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密着三日目

 約束の日曜日。鎌口(かまぐち)夫妻のご自宅にお邪魔しました。明るい笑顔で私たちスタッフと杉並(すぎなみ)教授を出迎えてくれた二人。(まなぶ)さんが玄関口での挨拶も早々に、「どうぞお入りください、ゆっくりお話ししましょう」と、リビングへ案内してくれました。


 前回取材したときと同じように、横並びに座る学さんと彩華(あやか)さん。違う点は、それぞれの肩にヌラキモのネオくんとトリニティちゃんが乗っていないこと。まるで体の一部かのようにくっついていた二匹でしたが、今日は別室にいるのでしょうか。鎌口夫妻は歓迎してくれはしたものの、やはりヌラキモを取材している私たちと学者の杉並教授に対して、「大切な家族を見せれば、(さら)おうとする可能性がある」と、警戒しているのかもしれません。そんな風にネガティブに考えていましたが、話を聞くうちに、私たちの予想は外れていることがわかりました。


彩華「ネオとトリニティは、突然いなくなっちゃったんです。煙みたいに消えちゃって」


 彩華さんが言うには、ネオくんとトリニティちゃんを隠しているわけではなく、二匹とも姿をくらましてしまったのだそう。前回私たちが取材をしてから数日後にいなくなり、部屋のどこを探しても見つからなかったのだとか。家の外に脱走したのではないかと考え、隣近所に聞き込みもしましたが、どこにもいなかったとのこと。


学「二匹とも、何の痕跡もなく消えてしまいました。どこからともなく現れて、消えてしまう……不思議な生き物ですね」


 薄く笑顔を浮かべながらそう語る学さん。彩華さんも「本当に不思議よね」と、微笑(ほほえ)みながら同調します。


杉並「その話、本当ですか? 本当にヌラリヒョキヌゲネズミモドキは、消えてしまったのですか?」


 そう念押しする杉並教授。彼は、(わら)にもすがる思いで鎌口夫妻との面会に臨んだはず。夫妻が飼うヌラキモを観察できれば、進捗が(かんば)しくない研究を進める手がかりが掴めたかもしれません。それが一切叶わない現状を、受け入れられないようです。


 杉並教授の執着心を蹴散らすかのように、学さんは「本当ですよ」と言い、続けます。


学「嘘だと思うなら、他の部屋も見てみますか? タンスや冷蔵庫の裏まで見てもらっても構いません。どこを探しても見つからないと思いますよ。僕らも、何日もかけて探しましたけど、結局いませんでしたから」


 彼の口ぶりからして、本当にヌラキモたちはいなくなってしまったのでしょう。杉並教授は、残念そうに視線を落とします。


杉並「そうですか……正直、実物のヌラリヒョキヌゲネズミモドキを見てみたかったのですが、『突然いなくなることがある』とわかったのは、生態を解き明かすヒントになると思います」


 期待していたような成果が手に入らなくても、たくましく前を向こうとする杉並教授。どれだけ些細なことでも判明すれば良しとするこの精神は、彼が長く学者をやってこられた所以(ゆえん)かもしれません。


 ヌラキモの実物は見られなくても、鎌口夫妻から飼っていたときの話を伺うことはできます。杉並教授が知りたいことを投げかけ、鎌口夫妻がわかる範囲で回答。以前の取材で伺ったこと以外に、ヌラキモについて次のことが判明しました。


・飼い主の行動を真似するようになる(寝起きに鏡を見ながら毛繕(けづくろ)いをする、歌を歌うなど)

・オスは男性に、メスは女性に懐きやすい

・飼い主のスマートフォンのパスワードを覚え、自力でロックを解除することがある

・テレビに特定の芸能人が映ると必ず画面を見つめる(飼い主以外の人物も判別できる)

・牛、豚、鶏、どの肉のどの部位も食べるが皮だけは残す

・食べるのは生肉だけだが、飲み物は水だけでなくコーヒーやコーラなど何でも飲む

・泳ぎが得意(水を怖がらない)


 あくまで鎌口夫妻が飼っていたヌラキモたちの特徴であり、すべてのヌラキモに当てはまるとは限りません。まだ確定事項ではないものの、杉並教授にとってはこの話だけでも研究を進める手がかりになることでしょう。


 私たちも無駄足にならず安堵(あんど)した反面、鎌口夫妻に対して二つの違和感を覚えました。一つは彼らの態度。杉並教授とのやり取りの最中、二人はずっと笑顔でヌラキモについて語っていました。私たちが「ヌラキモを専門機関に提供する」とわずかに口にしただけで激しい怒りを見せるほどネオくんとトリニティちゃんを愛していた二人からは、想像できない態度です。本当の家族のように愛を注いでいたヌラキモたちがいなくなったのに、これほど冷静でいられるのでしょうか。もっと取り乱してもおかしくないと思われますが、二人ともどこか他人事のように語り続けていたのです。


 もう一つの違和感は、学さんと彩華さんの首元。急激にダイエットしたかのように、皮膚がだらんと垂れていました。ほんのわずかですが、皮膚が余っているような、そんな印象を受けたのです。二人とも元々痩せ型で、前回の取材のときから体型が大きく変わったわけではありません。外見のことに言及するのは(はばか)られるものの、首元が気になりました。


 この違和感について鎌口夫妻に直接尋ねるのは失礼にあたるでしょう。良好な雰囲気で終えられそうな取材を、台無しにしてしまうかもしれません。また二人にお話を聞く可能性があることも考えると、良い関係性を維持しておきたいところ。


 私たちは違和感の正体に言及したい気持ちを我慢し、心の奥に収めました。

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