十八
『そういえばさ、明日のシフトの後、うちに泊まりに来ない?』
「えっ、ほんと? 行きたい」
『じゃあ決まりだね。バイト終わったらそのまま一緒に帰ろう』
「了解。一泊分の着替えとか持って出勤するよ」
金曜日の授業を終えたその日の夜、私は小春と通話していた。
夕飯を食べ終え、日課の有酸素運動を済ませ、お風呂も入った後。
つまり一番心安らぐタイミングで小春から連絡が入り、すぐに通話を始めた。
金曜の高揚感は小説にすれば全読者をハッピーにできそうなものだけど、そこに恋人との会話なんていうとびきり嬉しいものが追加されたら高揚どころか暴走しかねない。しないけど。
ともかく一週間勉強を頑張った甲斐があった。
まあ、実は毎晩通話してるんだけどさ。
『あとね、明日はうちの母が家に帰ってくるんだけど』
「そうなの?」
『うん。つまりこれは実家挨拶のチャンスだよ、琴奈』
「いや、別にまだ結婚すると決まったわけでは」
『……わたしと結婚したくないの?』
「い、いや、したいよ。したいけど、まだ年齢的にさ、もうちょっと先かなって」
『でも三年後だよ? 今のうちに義理の母親と関係性作っておこうよ』
「小春はお母さんのことを『義理の母親』って平気で言えるタイプなんだ……」
『琴奈から見れば事実だからね』
「その冷静さがすごいと思うけど」
という小春のちょっと冷たくて面白いところなんかも味わいつつ、毎晩色々と話をしていたわけだ。
主題は私の人生についてで、自立後にしたいことを何も考えていなかったという恐ろしい現実と少しずつ向き合っていこうと話をしている。いきなり考えるのは大変だから、まずは自分の人生を振り返りつつ、とのこと。
……もしかして小春は心理療法士なのかな?
実際、今から何か考えろって言われても無理だし、この現実を認識したことで、正直勉強に力が入りきらない自分がいる。なんのために勉強を頑張って来たんだろうって悩んで手が止まる。
小春はそれもしっかり聞き届けて、優しくアドバイスしてくれた。
『自分を追い詰めるほど勉強するのはやめていいよ。でも、勉強って継続する力が鍛えられるし、学ぶことの面白さもあると思うし、あと単純に成績が良ければ大学進学の選択肢も広がるでしょ? だから、無理せずにできる範囲で頑張ればいいと思う。勉強をして悪いことなんてないよ』
って、言ってくれた。
もうすごいよね。その言葉だけで心が落ち着いたもん。
だから、勉強の時間はちょっと減らしたけどそれなりに力は入れてるし、授業を受ける時もちょっと肩の力を抜いて受けてみようって意識してる。
そうするとちょっと楽になるんだよね。
絶対に良い成績残さなきゃって気持ちが少し弱くなった。
『両親には琴奈のことは話してあるから。デートの前とかも、その子を大事にしなさいって二人とも言ってくれたんだよ。だから半分くらい公認だよ』
「外堀が埋められてる……」
『土台を築いてくれた、って言ってほしいな』
「小春は手練れの策士なんだね」
『褒めてくれてありがとう』
「…………」
ねえ、この人って同い年だよね?
なんでここまで人間としての手回し能力に差が付いたの?
ところで手回し能力ってなんだろう。まあなんでもいっか。
そう思うと小春ってすごく達観してる。
私にこうして適切なアドバイスをくれるところもそうだし、両親のことを遠ざけるでもなく冷静に人間として観察しているところも。
小春は、学校では話し掛けづらい人だと思われて、雰囲気からして丁寧に関わらないといけないと腫れ物扱いをされている。そういう環境が、小春に対して必要以上の俯瞰視点や人間観察の能力を与えた。いや、伸ばさせた。
そして言うまでもなくお嬢様だから、相当高度な教育を受けているだろうし、家族や周りからの期待は絶対に高い。少なくとも私なんかよりは余程期待されている。
そのプレッシャーや責任感が、小春を異常なまでに達観した子供に育てた。
たぶん、そういうことなんだと思う。
でなきゃ私の重大な欠陥を見抜いて、そこから助けることもできなかっただろう。
そう考えると、私も何か小春に恩返しをしたい。
私が小春に救われたように、小春も私が相手なら思っていることを正直に言えたりとか、これまでの人生で大変だったことを愚痴ってもらうとか、そういうことができたらなって思う。お互い支え合ってこそ恋人って言うんだと思う。
……じゃあ、そこは小春と話をする中で糸口を探してみようかな。
―――
「え~っ、今日もお泊まりするの~!?」
「はい。うちの親に琴奈の顔を見せるのも兼ねて」
「小春ちゃん……猛獣なんだね~~……」
「紬さんの方がよっぽど猛ってると思いますよ」
「私もそう思う」
「ふたりともひどい~」
という感じで紬さんにも私たちの関係を伝え、ついでに今晩は小春の家でお泊まりという件も話したところ、小春が軽く引かれていた。
シフト終了後の開放感に満ちていた紬さんは、付き合い始めたという報告には嬉しそうに微笑みながらお祝いしてくれたが、今晩も泊まると言った途端に困惑し出した。
「え~……だってお泊まりってそれもう、不健全な夜になるんじゃ……」
「なりませんよ。不健全な夜は当然成人後の話です」
「成人後には私と不健全な夜を過ごすつもりがあるんだね」
「もうそこまで想定してる小春ちゃんが怖いよ~~……」
「人間の生理的欲求から目を逸らそうとするのは甘い考えですね」
「ひっ、怖い~~……」
「制御が難しいからこそしっかり向き合って考えることが必要です」
「ねえ小春、なんでお泊まりからこんな話になったの?」
「紬さんが余計なことを言うからだね」
「ひぃぃぃ……琴奈ちゃんたすけて~~……」
小春の目が笑ってない。微笑んでるのに目だけ死んでる。
やばいな、この状態を相手にしたくはない。
……ともかく、あの紬さんに引かれるというのは中々の出来事だ。
毒舌の神、皮肉の天才とまで称された紬さんに、ドン引きまではいかずとも一定程度引かせたのだ。小春のメンタルの強さが垣間見える。
そういうわけで怯えながら帰り支度を済ませてさっさと出ていった紬さんを見送り、私たちは帰宅前に今晩のお泊まりの段取りを再確認する。
今日は小春のお母さんが自宅にいらっしゃる。
ということは訪問してすぐにご挨拶になる可能性が高い。
それに備えて私はお土産のお菓子を購入しておいた。
元住吉駅の近くに綺麗な和菓子屋があるのでそこで昨日のうちに買っておいたのだ。お高かったけどそこは覚悟を決めた。これを手土産とする。
あと、夕飯は麻子さんが作ってくださることと先日我が家に来てくださったお礼を兼ねて別途用意しておいたお菓子(同じ店の別商品)をお渡しする。
その後は小春の先導でお風呂を済ませ、それが済めば後は小春の部屋で気兼ねなくゆっくりできる。うん、完璧だ。
「これでいいね。琴奈の実家挨拶、つつがなく進行させなきゃ」
「なんで私の挨拶が入学式みたいな扱いになってるの?」
「記念すべき行事には違いないよ」
「本当かな……」
小春はやけに張り切っている。そんなに楽しみなのかな。
ただ、これぞ満面の笑み!って感じでにこにこと笑っているので本当なのだろう。
ただ、その表情は休憩室とホールを結ぶドアが開いた瞬間にさっと消えて―
「二人ともお疲れ様ね~」
「あ、お疲れ様です」
「お疲れ様です、店長さん」
店長がぴょこっと顔を出した。
経営なんてどう考えても大変だろうに、こうしてバイトのことを気に掛けてくれるのは本当にありがたいことだ。出勤時も必ず毎回顔を出して連絡事項を共有してくれる。
「いや~、仙谷さんが来てくれたお陰でシフトも上手く回るようになったし、素敵なピアノでこのお店にも彩が増えたし本当にありがたいわね」
「いえいえ。こちらこそありがとうございます」
「うんうん。この調子ならもうそろそろシフトを二人回しにしてもよさそうね?」
「そうですね、小春はもうすっかり仕事に慣れたので大丈夫だと思います」
これまでは小春が入る時は必ず私がいて、プラス二千花か紬さんのどちらかが入り、計三人体制にしていた。慣れていない小春に万一のことがあっても対応できるように、という意図だ。
だが、ここまで慣れてくれば小春+誰かもう一人の体制にしても大丈夫だろう。
そうすれば四人のバイトに対して、土曜日二人・日曜日二人で半々に分けることができ、全員が土日いずれかの休みを取れる。平日が学業で埋まっている高校生としては大事な話だ。週七日労働or学校は重い。
「じゃあ来月のシフトから二人体制で組んでみるわね」
「はい、お願いします」
「ちょっと今のうちにスマホにメモして…………完了っと」
うーん、私は小春と一緒に働ける時間が減って寂しいんだけど、これは仕方ない。
あと、お店の給仕服姿の小春はすっごく可愛いからそれを見れる時間も減るのが悲しい。小春に失礼を承知で言うと、癒し要素なんだよね。可愛いって癒しなんだよ。
しかも、小春の綺麗な黒髪でツインテだからね、可愛い、最強。
なのでそれを摂取しづらくなるのは困る。
もういっそ副店長にお金払ってこの給仕服をもう一着作ってもらって、家で小春に着せようかな。それってもう私の心の健康を保つための支出だよね。つまりこれは医療費だよね。生きるために必要不可欠な出費だよね。バイトの収入を使うこともやむを得ないよね。うんうん絶対そうだよ間違いない。
と思ったら、そんな癒しの牙城を崩しかねない発言が店長から飛び出て――
「ところで仙谷さん、たまには髪型を変えてみるのはどうかしら」
いやちょっと待て、私の心の癒しの小春ツインテールを奪わないでほしい。
最高に可愛いんだよ。これを雇用者権限で奪うのは法律違反でしょ。
「そうねー……大人っぽいのも見てみたいしハーフアップとかどうかしら?」
あっ、ちょっと見てみたい……ってストップ! 見たいけど変えるのはストップ!
見るだけならいいけど! 一時的にね!?
ほら、小春っ、私の心をいい感じに読み取って反論して――
…………って、あれ、小春?
小春が、黙った。ちょっと俯いて、何も言わなくなった。
――この様子に、見覚えがある。
小春が俯いて押し黙った姿を、私は何度か見たことがある。
何回だったかは覚えていない。でも、その表情だけははっきり覚えている。
少し立ち位置を変えて、小春の顔をできるだけ前の方から見てみる。
瞳が何かに怯えるように揺れ、唇がきゅっと結ばれて、でも何度かひゅっと息を吸い込んで、また固く閉じる。頬が硬直したように見えた。少しだけ青褪めているかもしれない。瞼が落ちそうになる。悲し気に眉尻が下がる。
私がこの表情を一番近くではっきりと見たのは、小春の部屋に泊めてもらった時。
あれはなんだったっけ。確か、家に人を呼んだことがなくて意外、みたいな問いかけをした時だったと思う。
あの時みたいに小春は黙って、十秒過ぎても、二十秒を経ても、三十秒を越えても、何も言わずに黙ったまま。
店長は何も言わずに直立したまま何かを考えている。
すぐに何かを言おうとしないのは、大人の熟慮なのか。
その表情をこうしてまた見つめている。
でも、前の私だったら気付かないことにも気付いた。
小春が、一瞬だけ何かを喋ろうとしていた。
息を吸い込んだ後、わずかな瞬間だけ口が開いていた。それはたぶん何かを言おうとして、でもそれをやめたってこと。
そして私は悟った。
ここが小春の心の穴だって。私が自分の未来を考えられないくらい必死になっていたのと同じように、小春にもどうしようもない心の淀みみたいなものがあるんだって。
だってさ、あんなに聡明で賢くて達観した子供なんて、本当はいるわけないじゃん。
完璧な大人すらほぼ存在しないのに、子供のうちにその境地まで届く人なんているわけない。絶対に、どこかに、心の穴がある。自分では埋められないものが。
私は、できるだけ長く、はっきりと、小春のその表情を目に焼き付けた。
この表情がきっとヒントになるんだって思った。
そして、一分が過ぎたくらいで私から止めに入った。
小春が悲しそうな表情をしているのを必要以上に観察するのは辛い。
「えっと、店長。小春は結構怖がりなところがあるので、いきなり何かを変えるっていうのはやめておいたほうが良いと思います。ほら、急に髪型を変えて学校に行ったら、周りから揶揄われたって経験ありません?」
咄嗟に出てきた説明がこれなので、小春は私を褒めた方がいい。
フォローの方法としてはかなり上出来だったよ。
その言葉に、何かを考え込んでいた店長もゆっくりと口を開いて――
「そうね…………うん、そうだわ。仙谷さん、いきなり提案しちゃってごめんね?」
「……あ、いえ。こちらこそ、なんだかすいません」
「小春は私に似ててちょっと内向的なところがあるから、急に変えるとかって抵抗感があると思うんだよね。かくいう私も普段の髪型なんて中学の時からずっとハーフアップのままだし。そういうものだと思うよ」
「そ、そうだね。ありがとう琴奈」
無事にその場を乗り切った。
店長は色々と思うところがあったのか、あるいは小春に気を遣ったのか早めに切り上げて事務所へ戻っていった。大人な対応だと思う。見習いたい。
そして私もあまり刺激しないようにさっさと控え室に戻って着替えを済ませる。
あとは休憩室で荷物のチェックをして、努めて平静に小春を待つ。
こういう時は敢えて実家挨拶のことを考えて思考を逸らす。
なんて言おうかな。小春さんにはいつもお世話になっております、でいいかな。すごくビジネスっぽい気がするけど……でも、それ以上に良い言い回しが思いつかない。
お土産のお菓子は紙袋に入れて準備したし、うん、OKだよね。
……結局、小春の準備が整って店を出たのは二十分くらい経った後だった。
―――
「は、初めまして。夏谷琴奈と申します」
「こちらこそはじめまして。小春の母の仙谷 悠里です。今日はよく来てくれましたね、琴奈さん」
「い、いえっ、こちらこそ歓待いただき感謝です。……あ、あの、こちらささやかなものですが、よろしければ」
「ありがとうございます。では頂きますね」
じ、実家挨拶ってこれで合ってるのかな……だ、大丈夫だよね?
緊張して何度も噛んでるんだけど、これ、変な奴とか思われてないよね?
小春のお母さんと向かい合ってリビングで挨拶してて、その背後の台所に立っている麻子さんはグッジョブって右手でサインを送ってくれてるから、たぶん大丈夫ってことだよね。で、小春はフォローしてくれないの?
「アルバイトの後でお疲れですよね? お茶を用意しますので座ってください」
「あっ、ありがとうございます」
「小春も一緒に座って?」
「はい。母さんも座ってください。せっかく琴奈と話す機会ですよ」
「そうね、小春の言う通りかも」
あっ、やっとフォローしてくれた。このまま放置されるのかと思った。
麻子さんはお茶準備してくれてる。ありがとうございます。
にしても優しいお母さんだなあ。
丁寧で優しくて、でも小春にはちょっと砕けてて、素敵だなって思う。
まあ私は世の中の「一般的な親」を知らないから感性にズレがあるだろうけど。
にしても、そうかあ、この方が小春に向かって「その子を大事にしなさい」って言ってくれたのか。すごいなあ、娘が急に恋人できたらきっと警戒するだろうに。それくらい子供のことを信頼してるってことか。すごい。
「琴奈さんのことは小春から聞いています。小春が信頼をおいて一緒にいられるほど素敵な方と聞いて、一体どんな方なのかと楽しみにしていまして」
「は、はあ。お眼鏡に適っていれば嬉しいです」
「母さん、今日の琴奈は緊張してよそ行きモードなのでだいぶ固いです」
「小春……私頑張ってたのにネタバレしないで……」
「ふふっ、小春がこんな風に揶揄える子を見たのは初めてです」
あ、良い感じにまとめてくださった……
小春の小悪魔パワーが発揮されているのを見事に収拾するその手腕に感謝……
「琴奈さん、小春の気質や性格についてはある程度ご存知ですか?」
「はい。本人から話は聞いていますし、接していて想像できるところもあります」
「そうですか、それは助かります。……お分かりの通り、小春は元々内向的な子で、あまり人と関わることが好きではないタイプなのですが」
「母さん、本人の前で言うことじゃないです」
「ああ、ごめんね? でもせっかく琴奈さんがいるから……」
小春、そういえば親御さんにも敬語なんだね。
「本当は親である私や夫が小春の近くにいて見守らないといけなかったのですが、仕事の都合でどうしてもそれが難しい日々を送ってきました。……なので、こう言っては親失格かもしれませんが、琴奈さんが小春と出会ったくれたことが有難いんです」
「……なるほど」
「母さんは本人の前で赤裸々に語り過ぎですが、琴奈と出会えたことがわたしにとって非常に大きくて、重要であることは間違いないです」
「――小春、大人になったのね」
「…………母さんも父さんも家にいないので自然とそうなりました」
小春、親御さん相手にも結構ストレートに言うんだね。
「小春が一緒にいてもいいと思える、そしてこうやって家まで来てもらって、一緒に眠ってもよいと思える方がいるということが奇跡的です。琴奈さん、ありがとうございます」
「い、いえいえ、こちらこそ小春さんには助けてもらってますし、もはや私の専属アドバイザーみたいなところもありますので…………え、えっと、ともかく、小春とはお互いに支え合って過ごしていきたいと思っています」
「……あ、そうだ琴奈。母さんにも琴奈の来歴をしっかり説明した方がいいかも」
「あ、そうだね。じゃあ小春から掻い摘んで説明してもらえれば」
「わかった。じゃあ生々しいところはカットしておくね」
小春、生々しい部分が存在することは言わなくていいんだよ……
とまあ、小春の方から私の生育歴や今の生活について簡単に説明してもらい、もし何か緊急のことがあれば自分の貯金を切り崩して支援するという意志も本人に語ってもらった。
私としては過去のことを引き合いに出して同情を求めるのは良くないと思ってたんだけど、今の生活という現実を共有する上では避けて通れなかった。
ただ、小春のお母さんもその辺りは過剰に入れ込まずに聞いてくれたので安心。
「というわけで、大学進学を機に琴奈と同居する形を考えてます」
「いいわね。私は賛成よ、小春」
「琴奈は言うまでもなく賛成だよね? わたしと同棲したいよね?」
「…………したい、です」
「はい。この通り琴奈の承諾も取れてます」
「小春、こんなにも前向きに人と関われるようになったのね――」
「琴奈との相性がばっちりだからです」
……なんかこの親子の会話が漫才に聞こえてきたなあ。気のせいかな。
ただ、漫才じゃないと再認識させられたのはその少し後だった。
小春が私を連れて部屋に行こうと席を立ったその時。
小春のお母さんから、一言だけそっと声を掛けられた。
「琴奈さん、少しお話ししたいから二十二時にここに来てもらえますか?」
その声色は決して軽いものではないと感じた。
大事な話があるのだと感じた。
だから、私はこくりとひとつ頷いてその場を後にした。




