閑話 一
「ねーねーこはるん、ちょっと話聞いていい?」
「いいですよ」
二千花さんにそう声を掛けられた。
琴奈が帰った後の控え室で。
今日は初めてのお店での演奏を終え、わたしは満足で、琴奈も見守る立場としてほっとしたのか安心した様子だった。さっきも褒めてくれたし、本当にいい日だ。
嬉しい気持ちのまま仕事を終えて、また楽しみな約束ができて。
そんな風に浮かれていたせいか二千花さんからの提案にもスッと乗ってしまった。
いや、悪いことではないんだけど、わたしにしては珍しく饒舌な気がする。
「あのさ、ことっちとめーっちゃイチャイチャしてるじゃん」
「そうですね。琴奈が無知で可愛いので愛でたくなります」
「でも今日は頭撫でてもらってなかった?」
「見てたんですか? 気付きませんでした……でも、あれは撫でさせてあげたんですよ。撫でている最中の琴奈の頬の緩みは尋常ならざるものがありましたし」
「あ、あんた策士だったのかぁ!?」
「琴奈の扱いに関しては多少把握できたので」
「おー、流石」
「それほどでも」
「でさ、あたし急に思い出したんだけどさ」
「はい」
「ことっちって普通に美少女だよね」
「はい、そう思いますよ」
「こはるんが可愛い系、つむつむが癒し系、あたしが元気系だとすると」
「自分のことをしれっと美少女枠に入れるんですね」
「そりゃあ店長の美少女審査を突破してますから」
「ああ、言われてみれば」
「うんうん。で、その流れで行くとことっちってクール系じゃん」
「ええ。顔のパーツ構成だけで言えば冷たい印象です」
「なのに美少女力が高いじゃん。あれってなんでなの?」
「パーツはクール系でも土台は幼いからだと思います。小動物寄りの女の子にクール系成分が加わった結果の絶妙なバランスですよ。ちょっと冷たい顔をしてると小さい女の子が頑張って背伸びしてる感じに見えますし、笑うとベースの幼さが出てくるので可愛いっていう」
「……こはるんの分析は容赦がないねー」
「あと身長もわたしと数センチしか違いません。背は低い方という前提も加わると綺麗や格好いいよりも可愛いが先に来ますよね」
「わかる。やっぱり身長って美少女ジャンル分けに影響を与えるっていうか」
「背の低くて可愛らしい雰囲気の子にしか出せないものが琴奈にはあります」
「こはるんにもあるけどね!!」
「それはどうも」
「返答は大人だあ……」
「あと、めちゃ今更なんだけど……ことっちのサイドポニーの位置超高くない!?」
「はい。わたしと大して変わりませんね」
「なんであれが似合うの!? 高一だよね!?」
「琴奈は美少女なので」
「いやそれは知ってる」
「かつ顔立ちが幼いから、が正解です」
「要するに顔面の暴力……」
「ちなみに琴奈はわたしが初めてツインテールに結ってもらっている最中に『店長、この髪型は幼すぎますよ――!』などと店長に苦言を呈していました」
「え、じゃあことっちは自分のポニテを棚に上げてこはるんのツインテの高さを気にしてたってこと?」
「はい」
「…………ことっちの無自覚っぷりがこれでもかと伝わるね」
「琴奈は箱入りなので仕方ありません」
「ガチのお嬢様に箱入り扱いされることっち……お前ってやつは……」
「罪深い、というやつです」
「同意」
「でさ、こはるんはことっちのここに惹かれる!とかってあるの?」
「流石二千花さん、質問が直球ですね」
「直球ストレートは任せてよ」
「という冗談はさておき、惹かれるポイントは人柄と容姿と精神性の三つです」
「ほうほう」
「人柄はそのままですね。琴奈は真面目です。生真面目です。わたしは真面目であれと育てられ、それが当たり前に染み付いている人間なので、その点が近しいのは居心地が良い要因でしょう」
「確かにことっちとあたしが付き合う図は浮かばないよね」
「容姿は言うまでもありません。自分の好みに合っているので」
「こはるんはクール幼い系の子が好み……っと」
「最後の精神性ですが……これは秘密です」
「えーっ」
「いつかわたしたちの関係から読み解けたら教えてください」
「壮大なクイズだね、あたしに解けるかな?」
「ふふっ、楽しみにしてます」
「こはるんが意地悪だー」
そこまで喋ったところで、踏み込み過ぎないように自制したのか二千花さんはさらっと切り上げて帰っていった。そういうところもいい人だ。
思うに二千花さんは人を見る目というか、周りを観察して言語化する技能がある。
わたしの琴奈トークにしっかり付いてきて頷いてくれるところも、そしてわたしが不快な気持ちにならないようユーモアを交えたり引き際を弁えたりもしている。
そしてそれを自然に、自分にとって当たり前のことなんですと言うみたいに機能させているのは、琴奈にもわたしにもできないことだ。わたしたちのキャパシティは明らかに二千花さんより小さい。
そのキャパシティの小ささに、わたしと琴奈の共通項がある。
と、思っている。
でもこれはまだ予測に過ぎないので、この先琴奈と接する中で読み取って、解像度を上げていく必要がある。本当にわたしがこの好意をまっすぐぶつけていいのは、互いに共鳴する部分をはっきりと認識した後。
琴奈は間違いなく急激に距離が詰まることを嫌うタイプ。
だからこそゆっくり進む。急いてしまうから仕損ずるものもある。
その第一歩が、明後日金曜日の夕方になる。
琴奈がどんなことを喋ってくれるか楽しみだな。




