チャプター3:「依頼と事態」
そんな起こり見えた色々な光景に、微かな驚きと困惑を覚えつつも。出されたお茶と菓子を流れのままにいただいていた鳳藤。
「――でだ」
そんな鳳藤とテーブルを挟んだ対面のソファに、制刻がドカリと座り。
敢日はその傍らに立って立ち合い。
また、その三人の周りに動物たちが興味本位の様子で集まり。
そして制刻が早速本題に入ろうと言う様子で、皮切りの一言を発した。
「姉ちゃんは、修麗院学園の生徒会長さんだと聞いてるが。んな良いトコのお嬢サマが、こんなけったいな場所の人間に、リスクを抱えてまで何の頼みを持って来た?」
制刻は明かせば、ここまでに鳳藤の手引きをした敢日経由で。鳳藤の身分立場と、その彼女が自分に「頼み事」がある事は聞いていた。
その鳳藤の身分を補う程度に再確認し。
それから端的に、その「頼み事」の内容詳細を聞き尋ねた。
「はい。制刻博士、解放さんから貴方のことをお伺いしまして……」
「あぁ、チト話を止めるが。別に堅苦しく言葉は使わなくてもかまわねェ」
その制刻からの質問に、鳳藤は居住まいを正して話始めようとしたが。
しかしそこで制刻は一旦その言葉を止め、そんな促し勧める言葉を向ける。
鳳藤が、その姿態度を少し取り繕っている様に気づいてのことだ。
「あ……その、すまない。では無礼かもだが、お言葉に甘えさせてもらいたい」
その勧めを受け、鳳藤は先にも少し魅せてしまった素を。
その「イケメン女子」的な容姿に似合う、中性的ものへとその口調を変えて、勧めに甘える旨を紡ぐ。
別に傲慢や気丈さを演じるわけでは無かったが。
学園の生徒会長として、普段から生徒たちに毅然とした態度を見せ振舞うことを日常としている鳳藤にとって。
それが一つの慣れた形であった。
「博士、貴方のことを解放さんからお伺いした。貴方は研究者として著名だが、それと同時に――「荒事」の解決を得意とする人だと」
その素のものとした口調で、鳳藤は本題を再開。
先の制刻の質問への答えを含める形で。鳳藤はやはり敢日経由で前もって聞き及んでいた、制刻の研究者とは別のある姿についてを言及し聞き尋ねた。
「お嬢サマから、また物騒なワードが飛び出して来たな」
それを受けた制刻は、揶揄うような台詞の、しかし淡々と真面目な口調の言葉で。
肯定の意を含ませた返事を返す。
「貴方に頼みたいのは、人探し――正しくは、人の救助だ」
その肯定の意の返事を受け、次に鳳藤が紡ぎ伝えたのは。
「依頼」の内容であった。
それから鳳藤は、一枚の小さな写真を取り出してテーブルに差し出す。
それはおそらく生徒手帳などの証明に用いられる写真。そこに映っていたのは一人の少女だ。
「私の学園の二年生の娘だ。数日前から学園に来なくなって、そして連絡が取れない」
その写真を差し出すと併せて、鳳藤はその写真に写る少女の正体を紡ぐ。
制刻がその写真を、その尖りながらも武骨な独特な指先で寄せて視線を降ろし。その傍らから敢日も覗き込む。
写真の少女は金髪のショートカットが美麗な、美少女から美女になりかけといった容姿の凛とした雰囲気の娘。
纏うは修麗院学園の二年生を示す、シルバーのラインの入る白いセーラー服。
そしてしかし一番の特徴は、その顔の両側に見える、笹の葉のような長い耳。
「エルフの子か」
「向こうの世界から来た親を持つ、いわゆる『幻想系二世』の生徒だ」
敢日が写真を見て零し、それに鳳藤が補足の言葉を返す。
写真とその言葉の通り、その女子生徒はエルフ。
かつては地球では物語の中でのみに存在した架空の種族。
しかし「衝突」から地球が幻想的な異世界と「接続」し。そしてその異世界に本当に存在したエルフ始め幻想の人種種族が、地球に流入して来て以来。
その存在がまた当たり前となった存在であった。
「行方を眩ました、心当たりはなんかあるか?」
その写真から視線を起こして鳳藤に戻し向け、制刻はまずは端的に心当たりを尋ねる。
「その子の友人周りに話を聞いて見た。それによると、学園に来なくなる前にこの子は友人に零していたそうだ。『調査室』というところに出入りをしていると」
それに鳳藤は、まずはそんなワードを含めた回答を返す。
「聞くに、どうにも小さな探偵兼用心棒のようなところのようで。その子はそこに『助手』として出入りして、何か危なっかしいことにも首を突っ込んでいたようだ。だから、もしかしたら……」
続けて鳳藤は自身が調べ聞き及んでいた所を明かし説明。
それから神妙な顔で次に言葉を。できればあまり口にしたくない予想を口にしようとしたが。
「探偵ごっこが過ぎて、蹴っ躓いたか」
それを先回りし変わるように。しかし制刻が歯に衣着せぬ表現でそう発した。
「自由」
学園の生徒のことを気に病む鳳藤を前にしての、遠慮の無いその発言に。敢日が咎める一声を向けるが。
しかし制刻は「オブラートに包んでもしょうがねェ」と言うように、その様子に色を崩すことはしない。
「その可能性が濃厚だ……」
そして、鳳藤は今の制刻の発言は否定できないと。苦い色でそう人声をまた零した。
「はぁ。ちょいと、こっちでも調べてはある」
そんな様子に少し「やれやれ」といった色を見せつつ、次には敢日がそんな言葉を発する。
「その調査室とやら、剱ちゃんが言うように探偵兼用心棒なトコだった。若い兄ちゃんがやってて、依頼の達成率は高くて最近名を上げつつあったみたいだが……ちょいとそれ故か、危なっかしい冒険染みたことになる事も多かったみたいだな」
次には、その今に上がった『調査室』について。敢日が自分でも事前に調べておいたところを紡ぎ説明。
「そして、これがヤバそうな所なんだが……どうにも一番最近受けた依頼で、『グロンダー』絡みに首を突っ込んだ形跡があった」
そしてまた次には、敢日は大変に苦く歓迎し難い顔を作り。そんなワードを含めての言葉を紡ぐ。
「そいつぁ、火遊びにしちゃ行き過ぎだな」
それを聞き、制刻は淡々としながらも少し呆れた色を混ぜて、そんな言葉を零した。
「グロンダー……?」
一方の鳳藤は、その聞こえたワードにしかし聞き覚えが無く。疑問の色でそれを復唱。
「剱ちゃんが知らないのも当然だ、むしろ本来は女学生が知ってて健全な言葉じゃない」
それに敢日がまずはそれも当然と言葉を紡ぎ。
「グロンダー家……「衝突」後に向こうの世界から流れて来たアウトロー連中を元とする筋モン、いわゆる『幻想系マフィア』だ」
「っ……!」
そして次に敢日から説明されたその詳細に。次には鳳藤も目を剥き、その表情を苦く険しいものに変えた。
「アジトを東京の一角に構えて、その周りに隣接区域を縄張りとして占めるバカでかいマフィアだ。手を染めてる真っ黒なシノギは数知れず」
そんな鳳藤に、敢日は説明の言葉を続ける。
「地球人、異世界人を問わず多数の人材に「兵隊」を抱え込み、おまけに膨大な武器を買い込んでてその戦力も軍隊並み。縄張りはほとんどグロンダーの領地も同然の状態って話だ」
伝え説明される、そのマフィア組織の実態。そしてしかし敢日の口からは、さらに悪い状況が次に紡がれる。
「悪い事にその調査室をやってる兄ちゃんも、そのグロンダー絡みの仕事を受けた形跡を最後に消息が知れず。そのタイミングは、その娘が音信を絶ったのと同タイミングだ」
「っぅ……」
酷な知らせとは分かっているが、しかし隠し誤魔化してどうにかなる訳でもなく。
みるみる顔を険しく青くする鳳藤に、敢日は自身が調べた限りの情報を紡ぎ伝える。
「っー……」
知らされたその情報から、想像することは容易い。
おそらくそのエルフの生徒の子は、その調査室の経営者と共に危険な事案に首を突っ込み。
そのマフィア、グロンダーの手に掛けられた。
詳しく状況がどこまでとなっているかは分からない、いや正直、鳳藤は想像もしたくなかったが。
しかし否が応でも、状況は最悪の形に陥ってしまっていることは理解せざるを得なかった。
「一応聞くが、CSは連中への対応に動けねェのか?」
青ざめ険しい顔で、俯き言葉を失ってる鳳藤に代わるように。
制刻は敢日に、あまり期待はしていない様子で尋ね聞く。
「一応現場レベルじゃ頻繁に小競りあってるが……大きくは見て見ぬ振りの、我関せずの部署に部隊が大半。賄賂を掴まされたり弱みを握られたりで、グロンダーの取り入ってる連中まで居る始末だ。期待するだけ無駄だな」
「だろうよ」
そんな尋ねる言葉に。敢日は自身の「都合」のためであり、そして補助要員で入っているに過ぎないとはいえ。
仮にも自分の所属するCSを、しかしまったく遠慮なく酷評。
そしてそれに制刻も、予想は容易かったとでも言うように、呆れを含む淡々とした一声で返す。
「マジでグロンダーを全部消し潰そうってんなら――本来なら〝処分隊〟案件だな。〝CRF〟を頼って持ち込むしかない」
そして敢日は、次にはそうある名称を言葉にして示した。




