十
「うわー!本当に豪勢な一戸建てだねー!」
「上流家庭のお宅訪問だよ~」
「なんかもうアトラクションに乗る気分になってきた」
「ところでことっちはテーマパークと縁がなさそうだよねー」
「…………」
東京都目黒区青葉台。都内有数の高級住宅街の一角に私はいた。
金曜の夕方十七時、春の夕暮れの穏やかな空気はこの街にいると余計増幅されるようで、行き交う裕福そうな人々の姿も私を異界に迷い込ませるような気がした。
そんな私の隣には、二千花と紬さんが学校帰りの制服姿のまま鞄を持って並び立っている。無論、私も終礼が終わってすぐに校舎を出て、最短経路でこの場所までやってきたわけだが。
柔らかい暖色の外壁が幅何十メートルだろうっていうくらい広がり、滑らかな曲線を描く正面のフォルムが印象的な邸宅は高級住宅を体現した存在だった。
ガレージは乗用車三台分の面積が確保されており、その脇に用意された玄関への導線は高級フレンチレストランのエントランスなんじゃないかと思うほど綺麗でお洒落。そして見上げてみれば三階建ての豪勢な建築に屋上まで付いている。
すりガラスから暖かな灯りが漏れ出てくる風景も美しい。
庶民には到底ありつけそうもない優雅な暮らしが外からも想像できる。
「じゃあ行ってみよー!」
「突撃お前が晩ごはん~」
「紬さんの口がどんどん悪くなってる……」
にしても本当に大きい家だな。掃除とか大変じゃないのかな。
玄関まで向かう途中も綺麗に掃除されてて葉っぱ一つ落ちてない。
というかその玄関もすごい。壁をくりぬいた長方形の部分が門扉になっていて、不審者侵入の余地がない。防犯対策も抜かりなし。恐るべし高級住宅。
「え、このピンポン押していいの? 警備員さんとか飛んでこない?」
「二千花ちゃんは不審者の自覚があるんだね~」
「そういうのはいいから早く押して」
そしてこのチャイムを鳴らせばきっと門扉が開き、その先は……小春の自宅だ。
いつか行ってみたいと思っていた小春の家にどうしてこの三人で来てしまったのか。きっかけは二日前の水曜日、シフトが終わった後の休憩室にあった。
―――
「二千花さん、今日の演奏すごく素敵でした」
「ほんと!? やったー! こはるんに褒められちゃった!」
「本当です。しかもびっくりしました。二千花さんがお琴を弾くなんて」
「へへー、ドッキリ大成功ってやつかな」
小春の感嘆の声から事は始まった。
というのも、二千花が琴を演奏すると知らなかった小春は、その実演を前にしていたく感激し、珍しく声を大にして感想を伝えたのだった。
「実はうちの父親が琴の演奏家をしててね、小さい頃から一緒に演奏してたの!」
「すごいです、お父さんが教えてくれて、しかも親子で演奏だなんて」
「でしょ? それで今も趣味で続けてて、別に家業を継ぐ気はないんだけど、弾くのは好きだからぼちぼちって感じ。それでこの店でも弾いてるってわけ」
「……ちなみにそのお父さんっていうのが親馬鹿で有名なあの」
「ちょっと! ことっちは邪魔しないで!!」
「事実じゃん」
「ああ、服のお買い物に六、七万円を渡すあのお父さんと同一人物でしたか」
「待って! 確かに親馬鹿はヤバいけど琴の世界では尊敬できる人だから!」
「……二千花さん、優しいんですね」
「私は二千花のそういうところ好きだけどね」
「揶揄うのか口説くのかどっちかにしてくれぇ……」
という会話が発端だった。
では、そこから何故小春のお家にお邪魔する話になったのか。
問題はそこで小春が二千花の私生活に興味を持ち、気を良くした二千花がべらべらと喋ってしまったことだ。それが予想外の方向へ転がった。
「では二千花さんのお家はみなさんお琴が好きなのですか?」
「いや、母親はそこまでじゃなくて、親子で弾いてるのを見守ってる感じかな。母親はデザイナーの仕事をしててね、和の世界ってそこまで関心がないの。お互い好きなことを仕事にして、それを互いに見守ってる感じ」
「すてきです。理解のあるご夫婦です」
「で、あたしは琴も好きだし、デザイン系も興味はあるし、両方受け継いだ感じかな。もちろん両親とは全然関係のない趣味もあるけど」
「へえ、どんな趣味があるんですか?」
「あたし実は深夜アニメ好きなんだよね!可愛い女の子が出てくるやつ!」
その瞬間、私の隣でにこやかに頷いていた小春から目に見えない「ぞわっ」としたオーラが放たれた。明らかに温度が変わった。鳥肌が立った。
わずかに前のめりになった小春が続きを問う。
「そう、なのですか?」
「うん。こはるんは知らないと思うんだけど、そういうアニメの中には女の子たちのほのぼのした日常を描いたような作品があって、それを見て癒されてるんだよねー」
「…………たらればまめがし」
「!?」
「二千花さん、たらまめ二期、見てますか」
小春が謎の言葉を発した。
日本語かどうかも怪しい気がしたその言葉がなんなのか私にはさっぱりわからなかったが、二千花は一瞬にして目をぐわっと見開いて―
「ええぇぇ!!?? こはるんたらまめ知ってるの!!??」
「はい、毎週楽しく視聴しています」
「嘘ぉぉ!? 同志っ、同志がいたぁっ!! こはるんは日常系のオタクだったぁ!?」
「ちょ、ちょっと待って、二人が何を喋ってるかわからないんだけど」
「これが興奮せずにいられるかぁぁ!! 初めてっ、たらまめ視聴者と遭遇!! 初エンカ!! しかもまさかのこはるん!?」
「まさか二千花さんが日常系を見ているとは、わたしもびっくりです」
「え、いや待って説明してお願いします」
「じゃあ琴奈、二千花さんが錯乱してるからわたしが説明するよ」
やけに冷静な小春の説明によると、深夜アニメには「日常系」という明るくハッピーな日常生活を描いた作品ジャンルが存在し、その中でも現在放送している「たらればまめがし」という作品を実は二人とも視聴しているという。
まさかバイト先に同じ作品を好きな人がいるとは思ってもみなかった二千花はあまりの嬉しさに錯乱している、というわけだ。コミュ強の錯乱は珍しい。
ちなみにこの作品は豆菓子をきっかけに集った女子高生三人が交流を深めて仲良くなっていくという温かいヒューマンドラマらしい。変なあらすじだなと思ったけどファンの前なので言わなかった。
「いやぁ、まさかこはるんとたらまめの話ができるとは思わなかったよ!」
「はい。せっかく趣味が合うのでもっと話したいですね」
「…………わかった! じゃあ一期の視聴会しようよ!」
「いいですね。琴奈を入れて、あと紬さんも呼んでやりましょう」
「ん? 私はいつの間に人数にカウントされたの?」
「こはるんがいるのにことっちが来ないとか犯罪行為だよ?」
「はい。琴奈が来てくれないのは重罪ですね」
え、私別にアニメとか見ないし……でも、断れない感じだし……
「あと、もしよければわたしの家でどうでしょうか? ここからも近いですし」
「ほんとっ!? マジで!? こはるんの家で!?」
「はい。使用人さんもお友達を連れてきなさいって言ってくれてて」
「やったー!! こはるんビッグラブ! 視聴会決定! じゃあ今から紬さんに連絡するし。日程は?」
「明後日金曜の夕方、全員集まり次第チャイムを鳴らしてください。あと自宅の住所は今からグループタイムラインに送ります」
「よしきた! あたしお菓子持ってくからね!」
「あの、私のスケジュールは……っていうかグループタイムラインって何……?」
って、え、なんか二人に一斉に睨まれたんだけど……
「ことっちは」「琴奈は」
あ、これ私の尊厳を破壊する台詞が飛んでくる――
「「予定なんてないよね?」」
…………
「はい……おっしゃる通りです……」
そうして私は突如小春のお家にお邪魔することになった。
―――
「はえー、これがお嬢様の自室かあ……」
「ひろ~い、すご~い」
「そうでしょうか? わたしはこれが普通だと思っていたのですが」
「全然普通じゃないよ~」
そして屋内に入ってからは驚愕の連続だった。
まず玄関が広い。単身者用マンションの広さに慣れた人間からすると「そんなに幅要ります?」と無駄を指摘したくなるくらい広い。しかも靴箱が左右に用意されていて五十足くらい収納できそう。
扉を開けて迎え入れてくれた小春のセーラー服姿がすごく可愛かったことにも気付けず(結局部屋に入ってから気付いた)、おそるおそる靴を脱いで上がった。
その次も驚きで、使用人のお姉さんがご挨拶に来てくださったのだ。
小春が「麻子さん」と呼んだその方は妙齢ながらも活気のある優しい使用人さんで、私たち三人に向けて「小春ちゃんのお友達が来てくれるなんて嬉しいわ、今日はありがとうね」と丁寧に声を掛けてくださり、あの紬さんも恐縮して口調がよそ行きになっていた。もう気分は貴族のお屋敷だ。
小春は私の手を取ってぐいぐいと引っ張り、使用人さんには飲み物を持ってくるように頼み、軽快に廊下を進んでいく。
廊下を歩いていてもその広さと綺麗さと照明の明るさに終始圧倒されっぱなしで、階段の途中に飾られていた絵画や小さな観葉植物などを見ていると美術館に迷い込んだのかと錯覚してしまった。
そして二階にある小春の自室に辿り着き、その広さと豪勢さに驚きを通り越してショックを受けるところまでいって、ようやく私の頭は落ち着きを取り戻した、というわけだ。文化的ショックからの復活。
「おー、テレビも大きいね!」
「でも最近はもっぱらノートパソコンから映像を飛ばすための機材になってます」
「そういう贅沢な使い方に憧れるなあ、あたしも買おうかな」
「また親馬鹿さんに買わせるの?」
「もちろん」
「悪い子供だね~」
「えっ……じゃあ頼まなくてもこの部屋にこのテレビがあるわたしは」
「「「お嬢様」」」
「…………そう、ですか」
小春にお金持ちという自覚を持たせつつ本題へ移る。
今日は小春と二千花がファンだというテレビアニメ「たらればまめがし」の第一作を視聴するという企画だ。ちなみにすべて見ると六時間コースらしいので、見れるところまで見て、興味があれば残りは各自サブスクリプションサービスで。
小春は映像をテレビに飛ばす準備をして、二千花は来客代表で用意してきたお菓子を準備し、紬さんは各自の鞄などを一カ所にまとめたりテレビ前のテーブルとソファを整えて環境整備に勤しんでいる。
その間、やることがなくなってしまった私はといえば、手持ち無沙汰でカーペットに座り込んでは部屋をぼーっと眺めていた。
小春の部屋は広いし、ベッドもソファもテレビも高価そうだし、デスクは二つあって書斎使いと勉強用に分かれている。とにかくお金が掛かっている。照明だって柔らかな色合いで落ち着くし、大きな窓を覆うカーテンの横幅の広さにも唸る。昔ネットで見た高価なホテルのスイートルームを思わせる光景だった。
ただ、物は少なくてきちっと整頓されている。
書斎の本棚には整然と書籍が並び、勉強机の上は文房具が散らかっていることもなく、ソファやテーブルの上にも物が放置されている節はない。
それが少し気になった。裕福な家庭なら物はたくさんあるのではないか。
それとも審美眼が育ちすぎて基準以下のものを切り捨てるようになったのか。
にしても物が少なすぎる気がするのだけど……
本人に訊こうかな。でも皆でいる時にはちょっと言いづらい。
その些細な引っ掛かりは視聴会が始まった後も私の脳裏にちらつくことになる。
ただ、一時的にその思考は途切れた。
というのも二千花がお土産のお菓子を取り出してきて―
「こはるん! これお菓子ね!」
「わっ、すごく上質そうな和菓子ですね」
「ほんとだ~、芸術品かも~」
テーブルの上に広がっていたのは上生菓子の詰め合わせだった。
和菓子の職人が手作業で細かく形を作ったり色を付けたりしながら作る、いわゆる贈答品としても使えるお茶菓子。今がちょうど春だからなのか、桜や菜の花を模したものもあれば、新緑を感じさせる柔らかい緑色を纏ったものまで、季節感をしっかりと表した逸品たちが集結している。
「……え、これ本当にお高いやつじゃん。上生菓子っていうの?」
「そうそう! 知り合いのお店で買って来たんだよね」
知り合いの店ってなんだ。和菓子職人の知り合いがいるのか。怖い。
荷稲家は一体どんな魔境なんだ。
しかしその魔境っぷりにビビっている一方、紬さんには疑問が浮かんでいて。
「でも二千花ちゃん……これは視聴会には向かないよ~」
「確かに。映像を見ながら食べる感じではないよね」
そう言われればそうだ。
この上品なお菓子をじっくり楽しんでいたら映像は見れない気がする。
集中力の向け先がずれてしまう。
「ふふっ、君たち甘いなあ! 和菓子より甘いよ!」
「なんと、二千花さんがドヤ顔をしています……!」
と思ったら二千花はそんなこと織り込み済みだったらしい。
今日一番のドヤ顔で腰に手を当てて宣言し、手元のビニール袋をひっくり返し。
「こはるん、この和菓子はご両親と使用人さんへのお土産だよ! あたしたちが今日頂く本命はこっちだー!」
「本命……!」
「よいしょーっと!」
がさがさっと音を立てて袋の中からそいつらが登場した。
ポテトチップス、チョコレート、クッキー、グミ、ラムネ、ミニドーナツ……
要するにこれは子供大好き夢のお菓子セットだった。
「これはアニメの中で見たスナック菓子と甘いお菓子の集合体ですね!」
「ふふん、こはるんは高いお菓子ばっかり食べてそうだからね。この通り庶民向けのお菓子をスーパーで買ってきたんだよ!」
「流石二千花さんです、ありがとうございます。ポテトチップス初めてです」
「この歳までポテチ未体験はお嬢様ポイント高いよ~」
「むしろポテチ食べない健康的な人生を送っている気がしますけどね」
「はっ! 琴奈ちゃん天才~」
この部屋が庶民的な空間に格下げされてしまったことに微妙な名残惜しさを感じつつ、二千花と小春が次々に袋を開封していくとそんな惜しさも霧散した。しょっぱいものと甘いものの不健康コラボレーションが部屋中に蔓延していく。これはまずい、健康のために抵抗しなければ。
「…………ん? ことっち何探してるの?」
「飲み物」
「琴奈、今日はジュースを用意したから自由に飲んでいいんだよ?」
「いや、ジュースは遠慮しておく」
鞄の奥からそれを取り出して、ソファの定位置に戻る。
「琴奈、えっと、そのペットボトルは」
「黒烏龍茶」
「え、ことっち、脂肪の吸収意識して生きてるの?」
「うん。不健康なのは嫌だし。糖分あんまり摂りたくないし」
「琴奈ちゃんの箱入りポイントがまた一点加算されたよ~」
「なんですかそれ。別に箱入りじゃなくても黒烏龍茶飲みますよ」
「……琴奈がどれだけ箱入りなのか、わたしはまだ理解が足りてなかったよ」
なんか小春まで私をそんな風に扱ってきて、なぜなんだ。
ともかく足元にペットボトルを置きつつ視聴会開始。
二千花と小春はカーペットにぺたんと座り込み、横長なローテーブルの左右端に陣取っている。紬さんはソファに座っていたかと思ったら綺麗にずり落ちて結局床で胡坐をかいている。
……なんか私だけソファに座ってる。
自由な空気だなあ。
部屋の照明を少しだけ落とし、ほんのりと映画館ムードを出しつつ。
小春曰くほのぼの:ヒューマンドラマ=六:四くらいの割合らしく、一話こそ主要人物の出会いを描くドラマチックな面があったけど二話に入るとゆるく楽しく過ごす場面が増えてきた。そういう優しくて明るい生活風景というのは存外悪くなくて、頭を空っぽにして肩の力を抜いて楽しめるなあと思った。
この作品の主要人物三人組にはポジティブな子・落ち着いた感じの子・物静かな子という組み合わせなんだけど、そこで取り合わせが悪くてぎくしゃくすることもなく、それぞれの良いところや特徴的なところがお互いに影響し合っている。こういった不和がないところも見る側の心に優しい。
「みんないい子だね~、ケンカとかしないの~?」
と思ったら紬さんも同じことを考えていたらしい。
この中では一番私と近い立ち位置なので似た視点で見ていたのだろう。
「しませんね。同じ趣味というか目標で集まった子たちなので、喧嘩するとしても建設的な喧嘩だと思います」
「あたしも同感ー、だから安心して見れるんだよね」
「なるほど~」
「安心感は大事」
その安心感のおかげなのか、小春も二千花もちょくちょくお菓子に手が伸びる。
ポテチの袋の中をがさごそと漁っている二千花は画面に集中していて手元は見ていない。小春もグミの袋に二本指を滑り込ませて器用に掴んでは口へ運ぶ。
なんだろう。これが女子の集いなのかなって感じがする。
こうやってお菓子を摘まんで、喋りながら過ごす感じ。
ポテチが初めてと言っていた小春だけど、さも昔からずっとこうやってお菓子を食べてましたってくらいの自然体でグミを摘まんでいるのが不思議だ。
というわけで私もそこに仲間入りすべくソファから降りてお菓子の元へ。
画面を見ながらも視界の下の方でなんとなくお菓子を選んで、じゃあクッキーでも取ろうかなと思った手を伸ばして、適当に頂く。
「お、ことっちがお菓子食べた」
「琴奈がお菓子を食べた」
「琴奈ちゃんのお菓子タイム~」
なぜか三人同時にこっちを見てくる。
なんで? 私がお菓子食べるのそんなに面白い? 画面見なくていいの?
「えっと、何か私は悪いことをしたのでしょうか」
「ちがうよ~、琴奈ちゃんの新たな一面を見た感激だよ~」
「ど、どういう」
「ことっちは俗世から離れた仙人感があったからね、遂に世俗の菓子類に触れたのだと感激しているわけだよ」
「……え?」
いや、私だってスーパーで買い物するしコンビニも行きますけど。
という反論をしそうになったが、小春が補足してくれて。
「琴奈はお菓子みたいな嗜好品に手を出すイメージがないからだよ。普段の暮らしについて尋ねた時も間食はしないって言ってたから」
「…………あー」
「それに琴奈の生活はストイックっていう印象もあるし」
「それだよ、ことっちは勉強と家事しかしてなさそうだし!」
「無趣味人間~」
「そういうことかあ……」
そこまで言われてわかった。
そして小春の私の思考に対する理解度は高い。何を説明すればいいかよくわかっている人の補足だった。
「ことっちが何故そこまでストイックな人生を送っているのかは気になるけど」
「無理に訊こうとはしないよ~」
「ともかくお菓子を食べた姿が普段の印象からずれていたってことだね」
「理解。じゃあ今日は私が珍しくお菓子を食べる日だと思って」
「了解だよ~」
「オッケー」
まあ足元に置いた黒烏龍茶は絶対に手放さないけどね。
糖分も塩分も脂肪も人生の敵だから。
「でもこはるんもお菓子ってあんまり食べない気がするよ?」
「はい。お菓子を食べるくらいなら三食をきっちり摂りますし」
「健康的~」
「じゃあこはるんも今日は珍しい日ってことだね」
「そうですね。あと単純にこの家に友達を呼ぶのが初めてですし」
「「「――えっ?」」」
その一言に客人一同は固まった。
友達を家に呼んだ経験なし。
そして、その事実は視聴会開始前の私の疑問とリンクした。
物が少なすぎる部屋、友達を誰も招いたことのない十五年間。
なにか、看過できないものがあると、直感でそう思った。




