フェリラン中隊の休日
「はぁ……」
タバコを吹かし空を見上げた。風が雨の匂いを運んできている。
もうすぐ雨が降ってきそうだ。
「お待たせしました」
私の前に、香ばしい香りがするコーヒーが置かれ、多種多様のケーキがみっとりと載せられた皿がコトリと置かれた。
「やっぱり、戦場帰りはこれに限る!」
カフェのマスターに礼を言って、フォークを手に取り、ケーキをパクリと食べた。
甘くてふわふわのケーキに癒される!
「フェリラン中隊長。やはりこちらにいらっしゃいましたか」
私が外のテラス席で食べていると、目の前の席にディロべメラ副中隊長が腰を下ろしてきた。
今日は休暇だと言ったはずなのに、隊服を着て私の目の前にいる。
「なんだ? 今日は休暇だと言ったはずだ」
「言われましたが、報告書は上げなければなりませんからね」
そう言って、ディロべメラ副中隊長は私の前に書類の束を差し出してきた。
だから休暇だと言っただろう。
「今日は受け取らないぞ」
「ハイラディ団長から催促がありましたので」
「はぁ? 戦場から帰ってきたのは昨日だ。三日ぐらい待つだろう?」
あのクソジジィ、報告書なんて急ぐ必要などないだろう!
「近々大規模な作戦が実行されるそうです。戦況の情報が早急に欲しいとのことですよ」
「はぁ……ガレイアを失った穴が酷いな」
「あの方が生きておられれば、どれほど良かったことか」
私はディロべメラから書類を受け取る。というか、休日まで働かなくていいだろう?奥方と一緒に過ごせばいいのに。
「受け取ったから、さっさと家に戻れ、雨も降りそうだし奥方との時間を大切にしろ」
「妻は救護所に詰めているので、帰っても一人なのですよ」
「子どもと遊んでやれ」
私は取り敢えず帰れと手を振る。休暇の日まで私と顔を合わす必要はない。
そもそもほぼ毎日、顔を合わせているのだ。
「帰っても一人だと言ったではないですか。子供は妻の救護所で見てもらっているのですよ」
ディロべメラの奥方は治癒師なので、昼間は救護所で働いている。
このご時世だ。家で子育てをゆっくりとできないのだ。
「はぁ、コーヒーぐらいなら奢ってやる」
これは、家にいてもやることがないから、仕事をしていたというところだろう。
「え! 本当ですか!」
そこにディロべメラではない声が割り込んできた。テラスの柵の向こう側からこちらを見ている者たちがいる。
「ダラニアール。お前には言っていない」
何故か柵の向こうにダラニアールとラドベルトがいた。休暇なのに二人して何をしているんだ? それも隊服を着てだ。
「えー! 隊長のおごり!」
「おごらん。今回の作戦で寄り道してたのは誰だ?」
「寄り道って酷いです、隊長! 俺は敵に見つからないようにモグラになっていただけですよ!」
「意味がわからん。ラドベルト、ダラニアールのおもりか?」
「違いますよ。そこでばったりと会っただけです」
「は? 二人して休暇の日に隊服を着てか?」
何をしているんだ?
休みの日まで隊服をきてウロウロして、隊員同士でばったり会うなんて……
「隊服を着ているのは隊長も同じじゃないですか」
ラドベルトが呆れたように言ってきた。
だが、それは理由があるのだ。
「着る服を考えなくて済むじゃないか」
私はケーキを頬張りながら答える。
「隊長に、隊服云々の言われたくないです」
「楽ですよねー」
否定と同意の言葉をいいながら、二人が同時に柵の中に入ってきた。
「あ! 隊長発見!」
「やっぱりここだと、言ったとおりだろう?」
「隊長、聞いてくださいよ」
何故か休暇を言い渡したはずの隊員たちがカフェにやってきて、私に声をかけてくる。
だから休暇だと言ったじゃないか!
「何故に休暇の日までも、お前たちのむさ苦しい顔を見なければならないんだ!」
「フェリラン中隊ですからね」
ディロべメラ、意味不明な返答をしないでくれ。
私はここにケーキを食べにきたのであって、むさ苦しい隊員と顔を合わせにきたわけではないのだからな!




