1.5話 隊長の従騎士(冒頭の続き)
没になった冒頭をここに載せておきます。
WEBの書き方ではないのですが…
「隊長!」
「フェリラン中隊長!」
敵陣のほうに進んでいると、部下たちの声が聞こえてきて私は足を止めた。
視線をめぐらすと、後方から駆けつけてくるフェリラン中隊の紋章を持つ者たちの姿がみえる。
「やりましたね! 隊長!」
「流石です!」
「あのアディフィールをヤるなんて俺たちの隊長は最高だ!」
次々と声を掛けてくる部下。
だが、皆のその姿は満身創痍と言っていい。
私も人のことは言えないが、あのアディフィールの部隊の者たちを相手にしたのだ。
生きていてくれただけでも、私の部下たちを褒めてやりたい。
だが、ここからが正念場だ。そのことを告げるために口を開こうとしたところで、ここにいてはならない者の姿を見つけてしまった。
全身鎧に覆われた者たちの中に、黒髪の少年がいるのだ。
「レクス! なぜお前がここにいる! 後方で待機命令を出していたはずだ!」
私は黒髪の少年に近づいていく。
フルフェイスが取れ、顔の半分が血にまみれている。
額から血を流しているのだろうか、いや片目が見えていないようだ。
残った赤い瞳が驚いたように大きく見開いている。
「隊長……隊長……足が……」
私の片足が氷で出来ていることを言っているのだろう。
そんなことはどうでもいい。
「レクス! 命令違反だ! 下がれ!」
レクスはまだ若い。私の従騎士になったばかりの十六歳だ。
そんな彼をこの戦いで命を落とさせるわけにはいかない。
「治療師を! 隊長! 早く治療を」
しかし、レクスは私の身体を支えるように、触れてきた。
「ここは最前線だ。治療師などいない」
「だったら、私が後方まで運びます」
私はレクスの言葉に首を横にふる。この機を逃すと今までの作戦が水の泡だ。
「いや、まだ作戦中だ」
「それであれば、隊長の従騎士として、御側で隊長を支えます」
本当に何故ここまで慕ってくれるのか。
しかし、彼を死なすわけにはいかない。
何故なら、ここでの私の死は確定しているからだ。
「レクス。生きろ。そして平和になった国を支えてくれ」
「嫌です。隊長がいない未来になんの価値もありません」
そのレクスの言葉に笑みを浮かべる。
私ほど、価値のない人間はいない。
命の重さで言えば、レクスの方が優先される。
彼はいずれ公爵として国を支える存在だ。
片や私は戦いのない世界には必要のない存在。
戦いしか知らない私には他の生き方はできないだろう。
しかし、それを言ってもレクスは意地でも私を助けようとするだろう。
だから、そのレクスに手を伸ばして抱きしめる。
「ありがとう」
私が意地を張るのをあきらめたのかと、安堵するレクス。
「私の従騎士でいてくれたことに感謝を」
「隊長……」
笑みを浮かべ感謝の言葉を口にする。
そしてレクスの首元に手刀を落とし、意識を刈る。
倒れるレクスを素早く副中隊長のディロべメラが受け止めてくれた。
今の私ではレクスを支えることができないからだ。
私は周りを見渡す。頭一つ分小柄な者を見つけた。
「マルトレディル小隊長」
「はっ!」
応えた鎧をまとった者は、彼より大きな鎧たちの間を縫って私の前に出てきた。
「レクスを連れて下がれ」
「え?」
「片目が見えていないようだ。後方に連れて戻り治療させろ」
「待ってください! 僕は! 最後まで隊長と共に戦います!」
私に詰め寄って来る小柄な小隊長。彼を選んだのは理由がある。
「マルトレディル小隊長。命令だ。下がれ。それからこれは私のお願いだ。生まれてくる子供のいい父親になってくれ」
この冬に子供が生まれてくると喜んでいた。生まれてくる子供には父親が必要だ。
「でも、僕は……フェリラン中隊の一員です!」
それはわかっている。だが、これは私のわがままなのだろう。
「そうだ。これを今まで世話になった奥方に渡してくれ」
私は首から下げていたペンダントを渡す。
これはフェリラン中隊の誰か、名が刻まれたプレートだ。
まぁ、この死体が誰かを示す目印と言っていいものだ。
「あ、マルトレディル。俺のも頼む。妻と子に渡して欲しい」
「では、私のも渡しておきます」
次々と隊員を示すペンダントを首にかけられるマルトレディル。
小柄な鎧から嗚咽の声が漏れていた。
そして、小柄な鎧がそれよりも大きなレクスを担いで去っていく。
「さぁ、フェリラン中隊の最後の戦いに向かおうか」
私は部下たちと共に、この戦いを終結させる戦いに向かうのだった。
*
マルトレディルに担がれて後方に向かっているレクスが意識を取り戻す。
そして視線を上げたその先には、仲間たちの去る背中が遠くに見えた。
「隊長! フェリラン隊長―!」
悲痛な叫び声を上げるレクス。だが、その声に足を止める者はいない。
「マルトレディル小隊長! 引き返してください!」
「駄目だよ。これは隊長命令」
「しかしあのままだと隊長が!」
「従騎士ファングラン。君は知らないだろうけど、隊長が僕たちに命じたことはハズメイラの丘に行くことだ。それを誰もが納得しているんだよ」
「だったら! 私も」
「それは君がファングランだからだ! 僕は君のおもりをさせられるために、皆と共に行けない!僕もフェリラン中隊の一員だというのにだ! この悔しさが君にわかる! 僕は騎士なんだよ!」
にじむ視界の中でマルトレディル小隊長は己の心の内を吐露した。
一番悔しいのは騎士であるにも関わらず、他の騎士たちと共に戦えない自分のほうだと。レクスが命令を聞いたまま後方に待機していれば、このようなことにはなっていなかったと。
マルトレディル小隊長の言葉を、かすんでいく仲間たちの背中を見ながらレクスは聞いていた。
そして己の無力さに嘆くレクスの慟哭の叫び声が空に響き渡ったのだった。




