チャプター2:「衝撃的邂逅」
敢日のCSの身分、わざわざその為にちゃんと入隊する程のその行動力の甲斐あってか。
二人は間もなくCSにて管理監視される区域の境を、内区域と外区域を繋ぐゲート口を無事に通過。
そして鳳藤は敢日の手引きによって外区域へ。正しくは内区域こと「中央指定生活区域」と隣接する、特別地方の中のまた別の一区域へと出て入った。
目的地までの道中、その様子光景を走る軽装甲車輛の車窓から眺めていた鳳藤。
ここは鳳藤の住まう内区域ほどとは行かないが、まだ穏やかで安定した区域であると敢日は話したが。
しかしそれでも内区域よりも「衝突」の影響による荒廃の気配が見え、街並みは荒み雑多な様子が伺えた。
そんな区域の中を、敢日の操る軽装甲車輛は縫って走り進み。
間もなくその区域、街並み外れに。目指していたその目的地に辿り着いた。
「ここだ、車を停めるから剱ちゃんは先に行っててくれ。インターホンを押せば「アイツ」が出てくるから」
「あ、はい」
着いたのは、周りに他の建物の少ないだだっ広い土地に立つ、何かちょっとした事業所のような敷地に建物。
先に一人、車から降りてそれを見た鳳藤に、敢日からはそう促し伝えられる。
促されたままに、鳳藤は開けっ放しの敷地の出入り口を越えて入り。すぐに目についた玄関と思しき扉の前に立つと、そのインターホンを押した。
その音が鳴り響き、少し待った後に玄関の向こうから物音が聞こえ。
そしてその内側から玄関扉が開かれる。
そして、だ。
「?……!!!」
直後に、開かれた扉の奥より姿を現したその「存在」を見て、認識した瞬間。
鳳藤は思わず驚き目を剥き、そしてビクリと背筋を震わせた。
「――あァん?」
鳳藤の目の前に姿を現した、その存在、人物。
その身体は、身長は180cm以上、いや190cm近く。そして、鍛え上げられたという表現すら生温い、凄まじい強靭な体躯の巨体。
だが、鳳藤が驚き震えた理由はそこではない。
問題はその容姿、主にはその顔だ。
その人物の厳つい輪郭の顔、その左右に携えるは、それぞれ形のことなるアンバランスな両眼。
右眼は恐ろしく大きく、そして歪な形をしていてギョロリと蠢いている。左眼は薄ら笑うような形に、漆黒の眼球が覗いている。
鼻はまた大きく尖りつつも歪な造形。
そして太い、また武骨な上下の唇の間からは。その口内が、凄まじく悪い歯並びと、蠢く大きな舌が覗く。
錯覚か本当か、その短い頭髪すらも何か揺らめいているように見える。
そして今に、現れると同時にそんな口から零され聞こえたのは。その容姿の印象に違わぬ重低音の声色。
その人物は、はっきり言ってしまえば。見た者の生理的嫌悪をこれでもかと多分に煽る、身の毛のよだつ容姿の存在だった。
「……ぅぁ……!っ……!?」
そんな現れたとてつもない存在人物を前にして、そしてその歪な両眼に見降ろされ。
思わず言葉を失してしまい、同時にすぐさまそこから逃げ立ち去ることすらを考えた鳳藤。
しかし、
「きゅー」
次に目を引かれ見えたものに、鳳藤は逃走を考えたその足をしかし留め。そして次には別の理由でその目を丸くした。
それは、そのとてつもない存在人物の胸元。今にやっと気づいたが、その巨体に纏っている作業服上衣の襟元。
そこには、可愛らしい「子ダヌキ」が入り収まって顔を覗かせており。そして同時にそんな鳴き声を発して寄越す。
それは何か、「おきゃくさんだー」とも言っているように鳳藤は感じた。
「タヌキ……?」
そんな、とてつもないインパクトの存在人物と、まったくアンバランスな小さな姿がしかしそこに収まっていることを目に留め。
鳳藤は意識をそこに持っていかれ、そして次には丸くした目のままに、思わず浮かんだ言葉を零す。
「ワンっ」
さらに次には、そのとてつもない存在人物の背後から足元を抜け。
今度は犬が、細かくはジャーマン・シェパードの面影が見える中型犬が。来客の気配を感じて興味本位で出て来た様子で、テクテクと出て現れた。
「……」
そんなように、恐ろしく凄まじい人物の周りに、アンバランスの体現のように出て来た可愛らしい動物たちに。
鳳藤の頭は情報整理にやや混乱をきたし、彼女は次に発するべき言葉、取るべき反応を見失う。
「あぁ――今日約束の、学園のねーちゃんか?」
そんな鳳藤へ。
その凄まじい人物は、またその容姿に合い過ぎている重低音の声色で。しかし気づき察しをつけた様子で、鳳藤に聞き尋ねる言葉を向けて来た。
当人は意識したものではないのだろうが、それは鳳藤への助け舟となった。
「!……あっ。す、すまない……そうだ……っ」
その尋ねる言葉が幸いし、鳳藤は意識を混乱から取り直し。
まずは戸惑いつつも、困惑から丁寧語を忘れて『素』を出してしまいながらも、取り繕って詫びる。
「その……貴方が、〝制刻〟博士……ですか?」
そして今に尋ねられた旨から、鳳藤も察しを付け。
しかしその確かな回答をまず欲するように、その人物の名を聞き尋ねた。
――制刻 自由。
それが、容姿その他色々が規格外で凄まじい、その人の名。
鳳藤にとっては実際に遭うことこそ初めてだが。制刻は博士、研究者としてたまに公に聞き見かける人であり。
その存在は前より知っていた。
そして、制刻に会う事こそが、鳳藤がリスクを負ってまで「外」へと来た理由。
鳳藤が抱えるある問題。その解決を依頼したい「ある人物」とは、制刻のことであった。
しかし、元より知っていて尚。実際にその制刻と相対してのその衝撃に、鳳藤は多分に圧され狼狽してしまった。
制刻のリアルでの衝撃度は、それ程までであったのだ。
「あぁ、そうだ。悪ぃな、ビビらせたか」
「いや……いえ、こちらこそとんだ無礼を……っ」
そんな衝撃人物の制刻は、鳳藤からの質問に自分がそのお目当ての人物であることを肯定。
併せて、剣の初対面としては無礼な反応を。しかし日常的なことだと慣れているように、自分から詫びる言葉を向ける。
それに鳳藤も、まだ困惑が収まらない心情ながらも。慌て同じく詫びる言葉で返した。
「解放は?アイツが連れてくると聞いてたが」
「あ、解放さんは駐車場です。先に行ってくれと……」
「あぁ。んじゃ、入ってくれ」
続け制刻は、自分が聞いていた予定を明かし伝えると併せて、敢日の所在を尋ね。
鳳藤はそれにまた答え。
それから一連を理解した制刻は。次には建物内へと戻る動きを見せながら、同時に促し鳳藤を招き入れる。
「シマイ、ビーストボーイ。姉ちゃんに、茶と適当に茶菓子を」
「きゅー」
「ワンっ」
そして鳳藤を促し招くと併せて。制刻が発したのは、胸元に収まる子ダヌキや足元の犬に向けての、おそらくその名前を呼びながら伝え頼む言葉。
(ん、え?お茶出し?その子たちに?)
そんな聞こえた言葉に事柄に。鳳藤はまた疑問を覚えてしまい、脳裏に思わずの声を浮かべる。
「きゅ」
「わふふっ」
そんな鳳藤の目の前で。
シマイと呼ばれた子ダヌキは、制刻の胸元襟元からヒョイと出て飛び降りて床にポンっと着地すると、先んじて建物の奥へと向かい。
ビーストボーイと呼ばれた犬がそれを追い、二匹は「でけでけてけてけ」と歩いて奥へと一度消えて行った。
「……」
そんな様子光景に、また鳳藤は不思議さや困惑を覚えつつも。
とりあえず促されたままに、制刻に続いて建物内へとお邪魔した。
鳳藤が促され通された建物内。
その外観は事業所のようなそこは、中を伺い見たところ、研究施設の類のようであった。
そしてその内は、衛生的に不潔なところは見られなかったが。それとして得体の知れない機械やら装置やら物品の数々がひしめき、大分散らかっている。
そしてまた改めて制刻の姿を見れば。
その服装格好は上下作業服装で、そしてその上から白衣を羽織ると言う、またいささか変わった格好。
まだ触り程度だが、それが制刻の博士・研究者としての一面なのだと見えた。
「適当に座ってくれ。ちょいといくつか聞いて調べさせてもらうから、端末を持ってくる」
制刻から、そんな建物内の一室に通され、そしてその一角に雑に置かれているソファとテーブルのセットを示される鳳藤。
そして制刻は、一旦必要な何かを取りに行くようで、部屋同士を隔てる出入り口をくぐって隣の部屋に一度姿を消した。
「……」
ただでさえ他所様の場。それもここまでの経緯に、今のまた非日常的な部屋内の環境から。
ひとまずソファに腰掛けた後、落ち着かない様子で少しの間を待っていた鳳藤。
「あ」
しかし程なく、今程に潜り通った玄関側の出入り口から気配が差し。
そして次には知る顔、敢日が姿を見せた。
「自由、剱ちゃんはもう来て……」
制刻を呼んでの尋ねる声を発しながら、部屋へと現れた敢日。
だが、その敢日に「その事態」が襲ったのは次の瞬間だった。
「――きゅっきゅっきゅー!」
「む゛ォッ!」
「うわっ」
瞬間、「何か」が。天井から降って来て、敢日の頭部顔面に直撃したのだ。
それに敢日は鈍い声を上げ、鳳藤も思わず驚く声を上げてしまう。
しかし、勢いに反して嫌な激突音などは響かなかった。
鳳藤が良く目を凝らして今の「何か」を観察したことで、その理由は明らかになる。
敢日の顔面に突っ込んできて、今に張り付いているもの。見れば、それは「子ギツネ」だ。
天井のどこかに居たのか、それが現れた敢日目掛けて急降下の様相で飛び降り落ちてきて。
敢日のその頭部顔面に突っ込む勢いで張り付いたようであった。
「ぶむォ……ぷぁっ!」
次にはすぐに、敢日はその子ギツネの小さな体を掴んで抱いて、己の顔面から引き剥がす。
「――おいこらッ、ハジメ!」
「きゅっきゅっきゅっ!」
そしてその子ギツネを険しい顔で見つめ、咎め叱る言葉を発した敢日だが。
しかし一方、そのハジメと呼ばれた子ギツネはと言えば。(〉〈 )といった顔でケラケラと面白そうにはしゃぎ笑っている。
どうやら今のは敢日に向けての、そのハジメのイタズラのようだ。
「あン?あぁ、解放か。ハジメのダイブでも食らったか?」
そんな所へ、奥の部屋から制刻が戻って現れる。
そして敢日にハジメの様子を見止めた制刻は、おそらく今の起こりはよくあることなのだろう。
当たっているその推察を言葉にして寄越した。
「自由!この子にイタズラはやめるよう、言って聞かせてくれ!」
「あぁ、言ってんだがな――ハジメ、こっちで大人しくしてろ」
そんな制刻に、敢日は苦く困ったような顔色で要求の言葉を張り上げる。
そんな要求に制刻は「やれやれ」といった色で返しつつ。
次には敢日に近づくと、その手に抱き捕まえられるハジメの小さな体をヒョイと摘み上げ。
そして自分の頭にポフと放るように乗せた。
(頭に乗せた……)
そんな、また凄まじい容姿の制刻と、可愛らしい動物が混在する光景に動きに。
傍から見ていた鳳藤は、また驚きと困惑の混ざった感情を覚える。
そんな方や、制刻の頭の上に乗せられたハジメは、「ぶー、つまんなーい」みたいな顔を見せている。
「きゅー」
「あ」
そんな所へ、ソファに座る鳳藤の足元から別の鳴き声が響く。
見ればそこにはシマイが。その小さな手でしかし器用に持って、緑茶を淹れた湯飲みを乗せた受け皿を持って来た姿があり。
次にはまた器用にそれをテーブルに乗せて、「どうぞー」と言うような様子で鳳藤に差し出す。
「ワンワンっ」
さらに続けてビーストボーイが、また器用にその頭にお盆を支え載せて現れ。
やはり器用にそれをテーブルに滑り落として、お盆に乗せられていた大福とおしぼりを鳳藤に差し出す。
「あ、ありがとう……」
そんな動物たちが驚くほどに器用に利口に動く様に。
また戸惑いと不思議さのない交ぜになった感情を覚えつつも。とりあえずお礼を言ってそれを受ける鳳藤。
「二人とも清潔だし、器用だから衛生面の心配いらねェ」
(そこではないんだが……二人……)
その困惑の色を、衛生面を懸念していると見られたか。制刻がそんな補足説明の言葉を寄越したが。
しかし根本的に動物たちがお茶出しをしている様に驚いていた鳳藤は。
内心でまたそんな困惑を浮かべつつ。そしてハジメにビーストボーイをまるで人のように呼んだ制刻に、また困惑と不思議さを覚えつつ。
ひとまずというように、出された緑茶を口にした。
子ギツネの顔面ダイブの一連のシーンはHalf-Lifeというゲームのワンシーンが元ネタなのですが、
もし伝わった人が居たらぼっくん嬉しくてニチャァってなりまフ。




