貴様と結婚するつもりはない
「ルクスファラン・グレンバーレルです」
「ユーフィア・フェリランだ」
私の目の前には、ものすごく面倒くさそうな表情を浮かべたグレンバーレル伯爵子息がいる。
それと同様に私も嫌そうな表情を浮かべている。
「ふむ! これにサインするがよい!」
厳ついハゲのオッサンだけが満足そうに、私とグレンバーレル伯爵子息の間に1枚の紙を差し出してきた。
拒否権はないと言わんばかりの威圧的なオーラを放ってだ。
ハイラディ騎士団団長。その権力者によって組まれた縁談。
私もグレンバーレル伯爵子息もノーとは言えない。
相手は騎士団団長だが、侯爵でもあるのだ。
何故この縁談が組まれたのかといえば、私がハイラディの血族の魔法を使えるとバレてしまったからだ。
いや、隠してもいなかったが、今回の戦いで功績をあげてしまい、小隊長に昇進したのだ。
すると、ハイラディ騎士団団長の孫という私のどうでもいい血縁関係が邪魔をしてきた。
そう、結婚問題だ。
私の両親が生きていれば良かったのだ。だが、今の現状の一番の近縁者が、ハイラディ侯爵家の血族を馬の骨ともわからないヤツには嫁がせられないと、この縁談が設けられた。
そしてサインされた紙を満足そうに眺め、それを持って立ち去っていくハイラディ騎士団団長。
「一つ言っておく、この縁談は私は不服だ。貴様と結婚するつもりはない」
天才魔導師と言われているグレンバーレル伯爵子息にはっきりという。
貴様とは結婚するつもりはないと。
「それは私も同じですよ。研究の邪魔でしかない婚姻など、ゴミ以下です」
私とグレンバーレル伯爵子息の意見は一致した。これは婚約を解消するように持っていけばいい。
「では、作戦を考えよう。どうやって、あのクソジジィをブチのめすか」
「婚約の解消ですね」
クソジジィへの殺意が漏れ出てしまった言葉を訂正されてしまった。
「そうですね。団長職から引きずりおろしますか?」
……グレンバーレル伯爵子息も大して変わらない意見だと思うが?
「侯爵の権限が残るぞ」
「はぁ~、こういうつまらないことより、魔法のことを考えていたほうが百倍マシです」
噂どおりの人物のようだ。
これなら話を持っていきやすい。
「おそらくだが、直系にハイラディの魔法を使えるヤツがいないのだと思う」
外孫でしかない私に、ちょっかいをかけてくるのは、跡取りに不足があるからだと思っている。
私の父がハイラディ侯爵の跡取りから外されたようにだ。
「孫の嫡男にハイラディの魔法を使わすことができれば、ジジイの関心はそれるはずだ」
すると今まで面倒くさそうにしていたグレンバーレル伯爵子息の金色の瞳に光が宿る。
「血族の魔法が使えない者に魔法を使えるように? それは興味深い! そもそも何故血族の魔法が使える者と使えない者に分かれるのか。確かに同じ一族でも使えない者はいますし、全く血縁関係がない者が使えることもあります。そこの違いには何らかの法則があるのか。それとも……」
突然、饒舌に話だしたな。
やはりグレンバーレルという者は魔法以外のことには興味がないという噂に間違いはないようだ。
そう言えば……
「グレンバーレル伯爵家には血族の魔法はないのか?」
すると饒舌に話していた口がピタリと止まる。そして私を睨みつけてきた。
そうか。ないのか。
「なんだ。特にコレと言った特殊魔法はないのか」
「何ですか? 自慢ですか?」
「自慢に聞こえてしまったか? それはすまない。だが氷剣のハイラディの魔法が使えるのは事実だからな」
私は事実のみを口にする。コレは自慢でも何でもないただの事実だ。
するとスッと立ちあがるグレンバーレル伯爵子息。
「血族の魔法が無くても頂点に立てることを証明してみますよ」
……あれ? もしかして私はグレンバーレル伯爵子息の琴線にでも触れてしまったのか?
金色の瞳に見下ろされ、そのまま立ち去っていっていく背中を見送る。
後で、甘いものでも持って謝罪に行こう。
嫌われるのは別に良いのだが、血族の魔法というものに囚われた者の末路は知っているからな。
こうして私の婚約者との初顔合わせは、婚約を破談にするということを当人たちで決めたのだった。
131話の補足の話です(投稿日がまだですが…)




