種族の者であると分かった。
しかし、そんな幻想の一つの体現のようなその少女がその身に。外見年齢相応ながらも美麗なそのプロポーションの身体に纏うは。
上衣はシャツの上から簡易なジャケットを羽織り、そして下衣はジーンズとシューズを履く、大分カジュアルな格好。
そしてさらにその肩に下げられ見えるのは。またその幻想を体現するような悪魔の姿と不釣り合いな、武骨な大型狙撃銃であった。
「到着した途端に聞こえたかと思えば……人様を癪にさわる感じで紹介してんじゃないわよ。ましてやゲテモノのアンタに言われたか無いわ」
その悪魔の少女が現れ立つと同時に、開口一番にぶつけてきたのは。
今の制刻の、自分を示す言葉を聞き留めていたのだろう、それに対する文句の言葉。
「はッ」
しかしそんな文句に制刻は、しかし「実際の所を言ったまでだ」とでも言うように。
そしてあしらうようにそんな一笑だけで返す。
「あの……」
そんな両者の早速のやり取りに、次には鳳藤が少し困惑しつつも、遠慮がちに声を挟む。
「あぁ、姉ちゃん。こいつが声を掛けた一人の、アリィだ」
その鳳藤に気づき、制刻が次に返したのは。しかし大分シンプルに愛称らしきものだけを伝えるそんな紹介の言葉。
「初対面の子に、あだ名だけ教えてどーすんのよ……っ!」
そこへ苦く困った色で、その悪魔の少女はすぐに突っ込みを飛ばした。
「はぁ、ゴメンね……アタシは千軌翼 身刻 アリックス。不本意だけど、コイツの同業者みたいなもの。あなたが依頼者の子ね?」
「あ、えぇ……鳳藤 剱と言います」
そして次には、その悪魔の少女は鳳藤の前で少し居住まいを正し。
詫びると併せて、自身のその名と簡単な身分紹介を紡ぎ、そして鳳藤に返す。
その様は悪魔と言う恐ろしく妖艶なイメージと、実際そうである当人の容姿に、しかし反したフランクな色のものであり。
そして外見年齢こそ鳳藤より年下に見えたものの、しかしその振る舞には大人びたものが感じられる。
そんな所を感じながら、鳳藤はまたそのアリックスに名乗りを返した。
「失礼だったら申し訳ない。お名前から、異世界と地球の……?」
「えぇそうよ。地球側的に言うところ、異世界系二世ね」
失礼を懸念し、少し探るように尋ねた鳳藤に。しかしアリックスは何も気にすることは無いと促すように、またフランクな色で答え返す。
軽く自己紹介をしてくれたアリックス。
聞くに、「衝突」から「接続」して異世界から地球にやってきた悪魔の母と。地球日本人の父を持つハーフの身とのこと。
種族故か若く、幼くすら見える容姿だが、その実年齢は30手前程とのことであり。
また明らかのなったことであるが、制刻とは同い年とのことであった。。
「で――グロンダーとぶつかって、この子の友人を救い出すって話よね?」
「あぁ。さっきメールで送った詳細から、今んトコおおよそは変わって無ェ」
「はァ、まったくドでかい依頼を受けたモノね」
その簡単な紹介を終え、さてと言うように。
アリックスは此度の依頼についての主題を聞き尋ね。制刻はそれに肯定と補足で返し、それにアリックスはそんな少しの呆れ交じりの言葉で返す。
「それで、開始のタイミングは?解放君に、ジューダさんのトコを待つ?」
「いや、余裕は無ェだろうからすぐに始める。俺等で先発で乗り込む、手配もその想定で進んでる」
「だと思った」
次にはアリックスは、これよりの「作戦」の開始のタイミングを尋ね。
それに制刻は、これからすぐにその動きを始める事を伝え。アリックスもそれに想定していたと返す。
「あの……具体的には、どうやって?」
そんなように話を進め出した両者へ。また少しの困惑の色で、そして一番気になっていた所を尋ねた鳳藤。
鳳藤に、これよりグロンダーに挑む上での、作戦の詳細はまだ伝えられていない。
此度の危険な依頼を引き受けてくれたことには、大変に感謝している鳳藤だが。それとして相手は軍隊並みの巨大マフィア。
そして制刻等がどの程度までの強さで、どこまで戦えるのかはまだ知らない。
そんな故から、多分な不安を多分に感じての尋ねる言葉。
同時に、少なくとも潜入などの何らかの隠密策を取るのだろうと、鳳藤は漠然と想像していた。
「そいつぁシンプルだ――全部、攫えて潰す」
「――ん、え?」
しかしだ。
それに対して制刻が答えたのは、そんな端的な、端的過ぎる回答。
それに鳳藤はすぐには理解が及ばず、思わず声をつっかからせながら聞き返してしまう。
「んじゃ、お邪魔するとするか」
「やれやれね」
しかしそんな鳳藤をよそに。
制刻はそんな「始める」言葉を発し、アリックスも気だるい仕事でも始めるように零し。
そして次には二人は順次、急ぎはするが慌てはしないとう様子で、動き始める。
「え?」
そんな制刻等を前に、しかしまだ理解が及ばない鳳藤は。
また少し呆けた色で、そんな困惑の人声を漏らしていた。




