16. 蝋のように溶けること
上山サキが「彼」のことを非難します
ある夜、上山サキは大量の蝋燭と燭台とライターを抱えて彼の家を訪れた。彼女は彼に家中の電気を消すように命じたあと、燭台をテーブルの真ん中に置き、蝋燭を立ててライターで火を灯した。
彼らは火のついた蝋燭を挟んで向かい合ってテーブルに座った。
上山サキは揺れる炎を無表情な目で見つめている。彼もまた同じようにした。いくらかの時間が過ぎ、溶けた蝋が燭台にたまった。上山サキは燭台を傾けて溶けた蝋を木製のテーブルの上にこぼした。蝋は木目の上に小さく丸く広がった。
「私の車もこうやって溶けてしまったんよ」と彼女は言った。「いずれみんなこうなる。こうやって何もかも蝋みたいに溶けてしまうよ。そして人はそれに飲まれて死ぬ」
そんなひどいことにはならない、と彼は言った。
「どうしてそんなことがあなたにわかるの。どうしてそんなに他人事みたいにしていられるの❓あなたはさあ、自分のせいかもしれないってちょっとは責任感じたりせんの❓」
何のことを言っているのかわからない、と彼は言った。
「あなたはいつもそう。何が起こっても自分には関係ないみたいな態度で、何食わぬ顔をして平気そうにしてる。ひどいことが起きて苦しんでいる人がおるかもしれんのに、知ったことじゃないみたいな態度でいる。おるかもしれんじゃなくて、実際にいるんだよ。町はひどいことになってるんだよ。それなのに今でも目を背けて知らんふりしてる。わかるでしょ❓私が言っているのはモエムのこと。あなたはあんなものを飼ったりするべきじゃなかった」
モエムは何もしていない、ドロドロ騒ぎとは関係ないよ、あんなことができるわけはない、モエムは水の外では全く無力なんだから、そのことは君も確かめただろう、と彼は言った。
「でもモエムが溶かしたいろんなものと、ドロドロ現象で溶けたみたいになった物体は、そっくりなんだよ。明らかに同じような、似たような力であんなふうになってる。それってどういうことなの❓ただの偶然だと思ってるの❓」
わからない、と彼は言った。
「そう、わからんやろうね。誰にもわかるわけない。私にだってわからない。でも私はあんなわけのわからないものをつかまえてきて飼ったりはしない。あなた以外の誰もそんなことはしない。あなたは池で拾ってきて、地下室に水槽まで用意してそこに住まわせた。そのことを言ってるの。あなたがそんなことをしたからだよ。すべてはそこから始まったんよ。あなたが生き物を拾ってこんやったら、こんな騒ぎは起きてないはず。私の車だって無事なはずやった。全部あなたのせいだよ」
彼は黙っていた。
「あなただって何かを感じたことはあったやろ、モエムに対して。もしかしたらよくないものなんじゃないかって。飼ったりするのは間違ってるんじゃないかって。でもあなたはあんまり真剣に考えんやった。こうして現実にひどいことが起きているのに、それでもまだあなたは問題を直視しようとしない。そんなの無責任だよ。間違ってるよ」
僕は何も知らない、でもモエムの仕業であるはずはないと思う、今度のこの騒ぎは、僕らがまだ理解できないような異常な力が働いた結果だと思うよ、と彼は言った。
上山サキは蝋燭の炎越しに彼の顔を見つめている。その顔は半分陰になっていて、どこか仮面のようだった。
「異常な力みたいなものが存在することは信じるんやね。あなただってモエムについてすべて知ってるわけじゃないやろ❓どんなことだって起こりうるよ。私たちが想像もできないようなことを、モエムはきっとできるんだよ。認めなさい、町はあなたのせいで溶けた」
その後、彼らはあまり言葉を交わさなかった。




