十五
「ええと、いらっしゃいませ」
「お久しぶりね、琴奈ちゃん」
「こ、こちらこそです。どうぞお上がりください……」
結局夕方五時頃に小春は戻ってきた。
宣言通り麻子さんを引き連れて、手には大きな鞄と買い物後のショッピングバッグを持って、やけに神妙な顔をして、でもさっさとテーブルに荷物を置いていた。二回目にしてもうこの家を自分の部屋の一部と認識し始めたのかもしれない。
もはや動きに躊躇がない。
部屋ごと格下だと思われていてもおかしくない。
「麻子さん、今日はここに一泊しようと思うので、一応やましい要素がないかだけ見てもらえるとありがたいです」
「わかったわ。ご両親を説得できる程度のチェックでいいのね?」
「はい、まさにそうです」
「…………なんだかわかりませんが、どうぞご自由に見ていってください」
二人用の小さなテーブルに一個だけ備え付けた椅子に座り、小春は腕を組んで黙って目を閉じた。映画監督のようだなと思った。
「琴奈ちゃんごめんなさいね? あの子の親御さんは心配性だから、娘がどこかに泊まるとなると気にしちゃうのよ」
「い、いえいえ。大丈夫です。小春の安全のためにも大事なことだと思うので」
「そう? ありがとうね。じゃあちょっとだけ部屋を見せてもらうわね?」
「はい。寝室はそっちで、廊下の方に水回りがまとまってます」
「わかったわ。拝見するね」
麻子さんは前回会った時と同じように丁寧で優しい人だ。
小春が信頼するのも頷ける。
そして私もこの人に部屋を見られるのは別に構わないと思った。
プライベートの要素はほぼない。服の収納以外はどこを見られても大したことはない。下着は流石に見ないでほしいけど。
と多少身構えていたものの麻子さんのチェックは簡易的で、部屋全体をなんとなく見回して、水回りも各所のドアを開けて軽く眺めたくらいだった。それでいいのだろうか。まあそれほど調べるものもないか。
「そういえば琴奈ちゃん、お家は物が少ないのね」
「あっ、はい。身軽な方が好みなので物も少ない方が好きでして」
「……そうなのね。いやあ、私は料理が好きなものだから台所に物がないと妙に気になってしまってね。職業病だから気にしなくていいわ」
「あぁ、確かに料理はしないので包丁もまな板もありません……」
「調味料すら置いていなくてびっくりしちゃったわ」
「あはは……」
言われればそうかも。料理道具・調味料ゼロっていうのは意外と珍しいかも。
自炊しない人でも醤油くらいは持ってそうだよね。
もう本当に物が増えるとストレスだから要らないし……
必要になれば小袋のものを都度買う。
「ちなみに、冷蔵庫って中を見てもいいかしら」
「はい。大丈夫です、けど……」
「そう? じゃあ失礼ながら拝見するわね」
麻子さんが冷蔵庫の扉を開ける。
上に電子レンジが乗っかった背の低いその家電の上半分を覆う扉。
そして、わかってたけど麻子さんは見事に口を半開きにして固まった。
だよね。そうだよね。だって入ってるのはお茶とオレンジジュースと作り置きのお弁当だけだし。うん、知ってた。そりゃあ黙り込むよね。
冷凍庫も見てもらったけど、とはいえ入ってるのって週一で届く冷凍弁当と白ご飯のストックだけだし。
結局見終わった麻子さんは何事もなかったかのように微笑んでリビングへ戻っていった。多分あれは笑みが引き攣りそうなのを熟練の技術でごまかしたやつだ。
「小春ちゃん、見終わったわよ」
「どうでしたか? やましいものは隠れてませんでしたか?」
「何もなかったわよ。本当に何も……なかったわね」
小春はその調査報告に納得したように頷いた。
麻子さんを前にして腕を組んだままというのが、小春にしては意外な気がした。
「なら大丈夫です。ありがとうございました。では今日は泊まりまして、明日はそのままバイトに行き、夜に帰ります。両親がそれまでに家へ戻ってくることはないと思いますが、もし聞かれたら琴奈の名前を出して説明してください」
「了解よ。健全なデートって言っておくわね」
「不健全なデートにはまだ早い年齢です」
「ふふふ、そうねえ」
なんだ。小春は私と不健全なデートをする気があるのか。
私は別にそういうのは求めてないんだけど。
というツッコミが脳内をぐるぐる巡るのを追っている間に、麻子さんは少ない荷物をまとめてリビングを出ようとしていたので慌てて追いかける。
身内である小春は椅子に座ったまま優雅にお茶を飲んでいて動きそうにないので、私は家主としてお帰りになる方を見送らないわけにはいかない。廊下へのドアを開け放ち、先回りして玄関のドアを開錠しつつ振り返る。
「あら、琴奈ちゃん、そこまでしなくていいのよ」
「いえいえ。せっかく来てくださったのでお見送りもちゃんとしないと」
「……そう、じゃあお言葉に甘えて」
スニーカーを履いて外に出つつドアを開く。
麻子さんが外に出たところで、一瞬目が合った。
その目が、なんだか慈しみと不安みたいな相反する気がする二つを同時に見せていたような気がして、私はハッとする。
「琴奈ちゃん、小春ちゃんのこと、お願いしますね」
「はい、わかりました」
「――それと、琴奈ちゃんも」
「……私も?」
「……いえ、なんでもないわ。じゃあ後はお願いするわね」
その目の見せたものを掴み切れないまま、私は麻子さんを見送った。
部屋に戻っても、その不思議な何かが頭の片隅に残っている。
残っているんだけど、それ以上に小春が我が家に鎮座している光景が目新しすぎてそっちに気を取られてしまうというか――
「琴奈、とりあえず最初に訊いていいかな」
「う、うん」
「ご飯ってどうしてるの」
「え、朝はパン食べて、昼は作り置きの弁当を教室で食べて、夜は冷凍弁当で」
「それ以外は?」
「え、何もない、けど」
え、まさか最初から食生活テスト?
そんなこと言われても、これで栄養バランスは大丈夫だと思うし……
「人生に必要なエネルギーが補充できているのなら否定はしない。しないけど、炭水化物ってあんまり摂ってないでしょ」
「ないね」
「野菜は食べてるけど種類は多くないでしょ」
「ないね」
「果物とか全然食べてないでしょ」
「ないね」
ないね。ないねを三回も繰り返したのは人生で初めてだよ。
「別に食べなくても生きていけるし。量は多いと辛いし、野菜も果物も高いし」
「そうかもね」
私の回答を聞きながら、小春は手元の買い物袋をごそごそと漁っている。
そういえば食事は買ってくるって言ってたな。
「でも、それを考慮しても琴奈の食生活は悲惨だよ。人間としての文化的で健康的な生活を送れていないレベルには悲惨」
「えっ、そんなことないでしょ」
「それは琴奈の悲惨の基準が低すぎるだけ」
と言いながら買ってきた食べ物をどさどさとテーブルに並べていく。
綺麗な果物のカットフルーツが何パックも。
いかにも健康に良さそうな多品目サラダ的なものが二つ。
ホワイトグラタン、具沢山のミネストローネ、上質そうなコロッケ。
お高めのスーパーで買ったんだろうって見た目だけでもわかる。
「というわけで今晩と明日朝は琴奈に健康的な食事をさせるから。冷蔵庫使わせてもらうね。台所も借りる」
「……え、あ、はい、わかりました」
「琴奈はとりあえずこのメロンかパイナップルのどっちかを一パック食べ切って」
「は、はい」
「残したらダメだよ」
「…………さ、さようですか」
そう言い残して大量のお惣菜と共に台所に向かった小春。
なんだか逆らえる雰囲気でもなかったので、言われるがままパイナップルのカットパックを開けて、中に入っていたピックで適当に刺して食べる。立ったままだけど。
にしても果物を食べるなんて何年ぶりだろう。
小学校の給食が最後かもしれない。
…………
あっ、美味しい。
パイナップルってこういう感じだったよなあ。一瞬酸っぱくてその後甘いの。
この味がなんだか懐かしいとすら思う。
よくわからないけど、手が止まらなくて次々と口に運んでしまった。
あれ、もしかしてこれは私の身体がビタミンに飢えていたってこと?
だから小春はとりあえず食べろって命令してきたのかな。
ゼリー飲料とかでビタミンは摂取していたつもりだったけど、どうやらそれでは不足だったらしい。反省。摂取量の計算をし直さなくては。
気分的にはカットメロンも食べれそうだったけど、夕飯もあるので我慢しておく。
そうこうしているうちに小春がお惣菜を皿に盛り付けて戻って来た。
あ、我が家に二つしかない皿のひとつがサラダに占拠されている。
「琴奈、どうしてこの家にはお皿が二つしかないの?」
「なんでって、使わないし。ご飯をよそう深めの容器と、パンを並べるお皿があればそれで事足りるでしょ?」
「…………そうだね、そうかもね」
あとはお箸とスプーンとフォークとマグカップ。これで十分。
生きる上で必要なものはその程度だと思うけどなあ。
「今晩はグラタンとミネストローネがあるけど、琴奈はグラタンを食べてね」
「指定された……」
「琴奈はいい加減炭水化物を摂らないと」
「えぇ……そんなにたくさん食べられないし……」
「うるさい、食べて」
「ひっ……」
命令された。
その姿に、給食を食べ切るように指導してきた小学校時代の教員を思い出した。
今の小春がそれだ。給食警察ならぬ摂食警察。でも公機関じゃないから正確には摂食自警団と呼ぶべきか。どちらにしろ怖い。
そして小春がスーパーで仕入れてきたと思われる使い捨ての割り箸とスプーンを取り出し、テーブルの椅子が置かれていない側に並べる。椅子のある方には私のスプーンとフォークがしれっと登場していた。
これは要するに座って大人しくしていろ、という言外の命令と理解した。
それならさっさと着席。給食の前の待ち時間かな。
そうして待っていたら小春はお茶のペットボトルまで丁重に用意し、最後に寝室側から私の書斎用の椅子を持ってきてリビングに設えた。お見事です。
「じゃあ琴奈、夕飯にしよっか」
「うん。っていうか小春の情熱はすごいね。そこまで私に食べさせたかったの?」
「一般的な食生活を送らせたかっただけだよ」
「私の食生活はかなり恵まれている方だと思うけど」
「その台詞は三十代になってから言ってね」
「……なんか諭された」
ともかく夕飯が準備されたので頂くことにする。
っていうか誰かと一緒に夕飯を摂るなんていつぶりだろう?
この前の歓迎会やお泊まりは別として……思い出せない。
小春が買ってきてくれたグラタンは、お惣菜とはいえしっかりとした味付けに具も多めで食べ応えがあった。サラダに関しては、そもそも生野菜を食べるなんて久々だなあという感慨深さが勝った。
そんな私を小春はなぜか満足そうに頷きながら見ていて――
「うん。琴奈がちゃんとご飯を食べてくれて安心した」
「……私を食事ができない人間だと思ってるってこと?」
「できるだろうけど、小食すぎないか心配してたってこと」
小食仲間の小春に心配されても……という気もするけど、我が家の食料関連の慎ましやかな様子を見れば自然とそう思うのかもしれない。
今我が家にある固形の食料は冷凍弁当と白ご飯とロールパンだけだ。
見る人が見れば確かに心配になるのだろう。杞憂だけどね。
「いつもはお弁当と白ご飯だけなんだよね?」
「うん。それでもうお腹いっぱいだし」
「夜食とか食べないの?」
「食べない。健康に悪いし、買うお金も無駄だし」
といった内容をはじめとし、食べつつも食生活についてあれこれ質問された。
ただ、その時間は思ったよりも楽しかった。
よく考えると小春と二人きりで食事、しかも周りに他の人がいない空間、という条件が揃ったのはこれが初めてだ。なので人目を気にせず喋れた気がする。外だとどうしても気が張るから。
小春のミネストローネを一口もらったり、小春が私のフォークを使ってこっちのサラダを食べたり、自分としては「ちょっと頭が悪い」と思う行為もした。そういうことをしている同世代を見て下品だなあと思っていたのに。
でも、案外悪くなかったなあと思ったのは相手が小春だから、なのかも。
そういうわけで私は結構いい気分になってきた。
いきなり泊まりに来ると言われた時は戸惑ったけど、今は小春が来てくれてよかったとすら思っている。それは本人に言ったら「琴奈はちょろすぎる」と心配された。失礼な。私を突然自宅に泊めた小春もだいぶちょろいって。
……こほん。ともかくいい気になったのでお風呂も気分よく用意した。
単身者用マンションだからそんなに広い浴室ではないけど、築浅だから内装は綺麗だし、小春にも気持ちよく使ってもらえるだろう。
保温中の湯船の中に手を入れて適温かどうか確認し、脱衣所にはバスマットを置き、着替えを置いておけるようリビングの椅子を持ち出してきて脱衣所に設置。
うん、完璧だね。
「小春、お風呂の用意できたから先に入って?」
「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて、っと」
「はーい、いってらっしゃい」
持参した着替えを手に、小春は浴室へと向かっていった。
夕飯の片付けは全部済ませてくれたので助かる。
私は……食べすぎて眠いし、少し休憩しようかな。
こんなに食べたのって久しぶりかも。
ちょうどリビングには書斎の椅子があるから、慣れたこの子で……よいしょっと。はあ、落ち着く。お腹いっぱいで眠くなるって久々の感覚だなあ。っていうか血糖値ぐんぐん上がってる気がする。血糖値が上がる様子を視認したことはないけど、なんかそんな気がする。めっちゃ上がってる。エレベーターかも。すんごい頭ぼーっとしてきて、これ結構体調に影響するなって思って、あー……なんか無理、今目を閉じたら気持ちよく寝れそう……背もたれの上の端っこに首を乗せて、楽な体勢にして……ぁ、これすごくいい、寝る、寝そう、これ本当に寝…………
―――
『琴奈が椅子に座ったまま寝てる貴重な写真を撮影できて嬉しい』
などとほざいた盗撮客人に開いた口がふさがらず、でも小春のことだから死んでも消去しないだろうし、仕方ないと諦めてお風呂に入った。
お湯に浸かっている時に、これって小春が入ったお湯なんだよなあと一瞬思ってしまったことは自分の中でなかったことにした。邪念は人生のゴミ。時間の無駄。
お風呂から上がったらカットメロンがテーブルの上で待機しており、小春が自分で買ったそれを自分で食べながら私を待っていた。そのまま「あーん」で口の中に放り込まれ、これが存外心地よく二回ほどリピートしてしまった。
いけない。私の穏やかな暮らしが完全に乱れている。
でも、この状態でもう勉強する気にはならないし……
それにせっかく小春がいるから一緒に話をしたいとも思う。
というわけで寝室にお招きして、ゆっくり喋ったり休んだりする時間にした。
普段なら今週の授業の復習に使っている時間だけどね。
小春がパジャマ代わりに持ってきた柔らかそうな生地のTシャツは温かそうな橙色をしていて、暖色系の名前に引っ張られたのかなあ、なんて想像する。なんにも考えず近所のショッピングモールで適当に買ったパジャマを三年以上使っている私に比べると人生の丁寧さが違った。人生の丁寧さってなんだ。
あと、小春が穿いてるジャージがハーフパンツなので、綺麗な脚が見えてしまっていて、思わずちょっと見ちゃった。華奢だなと思っていた割に筋肉はある程度ついているのを認識し、もしかして自分もあれくらい鍛えないと筋肉不足で生活に支障をきたすのではと危機感を持った。日課の運動に筋トレを足すべきか。
などなど考えつつ小春にはベッドに座ってもらい、私は勉強机用の椅子を引っ張ってきて、ゆるりと喋る。
「そういえばこの部屋の窓ってベランダ側だけなんだね」
「うん。仕切りを使わない前提の設計だから採光は一箇所でいいみたい」
「そっか……今が夜だからかもだけど、暗くてちょっと寂しいかなって思った」
そう喋った小春の表情もなんだか寂しそうだった。
確かにずっと暗いのは嫌だな。でも家にいるのはほとんど朝と夜だけだし。
「そうかもね。でも今は小春がいるから明るい」
「……それは普段の生活が暗いってこと?」
「明るくも暗くもないよ。普通」
「琴奈の言う普通は信用ならないなあ」
「えー」
信用ならないなあ、の時の小春の表情がちょっと悪戯っぽかったのがぐっと来た。
可愛い。小春のそういう顔は結構好きかもしれない。他の人は見れない顔。
家で人と話すという貴重な時間は、自分が思っていたよりも穏やかに過ぎていく。
もちろん小春が相手だからという大前提はある。
その上で、自分のプライベートな場所で人目を気にせず過ごせるのが肝要なのだと思った。人の目って緊張させてくるから。でも小春だけなら平気。
だから普段は喋れないようなことも結構喋った。
学校で過ごしている時に周りのクラスメイトのことをどう思ってるかとか。
「時間を惜しまずに勉強できるこの時期に何を思って遊び呆けているんだろう」「キャーキャーと甲高い声を上げるのをやめてほしい」「休み時間も食事中もずっとスマホを弄ってるのが不思議すぎる」、みたいなことを。
小春はそれを肯定も否定もせずにゆっくり聞いてくれたので安心して喋れた。
気付くと私ばっかり喋ってた。バイトでもこんなに喋ったことはない。これが小春の実力もとい対人スキルなのかも。負けました、完敗です。
「それでさ、聞いてて思ったんだけど、琴奈は全体を俯瞰してるよね」
「周りのことを?」
「周りも含めて、社会とか人生とかの色々を」
「そう、かも?」
「達観しているとも言うね、すごいと思うよ」
え、褒められた……んだよね?
遠回しに皮肉られてる感じではないし。
「そんな琴奈にちょっと訊きたいんだけど」
「うん」
「いやだったら答えなくてもいいけど」
「う、うん」
ん……別に小春にならよほどの質問でなければ答えるけど。
でも、小春の表情が不意にふっと変わって、堅苦しいくらい真剣な顔になってて。
「琴奈はさ、とにかく自立しようとしてるよね。具体的に言うと、親から」
「…………」
「今までの琴奈の話を聞いててさ、なんでこんなに真面目ですごく頑張ってて、むしろ頑張りすぎてるぐらいなんだろうって不思議に思ってて」
「…………」
「でも、家を見せてもらってなんとなくわかったんだよね」
「……この家で?」
「うん。身軽すぎていつでもどこへでも逃げられそうだもん。自力でこの部屋の賃貸借契約切って引っ越しできるようにしてるもんね」
「…………」
「あと、これは琴奈のわたしに対するガードがゆるすぎる証拠なんだけど、日常会話と同じ口調でお金が欲しいなんて繰り返し言う人はわりかし異常だよ?」
「…………」
「頑張りすぎてる、どこへでも逃げられる、お金がいくらあっても不安」
「…………」
「それってつまり、成人したらすぐにでも親との関係を断ち切って生活的にも金銭的にも自立したいってことかなーと思ったんだよね。……どうかな? 合ってる?」
「…………」
…………
やっぱり小春って頭いいよね。
偏差値の高いお嬢様私立校に入れるくらいの地頭の良さがあるってことだよね。
…………
まあいっか。
小春になら、知られても。
「小春、それもう確信して言ってるでしょ」
「うん。九十九パーセントくらいそうだと思ってる」
「じゃあそんな遠回しに説明しなくてもいいのに……」
小春に乗せられた感じがする。
でも、ここまで知られたのなら隠しても意味ないし。
「ね、琴奈のこれまでのこと、教えてほしい」
「…………長いけど、いい?」
「もちろん」
「聞いてから後悔しても知らないから」
「いいよ」
はあ……今晩は長くなりそうだなあ……




