チャプター1:「世界は〝衝突〟した」
主人公登場は次。
――それは、今から十数年前のことだ。
我々の宇宙は異なる宇宙世界、「異世界」と――「衝突」した。
それは宇宙、時空次元規模の巨大変動災害。
地球では世界中の各地各国にて、「衝突」を起因とする異常現象が発生。
日本においては主に関東地方にてそれが発生し、その影響に見舞われた。
異常気象、異常気候、地殻変動など、「衝突」の影響は様々な災害の形態で巻き起こり。
それ等によって関東地方広域に数多くの被害が生じ、人々は大きく傷つき、そして混乱に陥った。
そんな数々の形態で起こった事象影響の中で。後に「衝突」における一番の代表的な変化と言われる、また一つの現象があった。
それこそ「衝突」した別の宇宙世界、「異世界」との「接続」。
「衝突」は関東地方の中心に、この世界と異世界とを繋ぐ一種のワームホールを生み出したのだ。
繋がった向こうの異世界は、まるで物語の中のような幻想的な光景が溢れ。そして特殊な力、『魔法』が存在する世界であった。
だがしかし。
向こう異世界の国々・コミュニティが受けた「衝突」の影響被害は、地球側のものよりもさらに広く大きく深刻なものであり。
そのことから、救いの地を求めて異世界の数多くの民が、「接続」を通って地球日本に逃れ流れ込んで来た。
それから関東地方は。
「衝突」がもたらした数々の現象・影響による大きな環境の変化と。
異世界からの様々な人種種族の人々の流入に。そしてその人々によって持ち込まれた文化に風習、そして『魔法』技術の普及定着。
それ等によって。それまでと全く異なる、独自の文化形態を築く地として変貌を遂げて行った。
この物語は、その大きな変貌を遂げた地を舞台に描かれる――
「衝突」による数々の異常現象・災害の影響で、関東地方は首都圏・政府中枢としての機能を著しく損失。
早急な対応策を必要とされた政府は、臨時の対応として国家・政府中枢を中部地方に避難移転。
同時に、「衝突」と「接続」からその文化形態を大きく変貌させつつあった関東地方は「特別地方」と定められ。
多くの独自の法に制度が敷かれて行き。
現在にあっては、数多く流入した異世界の文化形態の影響も相まって。
賑やかさ、華やかさから黒く暗い面までが数多渦巻く、一種の混沌の地と化していた。
場所は。
その「特別地方」のさらに中心。東京都の一部を主として制定された、「中央指定生活区域」と呼ばれる都市区域へ。
「衝突」による数々の災害現象の被害、その今も残る影響。
そして環境形態の一つとすらなってしまった異常現象の数々。
さらに異世界との「接続」により、流入した異世界人口に文化が招く混沌。
その数々の要因から、「特別地域」と呼ばれるようになって久しい関東地方には、治安の著しい悪化に陥っている地域・市町村も少なく無かった。
「中央指定生活区域」はその中では硬く護られた区域。
高い水準での安全が確保保障され、多くの特典を受けることができるが。反面制約、義務事項も多く設けられる区域。
「衝突」から「特別地方」が制定されて間もなく、リソースを投じて設けられた、特別地方においての重要な生活・行政拠点の一つであり。
しかし同時にいささか息の詰まる場所とも人々から思われていた。
「――……この辺りでいいはずだが……」
その「中央指定生活区域」(以降、内区域)と、その外区域とを隔てる境目。
まだ安全な内区域の側ではあるが、外区域の荒んだ気配空気も少し漂い始める雑多な区画。
その一ヵ所に一人の女、いや少女の姿があった。
歳は17~8歳程か。
170cm直前の女としては少し高めの身長に、麗しいまでのロングの黒髪が飾り。
その黒髪の前髪の元には、キリリと釣り上がった鋭利な目が映える、端麗な顔立ちが覗く。
俗っぽく言えば「イケメン系女子」の系統。
その長身めの身体に纏うは。全体を白で統一し、各所にはゴールドのラインが走る女学生用のセーラー服。
そんな「イケメン女学生」な彼女は。
その端麗な顔にしかし神妙な、少し不安そうな色を作り。少し迷うように視線を動かして何かを探している。
――彼女の名は、鳳藤 剱。
以降、主として名字で呼称する。
内区域にある女学園、「修麗院学園」の生徒。
詳細にはその三年生であり、さらに言えばその第123代生徒会長を務める身分であった。
「修麗院学園」はいわゆるお嬢様学校。
そんな学園にて生徒会長を務める立場である鳳藤が、しかし外区域の少し荒んだ気配が漏れ漂い始めるこんな場所を訪れていることには、もちろん理由がある。
彼女は現在、人と待ち合わせ。そしてその手を借りて、硬く護られる内区域から外区域へと出ようとしていたのだ。
――彼女が抱えるある問題から、その解決を「ある人物」に依頼するために。
「時間もそろそろだ、しかしどうやって……」
実の所、その詳細方法については鳳藤も現時点では聞かされていなかった。
あるツテから伝え知らされていたのは、この場所に今の時間に来るよう指定されたことと。
そして待ち合わせの際の「合言葉」だけ。
そんな不安を覚えざるを得ない状況から、鳳藤はまたその端麗な顔に不安の色を見せて声を零す。
「――そこの君」
「!」
そんな所へ、鳳藤に背後から声が掛けられる。
少し驚き振り向いた鳳藤は。だが次に見えた「その姿」により目を剥き、そしてその顔を強張らせた。
(シチズン・セキュリティ……!)
背後に立っていたのは、独特の黒色の服装にアーマー装備に身を包む一人の人物。
その姿服装から、すぐに鳳藤はそんな名称を頭に浮かべた。
シチズン・セキュリティ、または市民警とも呼ばれる(以降、CS)。
独自の法に制度が敷かれ「特別地方」となった関東地方にて。
「衝突」の被害にて大きな損害を被った警視庁や各県警を一部補填し変わる形で、治安維持や警察業務を執り行うために発足した組織。
しかし治安の悪く、混沌蔓延る「特別地方」において活動する組織故か。
また、「衝突後」の混乱期にいささか乱暴とも言える手段も厭わず、一種「成り上がって来た」という面もあってか。
時に強行、乱暴な面も垣間見え。特別地方の人々からはあまり好意的に見られていない所があった。
(まずいか……)
そんなCSの隊員に。内区域と外区域の境目でうろついている所を見られた。
内区域は安全が保障される場所な分、その出入りは厳重に管理制限されている。
そしてCSは不審人物、何かしらの害を及ぼすと判断した存在には「暴力」を行使することも時に容赦はしない。
見た目明らかな女学生の鳳藤に、すぐにそのような行為に及ぶこと可能性は低かったが。
しかし今の鳳藤には、外区域に出ようという後ろめたい所がある。
実の所、内区域に住まう未成年が外区域へ出ることはまず許可されない。
CSの采配次第では、保護・補導の名目で捕まえられる可能性も否定できない。
今の状況は正直悪かった。
(っ……)
脳裏で今の状況を凌ぐ策を、言い訳を巡らせる鳳藤。
しかし虚しくもその策は浮かばず、そんな鳳藤にそのCS隊員は詰め寄り。
鳳藤は反射で身を固くして身構える。
「――「ブルー、何か必要な物があるか?」」
「!」
しかし。
次にそのCS隊員が、防護マスクで見えないその口元に人差し指を当てながら。小声で囁くように伝えて来たのはそんなような言葉。
ただ聞けば意味が分からなかっただろうが、しかしそれに鳳藤はまた目を剥く。
「……あ、あぁっ。「品物を見せてくれ」」
それこそ、「合言葉」であった。
次には事前に知らされていた、返すべき合言葉を鳳藤は返す。
「「いいだろう、シャツは着たままで」」
それを受けたCS隊員はまたそんな声を返す。それは自分への追従を求める言葉。
そして次にはCS隊員は先導するように歩み出し。
鳳藤もそれに続いた。
鳳藤はそのCS隊員に先導され、少し狭い路地を抜けて進み。
間もなく抜けた先に在って停められていたのは、CSの運用する軽装甲車輛。
それをまた隊員に促され、そして二人は急いて身を隠すようにそれに乗り込んだ。
「――悪かったな、脅かして。剱ちゃん」
隊員が運転席に、鳳藤が後席に乗り込み。
次には隊員はその顔を覆っていた防護マスクを外し、男性であるその素顔を見せながら振り向いて。鳳藤をそんなように呼びながら、まず詫びる言葉を向けた。
その男性の改めて見るその姿は、身長は180㎝前半程。年齢は三十歳手前程。
露わになったその素顔は、厳ついが端正な顔立ちであり、整えたスポーツ刈りに揉み上げを蓄えた顎鬚が特徴的だ。
「えぇ、いえ……その、正直少し危機かと思ったよ、〝解放〟さん」
その隊員の男性からの言葉に、鳳藤は少し戸惑いつつも正直なところを返し。
併せて「知っている」その男性の名を返した。
――敢日 解放。
その正体は、鳳藤の通う修麗院学園に、常勤では無いが用務員として出入りしている男性。
鳳藤とはひょんな縁から少し親しくなった関係。
そして鳳藤も知る所は僅かだが。どうにも用務員は数ある姿の一つでしかないらしく、「色々」な仕事に関わっているらしい人。
鳳藤はある事情、都合からその敢日を今回頼り。またその関係から敢日の手を借りて、外区域へと出る運びとなったのであった。
「はは、マジで悪かった。君を外区域に連れ出すためには、ちょっと色々誤魔化して欺く必要があってな」
そんな敢日は、鳳藤の正直な言葉に笑いつつも詫びで返し、併せてそんな理由を紡ぐ。
彼がCS隊員の姿で現れたのは、鳳藤を外区域へ連れ出し案内するための「策」であるようだ。
「それで、シチズン・セキュリティに変装を?」
「いや、補助要員採用だがちゃんと隊員なんだ」
そこから、敢日のCS隊員姿を今回のための変装だと思い尋ねた鳳藤だが。しかし敢日はそれが一つの本物であることを明かし答えた。
「「仕事」の都合で、ちょっと前から出入りしてる」
「そこまで……」
どうやら今日今回のためだけという訳ではなく、彼の「仕事」の都合からの手段のようであったが。
それでも限定されたものとはいえ、実際にCSに入隊した敢日の行動力に、鳳藤は驚きと戸惑いを覚えてしまった。
「ちょっと窮屈だが、出入りゲートを通るときは身を隠しててくれ。CS専用のゲートを使うから、積み荷チェックはされないからそれでやり過ごせる」
「は、はい」
そんな鳳藤に、敢日はこれよりの手段に手順を伝えて併せて促し。
そして次には敢日の運転で、二人を乗せた軽装甲車輛は外区域を目指して走り出した。




