密着二日目
三日経っても、鎌口夫妻からの折り返しはありませんでした。以前の取材で、私たちスタッフの連絡を拒絶したくなるほど強い不信感を抱いたのかもしれません。
返信があることを祈りつつ、ひとまず杉並教授への密着取材を続けます。彼の研究室を再び訪ねると、何やらイライラしている様子。椅子に座って貧乏ゆすりをしながら、紙タバコを吸っては灰皿に放り投げます。灰皿には吸い殻が山のように積み上がっていました。一体何があったのでしょうか。
杉並「私のゼミの学生がね、『うちにヌラキモが来た』って言うんですよ。写真も見せてもらいました。だから、譲ってほしいと伝えたんです。そうしたら生意気にも『絶対に嫌だ』と断ってきて。譲らなければ単位をやらないと脅しても、頑なに態度を変えなかったんですよ。たかが学生がヌラリヒョキヌゲネズミモドキを飼っていても、その生態解明には何も寄与しない。私のような学者の手にあるべきです。どれほどの機会損失になるか、何も理解していない……バカな大学生ですよ、まったく」
身近にいる学生がヌラキモを手に入れ、立場の差を利用してまで譲ってもらおうとしたのに断られた。そのことが、杉並教授を苛立たせていました。「ヌラキモを譲らなければ単位を与えない」という発言は、もし証拠が残っていれば大問題になりそうですが、そんなリスクを負ってでもヌラキモを手に入れたいと、杉並教授は考えているようです。背に腹は代えられない状況といったところでしょう。
鎌口夫妻と杉並教授を早く引き合わせなければ、関係のない第三者にも悪影響が及びそうです。私たちは引き続き、鎌口夫妻に連絡をし続けました。
さらに二日後、鎌口学さんから返信がありました。どうやら私たちを拒絶していたわけではなく、単に都合がつかず返信できていなかっただけのようです。
“僕たチの知ってル範囲で構わな毛れば、お話し死まス”
学さんからの返事はOK。杉並教授のスケジュールを確認し、今週の日曜日に鎌口夫妻宅へ伺うことになりました。
スケジュール調整をする際に電話口から聞こえた杉並教授の声は、とても朗らか。実物のヌラキモを見られることに喜んでいたのでしょう。先日のイライラは、一瞬で遠い彼方へ消え去ってしまったようです。




