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十一

「ふ~、思わず見入っちゃったよ~」

「でしょ? 続きはサブスクで見れるから」

「うん、家のPCで続き見る~」

「紬さんもこれでたらまめファンです」


八話を見終わったところで時刻は二十一時少し前。

明日シフトがある二千花と紬さんはそろそろタイムアップだし、そもそも未成年の遊ぶ時間帯としてもこの時刻はある種のリミットだろう。


私? 私はこれ以上遅くなると就寝時刻に問題が出るし……



というわけでここまでで解散となった。

お菓子はほとんど平らげられていて、たぶん私以外の三人は夕飯もいらないだろう。それ以上食べると胃とカロリーの両面から問題が出そう。


「私も楽しかった。こういう風に同じ作品を見るのもいいものだね」

「よかった。琴奈が満足してくれて嬉しい」

「ことっちも新たな世界を知って世俗に近づいたんだねえ」

「堕落への一歩~!」

「堕落はしたくないんですけど」


紬さんはこの時間でも元気だなあ。毒舌が。



さて、ここが高級住宅街の一角とはいえ二十一時という夜間に未成年が一人で歩くのは少し怖い。というわけで客人チームはそれぞれ帰宅手段を考慮しており―



「あ、うちの親馬鹿が迎えに来たよ! 到着連絡来た!」

「流石親馬鹿のお父さん、平日でもなんのそのですね」

「わたしもお迎えが来たよ~、母さんが仕事帰りに寄ってくれた~」

「紬さんもナイスですよ」


先輩組がほぼ同時に迎えの車を到着させていた。お見事。

なのでここまで来れば全員まとめて帰宅準備に入る。荷物は各自まとめておいたので問題なしだ。忘れものなし、っと。



……え、私? 私は……駅まで走るから……

迎えに来る人はいないし……



「琴奈、本当に大丈夫?」

「うん、体育の授業だと思って頑張るよ」

「えー、駅までタクシーで行けばいいのに。ことっちのお財布ならいけるでしょ」

「一キロくらいだし千円あれば事足りるよ~」

「…………そう、かなあ」


できればあまりお金は使いたくないんだけど、でも改めて考えると夜道を一人でっていうのは確かに怖い。小春に頼めば使用人さんがタクシー会社に電話してくれるだろうし。……そうしよっかな。


うん、じゃあやっぱりタクシーで駅まで。




……と思ったのだけど、そのタイミングで使用人さんが声を掛けてきて――



「小春ちゃん、ちょっといいかしら?」

「はい、どうしましたか?」

「あのねえ、今知ったんだけど東横線が運転見合わせしてるのよ」

「「えっ」」


その声を上げたのは私と小春が同時だった。


「送電トラブルで少し前に止まって、今日は復旧見込みがなさそうって情報が出てたわ」


その言葉を受けて小春がちらっとこちらに視線を送ってきた。

私の帰りの路線が止まってしまったことは大問題。小春も慌てるだろう。


最寄りの元住吉は残念ながら東横線と目黒線しか通らない。

そして目黒線は東横線と線路を共有しているので一緒に止まってしまう。


急いでバスの路線も探したけど最短でも一時間半コース。

しかも運転見合わせの影響で大混雑していると予想もつく。



……どうしよう。

本当にタクシーしかないかも。だけど一万円では絶対に足りない。


正直どうすればいいかわからなくて、隣にいる小春に縋ってしまいそうな自分がいて、そうとわかっていつつ視線を向けてみたら―




「琴奈。あのさ、提案があるんだけど」



小春からの提案があった。びっくりした。

もしかして名案でも持っているのかな。


と思ったのだけど、何故か小春はちょっと頬を赤くしてもじもじしていて。

何を言い出すのかなって思ってたら――



「琴奈、今晩はうちに泊まっていかない……?」

「――!!」



……と、泊まり?



え、それはつまり、私が小春の家に宿泊するということ……?

私が? このまともに人間関係も築けなかった私がお泊まり……?


隣で二千花がぽかーんと口を開けて驚いてる。

紬さんはニコニコしながら頷いてる。



「今から帰るのは大変だし、明日もお休みだし……どうかな?」



つまり、私は小春と二人きりで、一緒の部屋でお泊まりするってこと?


その提案に、私はどうしてか胸がバクバクしてしまった。

脈が絶対に速くなってる。顔に熱が集まってる気がする。


使用人さん、二千花、紬さん。

三人に見守られながら、私の脳は何も考えられなくなり、ただ目の前の小春がおねだりするように「泊まっていってほしいな」っていう瞳を向けてくる姿に囚われて、喉が勝手に動いて返事をしていて――







―――







「はあ……お茶美味しい……」

「それは良かったわ。お替わり欲しかったら遠慮せず言ってね」

「はい。ありがとうございます」



喉が勝手にお泊まりを決めた一時間後、私は広い家の一階のリビングで温かいほうじ茶を頂きながら小春を待っていた。


使用人の麻子さんが淹れてくれたお茶は一口で分かるほど上質で、普段家で飲んでいる安いお茶とは比べ物にならないほど柔らかい口当たりに感嘆のため息が漏れてしまった。すごいなあ、こんな美味しいものがすぐに出てくるんだ。



「琴奈ちゃん、制服と肌着は今晩洗濯して明日の朝にはお返しするわね」

「はい。何から何までしてくださってありがとうございます」

「いいのよ。だって小春ちゃんのお友達だもの、おばさんは嬉しいのよ」

「で、では、お言葉に甘えます」



二千花と紬さんを見送った後、人を泊めるという一大事業にやる気を見せた小春はあっという間に私をお風呂に入れてしまった。


正確には有無を言わせず浴室へと連れていかれ、いつの間にか用意していた着替えを脱衣所にどさっと置かれ、脱いだものを入れておくカゴをさっと用意され、「お風呂から上がったらさっき通ったリビングで待ってて」と告げられた。そして脱衣所のドアをばたんと閉められ、私はお風呂に入らざるを得ない状況へ追い込まれた、と。


そしてお風呂を済ませ、今度は小春がお風呂に行くのを見送り、上がってくるまでをここで待っている。さっきまでの賑やかな視聴会とは違う、静かでゆるやかな時間が流れるリビングについ気が緩む。


麻子さんはまだキッチンの掃除をしているみたいで水の音が聞こえてくる。

ただ、それでも私に話しかける余裕はあるみたいで。



「小春ちゃんはね、今まで友達を連れてくることなんてなかったのよ」

「そう聞きました。小春ってそんなに奥手なんでしょうか」

「……そうねえ、奥手ではあるのだけど」


麻子さんはシンクを洗いながら続ける。


「どこかで線を引いているというか、人を不用意に近付けない子なのよ」


そう。そんな気はする。

でも、私は必要以上に近付いている。


「社交性はしっかり持っていて、色々な人と仲良くできる子なの。でもある一定のラインを越えるほど親しくなることはなかったと思うわ」

「……小春の話とか、学校から帰ってきた後で聞いてらっしゃったんですよね」

「そうよ、小春ちゃんの悩みとか思ったこととか、毎日聞いてたわ」


遠い目を、でも慈しみの心がある瞳をして、そう答えてくれた。


「だから、いきなり三人もお友達が来るって聞いた時は驚いたわ。小春ちゃんの心の一線を越えた子が三人もいるのかしら、って」

「でも実際はそうじゃないんですよね」

「ええ、私からするとその線を越えた子にもう二人が付いてくるんだろうって思ったわ。実際、皆さんを迎えた時にその雰囲気は伝わってきたのよ」

「……小春は私相手にだけ丁寧語がなくなりますし、物理的な距離も近いです」

「そうね。それに小春ちゃんが自然に手を繋ぐ子なんて他にいないわ」


麻子さんも私と同じ認識だったらしい。

私がこれまでに感じてきた小春からの関心と好意は、本人の中でもかなり特別なものだった。そしてとても申し訳ないけど、二千花と紬さんは小春が私を家に呼ぶためのちょうどよい役者だった。そういうことだ。


では、どうして私にそこまで熱心になってくれるのか。

そのヒントも麻子さんに訊いてみたいと思ったのだけど、その矢先に小春がお風呂から出てきてしまい――




「琴奈、お待たせ。麻子さんもありがとうございました」


お風呂上がりのパジャマ姿の小春。

薄い橙色でTシャツとジャージに近い形をしたパジャマは、よく考えると私が貸してもらったものと色違いだ。私のやつは水色。


「いいのよ。じゃあ私は洗濯だけ済ませるから、二人はゆっくりしてちょうだいね」

「ありがとうございます」

「わたしからもありがとうございます。じゃあ琴奈、部屋に戻るよ」

「うん」


そこで話は途切れた。

また機会があれば、というところか。


さっき辿った二階への道をゆっくりと辿る。

小春はお風呂上がりなのか軽いポニーテールにしていて、その尻尾がゆらゆらと揺れるのを見ていると、なんだか普段と違う世界に迷い込んだ気分が強くなる。


バイト先での小春しか知らなかったところから、急にお家にお邪魔して、あげくお風呂から出た後というプライベートの極みみたいな姿まで見て、今からお泊まりまでしようとしている。その衝撃の大きさに脳がクラクラする。


だから部屋に着いても正直まだ頭が働いていなかった。


「琴奈、服のサイズは大丈夫だった?」

「…………あ、うん。大丈夫」

「よかった。パジャマはわたしのをそのまま持って来たんだけど……やっぱり身長も体格も似てるからかな。こういう時に琴奈と似ててよかったよ」

「私と似ててよかった、って初めて聞くフレーズだなあ」


そうか、小春は私と似ててよかったと思うのか。

やっぱりかなり好意を持たれているというか、心の一線はとうに飛び越えてるみたい。それも小春の心を紐解くヒントになるので覚えておく。


「ちなみに肌着が新品のものを用意してきたから安心してね」

「……新品の予備があるって、流石お金持ちって感じだね」

「そうかな? 予備はどのお家にもあるものだと思ってた」

「皆ではないと思う」


私の家には予備なんてないなあ……あるとしても新品のままではないし、袋から出してクロゼットにしまってあるくらい。そんなに数もないし。


というかすごく思ったことがある。

小春はこの前の着替えの時に私がジュニア下着を着けてるって揶揄ってきたけど、小春もそうじゃん。そんなに私のそれが似合ってなかったのか。


ちょっとツッコミを入れたくなる。しないけど。


そのツッコミを我慢する代わりに私は部屋を見回す。

改めて見てみてもやっぱり物が少なくて整然としている。ノートパソコンくらいしか娯楽の要素がない。テレビは映像視聴用って言ってたし。年頃の高校生の部屋とは思えない。



「小春の部屋ってさ、物が少ないよね」

「…………そう、だね」


本人も自覚しているらしい。

広い部屋とはいえベッドはシンプル、中央のテレビとローテーブルとソファには飾り気もなく、壁側のクロゼットや棚の引き出しも沈黙しているし、デスクが二台並んでいる辺りも本棚の書籍以外にはほとんど物がない。


「必要なものは大体引き出しや棚の中にしまってる」

「なるほど。綺麗に整理してあるんだね」


つまり単純に物が少ないだけの私の部屋とは違う、と。

でもそんなに収納は多くないんだよね。しまうにも限界があると思う。



「でもさ、収納ってあんまり多くないよね……」

「――そう、かな」

「なんだか不思議だよ。金銭の余裕がある家だったらもっと物が多いんじゃないかって思っちゃうんだよね。……あ、ごめん、勝手にこんなこと言って」

「ううん。気にしないで」

「それでさ、しかもこんなに広くて綺麗な部屋でしょ。遊びに来るのは私たちが初めてってびっくりして。素敵なところだから、余計意外だったっていうか」

「…………」



あれ、小春が黙っちゃった。


さっき気になってたことをそれとなく訊いてみようと思っただけなんだけど。

私がたぶん小春の心の一線を越えた最初の人間だって、そういう話の断片でもいいから聞きたいなって思ったんだけど。


…………


小春はカーペットにぺたんと座ったまま俯いてしまった。

さっきまで跳ねていたお風呂上がりのポニーテールがしおれているように見えた。


下を向いて、視線をこちらから外して、唇をぴたりと合わせて閉じたまま。

その黙りこくる姿を見たことがあるような気がする。どこで見たかは忘れた。



何を言ってもいけないように思えて、ただひたすら黙る小春を見ていた。

どこか葛藤の色を滲ませるように瞳を彷徨わせながら俯いて一分くらいが過ぎたのだろうか。そこでようやく小春は顔を上げて――



「そこまで親しくなる友達がいなかった、から」

「……そっか」

「仲良くしてる子はいるけど、わざわざ家まで呼んで遊ぶってことは、なかったよ」

「じゃああくまで学校の中だけだったんだ」

「うん。あとは、そうだね……家が裕福なところだってあまり知られたくなかった。そういうのって知られると悪いこともあるでしょ」

「そう思う。妙にすり寄られたり、とか」

「だから家には呼ばなかった。でもバイト先の人たちはそういうのと縁がない、良い人たちだって知ってるから。ならいいかなって」

「そう思ってもらえて嬉しいよ」



小春から返って来たのはそういう回答だった。

なるほど、と思った。小春らしい考えだと思った。


ただ、それだけではないような気もした。

あの黙りこくった時間で、他のことも考えていたように思う。

今言わなかったことを頭の中で咀嚼していたんじゃないかって。



でも、私に言わなかった。

つまり私相手では言えないような理由がある。


そこに鍵があると思う。

小春が私に大きな関心と好意を抱き、わざわざここまで迎え入れたその背景が。

それを知りたい。どうして小春がここまで私に近付いてきているのか。



でも、どうやら今日はダメらしい。

なら無理することはない。そこで思考を手放して、肩の力を抜いてソファに沈み込む。ふかふかで気持ちいい。こんな品がうちにもあればいいのになあ。



「…………琴奈」

「うん、何?」

「琴奈が気を抜いてる顔、初めて見た」

「そう? 休憩中とかこんなんじゃなかったっけ」

「ううん。こんなにへにゃへにゃしてない」


へにゃへにゃ……なんだ。

鏡で見たことないからわからないけど。


「琴奈がこんな顔を人前ですることなんてなさそうだよね」

「まあ学校でこれはないよ」

「可愛い。実年齢より3歳くらい若く見えるよ」

「それは私の顔のベースが中学一年生くらいに見えるってこと?」

「うん」

「そんな即答されても……」


それってもう小学六年生と大差ないじゃん。

流石にそれはちょっと心にグサッと来るというか、落ち込むというか……



「でもそういうところが好き。琴奈は可愛い」

「じゃあ私の顔が実年齢くらいまで老けたら好きじゃなくなるのかな」

「それでも好き、歳を取った後の良さがあるよ」

「……小春が私に激甘なのはよくわかった」

「えへへ」


思わぬ形で自分の顔についての理解が深まった。

少なくとも悪い内容ではなかったので、まあいいか。


でも、それを言うのであれば――



「小春も可愛いと思うけどね」

「――!」

「小春は私のことを褒めてくれるけどさ、たぶん可愛さで言えば小春の方が百倍上を行ってるんだよね。こういう言い方をしていいのかわからないけど、守ってあげたい可愛さがある。学校でそういう扱いされたりしない?」

「……いや、されないけど」

「やたら周りに優しくされたりとか」

「優しく……されないこともないけど、優しくしてあげるというよりは、雰囲気的に丁寧に接しないといけないと思われてる」



なるほど。小春から滲み出る育ちの良さと深窓のお嬢様オーラ。

確かにクラスメイトにこういう子がいたら接する時にも気が張るというか、ちょっと怪我させたり嫌な思いをさせたら家の人が飛んできて殺されるかもしれないって思う。


殺されるは言い過ぎかもしれないけど、接するのに精神的な壁ができるだろう。

無闇に関わってはいけない別世界の住人とでも称するべきか。



「言い方は悪いけど、腫れ物みたいな扱いなのかな」

「……うん、それが一番的を射てるかも」

「良い意味でも悪い意味でも接しづらいってことか」

「そうだね。だからそういうお姫様みたいな扱いってされない。家に人を呼ばない理由にも関係する。自分からも誘いづらいから」

「あー、確かに」



小春の心の暗い部分にちょっとだけ触れられたような気がした。

なにか息苦しいと思う部分が、小春にもあるのだと。


本当はそこをもっと詳しく訊いてみたかったのだけど、小春は思ったよりも深く私に問いを投げかけてきて、こちらから問い返す暇がなかった。そんなに私という人間に興味があるのかと改めて驚く。



特に詳しく質問されたのは学校生活、というか勉強に関する話で、どれくらいの成績で、どういう勉強方法をしているのか。根掘り葉掘りという言葉が似合うくらい訊かれた。進路はちょっと色々あって口ごもってしまった。


あとは日々の暮らしのことで、家事はどうしてるのかとか、運動はどれくらいしてるのかとか、お肌の手入れは何をしてるのかとか。



そういった具合で中々の質問攻めに遭い、それが途切れたところであくびが出た。

時計を見ると二十三時半の五分前を指していた。


「あっ、もうこんな時間かあ」

「琴奈、わたしは満足したからそろそろ寝よっか」

「私は質問攻めに遭って不満足だけど?」

「じゃあお布団を準備するね」

「無視された……」


そういえば二千花のボケを容赦なくスルーする技術も持っていた。

私程度のぬるいツッコミは朝飯前なのだろう。その証拠にあっという間に来客用の布団を床に敷いて、わずか一分で就寝体制を整えてしまった。


ただ、そこから就寝にすぐ移れないのが私たちで――



「じゃあ琴奈はベッドを使って? わたしは床の布団で寝るから」

「えっ、家主にそんなことさせられないよ。小春がいつも通りベッド使って」

「ううん。お客さんを床で寝かせられないよ。琴奈がベッドを使って?」

「いやいや、そういうわけにもいかないって」

「だめ。琴奈はお客さんだから歓待されるべき」

「でも小春を床で寝かせるのはちょっと……」

「琴奈を床で寝かせるのはもっとよくない」

「それでもダメだって。こっちは泊まらせてもらってる身分だし」

「初めてのお客さんをみすみす床に放置するなんて家主として許されないよ」

「いーや小春がベッドを使って」

「琴奈がベッドで寝て」

「…………」

「…………」



…………



…………




「えっと。じゃあ、意固地な琴奈に妥協案を出すんだけど」

「……は、はあ」

「一緒にベッドで寝よっか?」



え? 同じベッドで?



「じゃあ琴奈、先にベッドに入って。はい」

「え、ま、待って引っ張らないで、ちょ」

「壁際まで寄ってね。わたし電気消してくるから」


うそ、私、小春のベッドに連れ込まれて


「えっ、こ、これって、その、ど、どうき」

「はーい、じゃあ電気消すよ」


あ、電気消えた、真っ暗で、カーテンの隙間からちょっとだけ光が入ってきてて


「琴奈、わたしも入るね」

「……!」


なんか掛布団の中がもぞもぞする、隣に人の気配が来て、こ、小春の匂いが、すごく近くでして、あ、待って、小春が私の目の前まで来て、暗いのに顔が見えて


「よいしょ。琴奈、これで二人とも満足だね」

「……う、うん、そ、そう、だね」

「琴奈と一緒に寝ると落ち着きそうだね」

「そ、そう、かな」


こ、小春と同じベッドで、あっ、今、手握られて、小春がニコってして


「じゃあわたし寝るね、おやすみなさい」

「お、おやすみ、なさい」

「…………すぅ」


え、うそ、小春寝ちゃったの、私ドキドキしたまま寝られそうもないのに、手繋いだまま、目の前に小春の寝顔があって、掛布団の中で添い寝して、こ、こんなの、まともに寝るなんて、無理、ぜったい無理、どうすればいいの



…………



ダメだ、寝られない

よく考えたら他の人がいる空間で寝るのって苦手なんだった、小学生の修学旅行の時も全然眠れなくて翌朝辛かったんだった


しかも今は手を繋いだままだし、あの時みたいに緊張してるし



…………



小春の顔見てたら、もっと眠れそうにない

普段も可愛いなって思うのに寝顔なんてその百倍くらい可愛いって


こんなの見せられて、顔も背けられないし、目つむったら手の感触がもっと鮮明になってドキドキしちゃうし、逃げられないかも



…………



明日は何もできない気がする

でもいいや、小春の話聞けたし、一緒に過ごせたし、もう寝れなくても



…………



ふぁぁ、またあくび出た

あと何分経てば寝れるかなあ



…………





…………





…………


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