四
いつもと同じチャイムの音が鳴って、四限の授業が終わった。
明らかに空腹で浮足立っている層と、現代文のあまりの退屈さに半分寝かけていた層と、特に何も思わずに淡々と授業を受けている層が一斉に顔を上げ、教科担当が去った後の教室は祝福ムードに包まれた。
どこの高校もこういうものなんだろうか。
世の中には少しくらいであれば現代文が好きな子供が集っている学校があってもいいんじゃないかと思う私は、自分で言うのもなんだがこの教室では希少な「現代文の授業大好きです」勢であるという事実をそれとなく隠し、昼休みの高揚感に散っていくクラスメイトたちをぼんやりと眺めていた。
中高一貫の私立女子高という意外とレアな属性が揃っているこの学校での生活は四年目に突入し、登校先が中等部から高等部の校舎へと変わったという点を除けばなんら変わりのなく平和な日常を過ごしている。
女子校といっても世の中には様々あり、珍獣やら奇怪生物やらが跋扈しているところもあれば、これはもうお嬢様の集いでしょという雲の上の宮殿様もある。この学校はどちらかと言えば後者に寄っており、偏差値も一応七十弱はあるので気の狂った猛獣的なものは生息していない。かといって堅苦しいわけでもない。
大抵の生徒は弁当を持ってきているので教室だったり校舎一階に用意されたフリースペースみたいなところで食べる。今日に関しては四月終わりの中々に暖かな陽気が感じられることもあり、何故かベランダに出て食べている変人もいた。訂正。珍獣はいないが変人はいる。
「おーい琴奈、ご飯食べよー」
「うん。今行くよ」
そしてそうやって物思いに耽っている私を呼ぶ声にふと顔を上げ、そういえば今日は月曜日なので彼女が教室に残っていることを思い出す。
教室の前の方で机を合わせて待ってくれていたのは、中等部時代からの友人であり、たぶんこの学校では一番付き合いの長い湯野 百音だった。月曜はバスケ部のミーティングがないので教室でゆっくりとお弁当を食べる日、これは中等部時代から変わらない。
用意した机セットが二人分であることからして、今日もいつもと同じように他の子からの誘いを断ったことが窺える。
そんな事実に申し訳なさを抱えながらそこに座らせてもらう。
何回やってもこの気まずさは消えないけど、それを振り払うようにさっさとお弁当の蓋を開けて後戻りできない状況にした。
食べ始めれば、大丈夫。
だったのだけど――
「ところでご飯食べる前からアレだけどさ、今日の琴奈はなんか浮ついてるよね」
「え?」
タッパーに詰めたご飯とおかずを空気に晒しながら百音がそう発した。
意外な言葉に私は思わず白ご飯に伸ばしていた箸を静止させてしまった。
そして私よりも先に箸を取り出した百音がおかずのミニトマトに手を伸ばしながら続ける。その動きに躊躇いはない。
「朝からぼけーっとしてたでしょ。あの勉強の虫として有名な琴奈様が何もせずに遠くを眺めてるんだよ。遠くの方を見ることで視力回復させてます~くらいの気の抜け方だったよ」
あれ、そうだっけ。
でも確かに朝の予習が抜けてたような、やり損ねた課題があったような……
「だからわたしびっくりしちゃってね。…………どしたん、話聞こか?」
「そのネットスラング風の物言いはちょっと気持ち悪いかな」
「あははは、琴奈は相変わらず直球だねー」
という軽口を交えて話せるのが百音の人柄であり人間としての魅力だ。
二千花とは違う。あれはムードメーカーの比率が大きすぎる。
で、本題に戻らないと。
今日はぼーっとしてた? 自覚はそんなにないけど、ただ確かに行きの電車の中で電子書籍の実用書を読むという日課もできていなかった気がしてきた。というか休み時間何してたっけ。授業で出た課題は即座にこなすのが私の信条なのに。
…………
あれ、本当に気が抜けてる?
「言われてみれば、そうかも……」
「考え込んで食事を始められていないところも拍車を掛けていますねえ、うんうん」
「あ、いただきます……」
家で作り置きしていた炒め物と白ご飯だけが詰まったお弁当に今度こそ箸を伸ばす。そういえばもう三年以上代わり映えのないお弁当を食べているのか。
冷めても美味しくなるように色々と工夫したそれを口の中に放り込む。
ほんのり冷たい小松菜の食感に少しだけ物寂しい感じが募った。
「琴奈、一人暮らしも四年目に入ったんでしょ。慣れているとはいえ学業と両立しながら全部自分でやるのって大変じゃない?」
……つまり百音は私の一人暮らしの大変さを踏まえ、疲れが溜まっているのではないかと心配してくれているのだ。優しい、こういう気遣いも彼女のいいところだ。
その言葉を聞きながら考える。どうしてこんなに気が抜けているのか。
ただ、それは考え始めると案外すぐわかって。
「奨学金の枠に入るのも結構大変だと思うんだよね。返済不要枠って数人しか取れないやつじゃん? それに毎年滑り込んでるのは並み大抵のことじゃないよ」
私が答え損ねている間に百音の想像は進む。
確かにそれは楽ではないし、少しでも将来の貯金を増やすために毎年死に物狂いで進学用の奨学金を取りに行っていることはクラスメイトも大体知っている。この学校の授業料を免除されているのも全て学業成績の賜物である。そして中等部時代にその話をしてしまったのは他ならぬ自分である。
……というわけで、珍しくボケている理由を正直に話すのを躊躇った私は、その流れに乗っかることにした。
「それも一個ある。長く続けるって結構大変だよね」
「そう思うよ。あたしなんてさ、バスケめっちゃ頑張って遅く帰っても親がご飯作って待っててくれてるわけじゃん。お風呂も沸かしてくれるし、洗濯やってくれるし、朝ごはんも作ってくれる。それが無いって想像すると正直泣くかも」
「確かに家に帰るのが遅くなるほどその辺きつくなるよね。家事ってやっぱり時間取るし……精神的な負担っていうの? そういうのがある」
「わかる。義務感が押し寄せる感じ」
これは本心で、実際学校行事などの都合で帰宅が遅れると家事をこなすだけで二十二時とかになってしまい、そこから勉強を始めるので寝るのは深夜一時とか。去年の文化祭の準備期間は本当にきつかった……クラスの出し物の準備で十九時くらいまで残ってた気がする。
「というわけでわたしとしては琴奈のサポートを頑張ります! 委員長としては副委員長の健康に尽力しまして……」
「どういう理屈なのかな」
「委員長の仕事を時々丸投げしたいです!」
「自分でやってね」
「えー……」
それは仕方ない。委員長の仕事はあなたがやるものなのだ。
私みたいなコミュニケーションが苦手で人をまとめるような力に欠けた人間にはできないのだ。頑張ってね。私は裏方だけしてるから。
っていうかなんでこんな地味というか生真面目に見られがちな人間が副委員長なんてやってるんだろうね? どうしてこうなったんだっけ?
「わたしはちゃらんぽらんだからなー、真面目な人に任せたいこともあるんだよー」
あ、一瞬で回答が来た。
そうか、確かにそういう理由で選ばれた気がしないでもない。忘れてた。
話はそこから脱線していき、百音のちゃらんぽらんエピソードを掘り返して二人して遠い目になったり、すっとこどっこいエピソードを何故か本人から聞かされて不覚にも笑ってしまったり、このまま私たちの会話をどこかの雑誌で連載していいのではと思う内容で昼休みを消化した。
なお、「そういえば琴奈、昼休みに五限の予習するんだよね!? もう昼休み終わっちゃうよ!?」という百音の慌てた声で現実に戻り、英語の単語テストの準備を忘れたことに気付き、委員長と副委員長が揃って青褪めるという悲しい世界線に辿り着いたのだった。
ちなみに私は即座に単語帳を振り返ってざっと見たことで昨晩の対策した記憶を取り戻し、めでたく九割の点数を取って事なきを得た。百音は残念ながら赤点だったそうだ。天国と地獄。
そうして英語の授業をそれとなく聞き流しつつ肝心なところはちゃんと取り組み、続く六限の化学では周期表とにらめっこして暗記できないと嘆くクラスメイトたちを横目にさっさと脳内へ叩き込んで、突如始まった元素の略称を言わせるテストを一番手で終わらせ、終礼までの時間を落ち着いて過ごした。
日直と担任が淡々と進める終礼は三分でつつがなく終了し、放課後の教室は部活へ向かう生徒と誰かの席に集まって予定を話し合う生徒に分かれた。百音は風のようなスピードでバスケ部の部室に向かった。
そしてそのいずれにも属さない異常人間というのはごく一握りで、具体的には自席に残って今日出た宿題を進めている私くらいだった。
徐々に教室から人が消えていく。
中には私に声を掛けてくれる人もいて、勉強頑張ってねと笑顔で手を振ってくれる人もいる。ありがたいことだ。どう考えてもこの教室において異端であるこの私に、親切にしてくれる人がいる。
それから十分が過ぎると教室は残り数人になり、私以外に最後まで残っていたのは今日提出の課題を忘れていた運動部の人だった。そんな彼女も二十分後にはなんとか課題を仕上げたのかプリントを片手にダッシュで出ていった。職員室経由で体育館か校庭へ向かうのだろう。
そうして一人残った。
宿題を進めるにも、課題をこなすにも、予習を進めるにも最適な環境になった。
学校の中という緊張感のある環境で、かつ周りは静かなので邪魔が入らない。
そして目の前の問題集に没頭しながら、思考は別の課題とも向き合っていた。
朝から気が抜けていた理由。
それはもうわかりきっている。小春のことを考えているからだ。
昨日バイトを終えて帰宅し、お店の前で別れてから私はずっと彼女のことを考えていた。脳の中央にはいなくても、端の方で確実に居座っている彼女のことを寝るまで忘れられず、朝起きても数秒経った辺りで思い出し、家を出ても考えていた。
今頃彼女も家を出て学校に行っているのだろう。
高級住宅街にお住いのお嬢様であるからして恐らく私よりもよほど成績もよく、恐らく雲の上の宮殿じみた女子校に通っているのだろうと勝手に想像を繰り広げた。
電車で吊革に手が届くのだろうかと失礼な心配をしたり、学校でのコミュニケーションは大丈夫なのかと自分を棚に上げてもっと失礼な心配をした。二千花みたいな暴走列車に困っていないかと思ってしまったのだ。
昨日見た二度目の笑顔は一度目よりも遥かに鮮明に脳裏に焼き付き、もはや脳内スマホの写真フォルダに保存され、むしろトップ画面の背景にされている。
あの笑顔も忘れられない要因のひとつだし、もっと彼女のことを知りたいという気持ちも頭の中で渦巻いているし、想像は止まらない。どうしてここまで彼女に執着してしまうのかをわかりかねて困りつつ、ついでに彼女と自分を比較してしまうのも思考が加速する原因になっている。
彼女は自身を指して人と接する経験が足りないとか想定外の事態が苦手だと言っていた。でもそこを克服しようとバイトを始めたのだ。とても偉い。
それに比べてこうしてクラスから浮きかけている自分は、人との関わりを端から避けることで想定外の事態に遭遇しないように対策してしまっている自分はなんなのだろう。ダメな気がする。格好悪いとも言える。
そういう自分のダメなところがなんとなく思い出されるのだけど……
それこそダメだ。これじゃ勉強に集中できない。
今の暮らしをちゃんと続けるために頑張らないと。
そう言い聞かせて宿題を高速処理し、今日の授業の内容の要点をノートに書きこむことで復習とする。そうしたら次は明日の数学の予習を進める。理系はどちらかといえば苦手なので予習の質と量が肝要だ。
机の中からノートや問題集をとっかえひっかえし、鞄の中にしまっておいた教科書も時折取り出しつつ、理系科目メインで取り組む。やることは多い。
そのうち窓の外で日が傾いてくるけれどそれも意識の外に放り出して、流石にもう陽が暮れるというところで荷物をまとめて教室を出た。部活が終わったばかりの運動部の生徒たちと下駄箱ですれ違いつつ、茜色が沈みかけた空の下を歩く。
歩いている時って気が紛れて好きだ。
止まっていると何か別のことができるんじゃないかと思って、勉強した方がいいかなとか思っちゃう。その点歩いている時は歩くことと考えることしかできない。その思考も夕陽を見て綺麗だなあと思っているとどこかに飛んでいく。
そこから電車で二十分弱を掛けて最寄り駅まで。
各駅停車に乗れば退勤ラッシュの混雑も大したことはない。
駅に着けばあとはスーパーマーケットで買い物をして、数分歩いて帰宅。
家まで近いのは本当に助かる。
家はマンションの最上階で、エレベーターから降りた先は暖かな色の壁紙をしたフロアと郊外の方を見渡せる眺望がいつもと同じように私を迎え入れた。
自宅に踏み入れればそこはただひたすらに静かで、この静けさが妙に落ち着いてしまう自分は社交性を失くしてしまったのかもしれない。まずお風呂を沸かし、荷物をしまって、夕飯の冷凍弁当をレンジで温める。
テレビはない。リビングの小さなテーブルを見守るものは時計とキッチンと収納だけ。そこにお弁当とコップに入れた緑茶を並べる。私の夕飯はこれで終わり。
ここまで来ればようやく落ち着く。
学校と勉強と家事に追われる暮らしからわずかに解放される時間だ。
でも、ここ最近はそこまでの幸福感はない。
去年の今頃は一人で過ごせて幸せだなって思ってたわりに、だ。
その事実に目を背けながら弁当の中で温かくなった小松菜を食べる。
温かい割に無味乾燥というワードが脳裏を過ったのはこのアンニュイな思考のせいか。本当にこの落ち込みはよくないのだが、どうも最近は消えてくれない。
私が今日ぼけっとしていた理由の一つはこの空しさもあるのかもしれない。
なんとも悲しい自己分析を慰めてくれるのはいつもの緑茶の味だけだった。
――その時だった。
スマホが突然通知音を鳴らした。
この一年間、宅配業者のSNS連携以外で鳴ることのなかったスマホが突如発したその音に私はビクッと飛び上がってしまった。ポケットの中でわずかに振動したそれを急いで取り出す。
そして、通知画面に出ていたバナーに私は驚きつつ不思議な喜びを感じた。
「1件の通知があります 仙谷小春:琴奈、お疲れさまです。来週の土曜日、歓迎会に参加しても大丈夫と親に言ってもらえました。よろしくお願いします」
そう、私は昨日、とても久々にSNSのアカウントを人と交換した。
今最もメジャーな連絡用SNSを小春もやっていると知り、交換しておいたほうがよいだろうと双方同意した。むしろその行為に緊張していたのは私の方だった。
ところがどうだ。こうして連絡を受け取ってみると、無性に嬉しいような喜ばしいような満ち足りるような不思議な感覚に包まれる自分がいた。勇気を出して交換してよかったと思った。
その文面は二千花が提案した歓迎会に無事参加できることになったという内容で、いわば事務連絡である。参加する予定の人たちに主役がちゃんと参加できるという大事な事実を伝えるための。そういうものに相違ない。
もし小春が私以外ともSNSのやり取りをできる状態であれば、その人たちにも送っているだろう。特に二千花については私の知らぬ場所で交換済みかもしれない。
なので、これは私に対して何か特別な用事があって送ってきてるわけではない。
なのに、私はどうしてか舞い上がってしまった。
その文面を何度も読み返してしまった。どんな気持ちで、どんな場所で、どんな顔をしながらこの文章を打っていたのだろうと考えてしまった。もしかして彼女も私のことを何かしら考えてくれていたのだろうか。
オーダー用のスマホの操作が手慣れていた様子からして、日常生活でもスマホは常用しているはずなので、この文章を打つにもすぐに終わったんだろうな。スケジュールアプリも使いこなせるみたいだし、私よりよほどスマホを便利に使っているんだろうな。見た目でなんとなく苦手そうとか思うのはダメだよな。
結局、スマホから顔を上げた頃には弁当はすっかり冷めてしまっており、慌ててレンジで加熱し直した。コップに残った緑茶も黙りこくっている。
そこで私は小春のことをここまで考えてしまっている自分に気付き、今日はもう本当に重症なんだなと思った。家に帰ってきてもこれで、連絡が来たらこのテンションの上がりよう。自分らしくないと思う、こんな状態。
そしてとりあえず夕飯を消化し、弁当の容器をゴミ箱に捨て、お口直しのミネラルウォーターをテーブルの上に置いた状態でスマホに向かい合う。
さて、なんて返そうか。
「わかりました。連絡ありがとう」
これだと素っ気ないか。冷淡なやつって感じがする。
「連絡ありがとう! 親御さんもOKしてくれてよかったです!」
これは人様の家庭事情に突っ込みすぎか。ダメだ。
うーん、どう返事すればいいんだろう?
SNSで誰かとやり取りをするなんて久々すぎてどうやってたか覚えていない。
悩む。でも私が嬉しいという気持ちはちゃんと伝えたい。
と数分間悩んだ結果、「了解です! 連絡ありがとう。当日は楽しみにしてます!」に落ち着いた。SNSが苦手なタイプであることが見え隠れする文章だが仕方ない。思い切って送信ボタンを押し、そこで私はようやくスマホから解放された。
あとはお風呂の前に軽く有酸素運動をこなして、そうしたら入浴を済ませて、寝る前にもう少し勉強をして。……うん、これでいい。
さて、じゃあ日課の運動の準備をしよ――
ピコンッ!
ひゃっ!? えっ、また通知!?
こ、今度は何? 次こそ宅配業者の配達連絡?
……と慌てながら画面を見ると、
「1件の通知があります 仙谷小春:(1個のスタンプ)」とあった。
急いでアプリを立ち上げるとそこには――
「……わっ、可愛い、これ」
デフォルメされた可愛らしい猫ちゃんのスタンプが届いていた。
にこっと笑顔を浮かべた三毛猫の頭上に「ありがとう」の文字が並んでいる。
……えっ、もう返事をくれたの?
私が返信してからわずか数十秒である。
もうスマホの前に張り付いていたとしか思えないレベルの反応速度だった。
その瞬間「もしかしたら彼女も私の返事を楽しみにしてくれていたのか」という都合の良い想像が浮かんだが、あまりにも自分に甘い想像だったので打ち消した。
ただ、そこに更に返事を重ねると気を遣わせてしまいそうだったので、既読だけを付けてそこでスマホを置いた。
ちなみにその後の有酸素運動は普段よりも身体が軽く、調子に乗って普段の倍以上の時間取り組んでしまったのは自分でも意外だった。小春パワーだろうか。すごい。画期的な新エネルギーの発明かもしれない。
というくだらない冗談が浮かぶほど私は浮かれていた、というわけだ。
―――
琴奈から返事が来た。
……とっても嬉しい。
もしかしたらこの程度で連絡をしたらダメなのかなと怖い気持ちもあったけど、勇気を出して送ってよかった。こちらに気を遣ったのか、元気な雰囲気のある文章で返って来たのも琴奈っぽくていいなと思った。
スタンプは前から好きな三毛のやつを返してみた。
可愛くて好きなキャラクターなのだけど、ちょっとわたしの印象と違うかなと思って誰にも送れていなかったスタンプ。
それには返事が来なかったけど、琴奈ももしかしたら不用意に返事をしすぎるのを避けているのかも。きっとそうで、スタンプ自体は喜んで受け取ってくれているように思う。だってスタンプを送った後の既読はほんの十秒ほどで付いたし。
琴奈はわたしからの連絡をどう思うのかな。
嬉しいと思っていてほしい、とわたしは思う。
少なくともわたしは琴奈からの返事を嬉しく思っている。
こういうSNSのやり取りはほとんど経験がないからわからないけど……
そういうことも思考しつつ、今日は琴奈のことを考えながら眠ってみることにした。




