闇オークションに魔剣が出品されるのですか!
削除した発売記念の閑話です。
「隊長。この後のご予定はありますか?」
定時で上がる準備をしていますと、レクスが予定があるかを聞いてきました。
訓練の予定がありますが?
「先に何の用があるのか聞いていいですか?あと、隊長呼びになっていますよ」
どちらを優先させるか決めたいところですね。
それからレクスの隊長呼びは直らないのでしょうか?
誰かに聞かれたら面倒なのですけど?
「実は……その……」
「はぁ、はっきりと言ってください」
「この王都で闇オークションが開かれるのを耳にしまして……」
「団長。調査の仕事なら特殊部隊に任せるべきですよ」
闇オークションとは表に出せないヤバい商品を取り扱っているオークションです。
昔も何度か摘発されたようですが、結局こういうものは、ネズミのように湧いて出てくるものなのです。
おそらく、闇オークションを仕切っている者を捕らえない限り無理な話なのでしょう。
「魔剣が出ると」
「魔剣が!」
待ちなさいシエラメリーナ。こういうのは絶対に魔剣という名のただの剣だったりするのです。
騙されてはいけません。
「その昔いた英雄ハンデリアーノの魔剣らしいです」
「魔剣士ハンデリアーノだと!」
確かに言い伝えによると、人の生き血を啜るというヤバい魔剣ではなかったですか?
しかし、その魔剣の効力は本物で、遠くにある山を切り崩しただとか、飛竜の群れを一撃で葬っただとかという伝説の魔剣グランデアスベルク……なぜに剣にこのような長い名をつけたのかは知りませんが。
「その……今回のは合法の闇オークションで……色々情報を得て、招待状を二枚入手しました」
真っ黒い封筒を私の前に出してきたレクス。
この黒い封筒は見たことあります。
確か、せレグアーゼが何故か潜入調査をしろと言われたと文句を言っていたときに見せてきた封筒です。
そうですよね。せレグアーゼは工作部隊でしたので、潜入調査って物品回収のときに物を浮かせて移動させるぐらいしか役にたたなそうです。
しかし、合法の闇オークションとはどういうことですか? 普通のオークションでよくありません?
「それで……その一緒に行きませんか?」
「何時からですか? あと服装は伯爵子息っていう感じでいいですか?」
こういうのは身バレしてはいけないので、一応服装を確認しておきましょう。
はっ! 必須品の仮面など持っていませんわ。
……袋に目の穴を空けて被るでもいいでしょうか?
髪の色もわからないのでいいかもしれません! これを採用しましょう!
「一緒にデートしてくれるのですね!」
「いや、デートではなくて、魔剣のオークションです」
「はい、わかっています。衣服はこちらで用意しておりますので、一緒に私の屋敷に帰りましょう」
「……団長。それ誰かが聞いていたらおかしな噂が広まる一方なので言い方を変えてください」
「はい! では行きましょうか」
何故かレクスに手を取られて団長の執務室から出て行くことに……この手は必要ないですよね?
「マ……マルトレディル君が団長とデート!」
背後から聞こえてきた言葉に、ハッと振り返ります。あれは! 書類を持って廊下に立っている騎士リエグリス!
「これはメリッサ様に報告を!」
ちょっと待ってください! 誤解です!
デートじゃないです!
そのまま立ち去ろうとしないでください。
それから、その書類はどこ行きですか!
誤解を解くことができないまま、私はレクスにオークション会場に連れてこられました。
ガタンと馬車が揺れて止まります。
私は下に視線を向けました。
腕まで覆う長い手袋。レースたっぷりのスカートが視界に入ります。
そう、何故かドレス姿です。それも黒。
隣を見上げると金髪姿のレクスがいます。
黒い髪はどうしても目立つので仕方がないですが、いつもは髪を後ろに撫でつけているのに下ろして右目を隠すように流しています。
あの? 眼帯をつけていないですけどいいのですか?
ぐふっ……金髪レクス。なんだかいつもと雰囲気が違うので、戸惑ってしまいます。
「メリーナ。これを」
レクスは、私に顔が半分隠せる仮面を渡してきましたが、メリーナ呼びですか。
私は黒い仮面をつけます。
まぁ、いいですけど……エリアーナさん、親指を立てていますけど、それはどういう意味ですか?
「それではまいりましょうか」
私に手を差し出してきたレクスをみると、同じ形の色違いである白い仮面をつけていました。
ああ、だから眼帯をつけていなかったのですね。
馬車を降りると、大きな屋敷から煌々と光が漏れ出ているのが見えます。
その中に吸い込まれるように人々が入っていっていました。
闇オークションと知っていても、変わった一品を購入するために参加するのですね。
さて、魔剣士ハンデリアーノの魔剣というのもがどういうものか楽しみです。
屋敷の入口で、三角の布袋に目の穴だけあいた物を被った人に黒い招待状を見せ、中に入っていきます。
これ紙袋をかぶってくると、もろにかぶってしまっていました。危なかったです。
そして地下に行くように言われ、通されたところは、上階の観覧席のようなところでした。
中は薄暗く、オークションは既に始まっているようです。
「これ、いつからしているのですか?」
「昼からしていますね」
上階の観覧席には、いくつかの丸テーブルが置かれています。その中で既に酔いつぶれている人がいるので、やはり長時間開催しているようですね。
上階の観覧席の端にある丸テーブルに案内され、着席しながら下を見下ろすと、下の階にも大勢の人々がオークションに参加していました。
「それで、合法という意味が全く以てわからないのですけど?」
「今回は、とある収集家が自分のコレクションを出すために開催したのです。ですが、かなり問題がある品も多く、大体的には公言できなかったというものですね」
「コレクションを?」
「死期を悟った収集家が、何処かに寄贈するより、次の主の元に渡すのが使命だと思っているようですね。私にはわからない考えです」
ああ、そうですか。
コレクションを保持したまま死ぬと、そのあとコレクションがどう扱われるのかわかりません。
最悪ゴミとして、捨てられてしまう可能性があります。
「くっ……わかります。私の集めた武器がゴミとして捨てられていたら、捨てた者を呪いそうです」
すると隣に座っているレクスから両手を掴まれてしまいました。
「大丈夫です。隊長のコレクションは、私のコレクションです」
「あ……うん。ここで隊長呼びはやめてくださいね」
オークションの商品を出している舞台に向って席が設置されているので、そこまで周りに声が聞こえているとは思いませんが、気をつけて欲しいものです。
「失礼します」
横から声がかけられてきたと思えば、お酒や軽食、ケーキまで出てきたではないですか!
そして去っていく給仕の女性。
「え? 食べていいのですか?」
「はい。食べても食べなくてもいいです。これはオークションに参加するものに出されるものなので」
は? オークションってこんな感じなのですか?
「長時間居座る者もいるので、食事と飲み物は提供されますね」
あ、昼からしているのでしたか。確かにお腹が空いてしまいますね。
私の目的は魔剣なので……ってもう出品されたとかないですよね?
「目的の物はいつ出されるのかわかりますか?」
「確か、休憩を挟んだ最終区分と言っていましたね」
って、その情報はどこからと聞いてもいいですかね?
しかし、聞かないほうがいいですよね。
それよりも私は目の前にあるケーキに釘付けです。
「これ好きなように食べていいのですか?」
「いいですよ」
私は出されたぷちケーキを三段あるアフタヌーンティーセットの上段からとります。
本当は下の段から食べる決まりがあるのですが、今の私はケーキが食べたいです。
フルーツがたっぷり乗ったケーキをフォークで切り分け、ぱくりと食べます。
フルーツの酸味とクリームの甘みが最高な塩梅で美味しいです。
それも甘みが強いフルーツのジャムが、スポンジの間に挟んであって最高なのです!
「メリーナ。こちらもどうですか?」
レクスがスプーンの上でフルフルと震えているプリンを差し出してきました。
……自分で食べたいです。
しかし、キャラメルソースと生クリームというコラボの誘惑に負け、差し出されたプリンをパクリと……
「ん〜!!」
思っていたより量が多くて、クリームが口の端に!
クスクスとレクスに笑われ、口元を拭われてしまいました。
これ、他人から私だと知られていなくても、恥ずかしいです!
そして、オークションにきたにも関わらず、ケーキを堪能してしまった私だったのでした。
え? 魔剣はどうしたのかですか?
「隊長、すみません。まさか偽物だったとは……」
「まぁ、よくあることなのでいいです」
偽物でした。もう、見た瞬間にこれよくあるパターンだとわかってしまったので、ケーキのおかわりを催促したのでした。




