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奏水と琥珀の現代日本旅行記 後編

2026年5月2日土曜日。

帰省の5日目となる本日は琥珀を引き連れてとある場所へ来ていた。



昨日一昨日と外出して買い物をしてはフルーツパーラーを巡り、あげく家に帰ってもネットと通販で遊びまくった私たちは、今日の日中を休養に充て、こうして午後になってから電車でお出かけである。


ちなみに昨日買った通販の品物は明日届くようにしてある。

琥珀用のタブレットとか簡易発電機とか色々。楽しい買い物だね。



で、時刻は16時ジャスト。

私たちの目の前にはやたらと大きな建造物がどかんと鎮座していて――



「奏水、結局ここはどこなのです?」

「有明アリーナ」

「はあ」

「大型イベント施設」

「いべんと?」

「催し物のこと」

「わたしたちの演奏会のようなものでしょうか?」

「うん」



おっ、鋭い。

実はその通りで、この場所に来た理由は他でもなく。



「じゃあ琥珀、あの表示を見てみよう!」

「へ……? ん、なんだか英語のようなものが書いてありますが」

「ふふん、では私が代わりに読んであげよう」


そう、今日ここで開催されるイベントの名前は――



「T○ NETWORK TOUR 2026 QUANTUM!」

「……あっ、その名前に覚えがあります! 奏水が和ギターをくれた日に!」

「そう。私がこの世で影響を受けた二大アーティストのひとつ!」

「つ、つまりっ、その人たちの演奏を生で聴くのですね!」

「うむ。では早速会場に入ろうじゃないか」

「はーい!」


おっ、琥珀のノリがいいね。好き。


それにしても帰省期間中にツアーの東京公演があったのは神がかり的だね!

ついでに直前でチケット取れたし! キャパ大きい会場で助かったー!


そもそも今まであんまりT○のツアーは行けてなかったから嬉しい。

今日は思う存分音を浴びる所存。あー、Come on Let's Danceやらないかな。パノラマジックもやらないかな。っていうかグリニッジもやりません?




さて、今回は直前で取った席なので最上階スタンドの後方、いわゆる天空席というやつだ。でも有明アリーナ自体がそこまでステージとの距離が離れてなくて、視界も良好なので問題はない。むしろ下手にアリーナ席を引いて前の人に遮られてステージが見えないよりは百倍良い。


ライブ会場特有の空気に緊張感を覚えたような琥珀が私の後をついてくる。可愛いね。ひな鳥の赤ちゃんみたい。親の後を追うやつ。


さて、16時59分にスマホの電源を切りまして……

定刻開演だね。ではFANKSモードに入ります。




QUANTUM=量子を掲げたツアーとあってオープニングムービーも謎が深い。

見間違いでなければニュージーランドの自然の風景、そして佇むTK。


ここから一体どんな流れで電気じかけの予言者たちの音楽に繋ぐのか……

って、えっ!? まさかの歌始まりResistanceで開幕!?

いや、それはヤバい、グランドピアノとアコギのアコースティック編成じゃん。


おいおいかつてここまで木根さんのアコギが染みるResistanceがあったかよ。

青山純のフィルどがーん!とかTKのシンセぎゅいーん!みたいな曲だったのに、おお、こんないじらしくなって……


それでもうグッと来てたのに、お馴染みの曲不明ロングイントロからなんか聞き覚えのあるリフが飛んでくる……いや、これはまさか、いや、歌い出しまでわからないんだけどこれはもしかしてってうわあああああああああDon't Let Me Cryだああああああ!!!やばいやばい30周年でも40周年でも演奏されなかったあのアンセムが2026年によみがえったあああ!!!


アレンジが変わってもさ、良い曲だから良い曲にしかならないんだよね。

いやもう自分でも何言ってるかわからん最高あと歌詞間違えないウツも偉い。

続けて最新曲扱いのWe Can't Stop That WayでTKのシンセを浴びる。


そこからインスト演奏が始まり、どうやらQUANTUM組曲なる三部作の模様。

開演前の場内QRコードによるとQUANTUM3がRise Togetherという歌曲のようなので、そこに至るまでの過程と音を映像と共に楽しむ。



量子もつれ。


電気じかけの予言者たちはそれを偶然・奇遇といった概念と結びつけ、遠隔地での同時性を自らの足で検証しに行く。ニュージーランドのTK、日本の木根さん、そして二人の同時性を観測するウツ。違う場所で、違うことを考え、違う意図で行動している二人が触れる対象が重なる。場所なのか、触れる物なのか、あるいは。


偶然と必然、それらを観測する予言者たちの試行を支えるようにプログレめいたQUANTUM組曲が展開される。楽器を持ち替える木根さんに、当然ながら大量のシンセとピアノを弾き分けるTK。


長時間に及ぶ組曲の最後には予想通りRise Togetherでウツが再登場。

この曲は音源としてぜひリリースしてほしい。じっくり聴きたい。

どうでしょう、DEVOTIONみたいなアルバムをもう一度出すというのは。



続けて木根ソロ新曲を挟んだところで、上下の二人が交代。

上手の木根さんが下手のTKブースでグランドピアノの前に座り、下手のTKが上手の木根ブースに配置されたシンセサイザーの前へ。


そのまま音数少なめのアレンジで始まったのはHuman System。曲中で引用されているトルコ行進曲は坂本龍一の戦場のメリークリスマスに変更され、静謐でいて切実な緊張感の漂う中でウツの歌が映える。


その切なさを引き継いだままTIMEMACHINEへ。

DEVOTION収録版のアレンジに準拠した演奏で、巨大モニターの中で量子か時空かなにかの渦の中を歩いていく予言者3人の姿がひどく感傷的に見える。この人たちはどこまで歩いていくのか。誰にもわからない。



そして、今回最大の山場がやってくる。


またしてもプログレめいた音を鳴らす上下の木根TK。

その音が繋がるのは2000年発売の同名アルバムに収録された一大組曲 Major Turn-Roundだ。一曲三十分という驚異の組曲が2026年に再降臨。


炎が吹き上がる演出の中、上下で正対してシンセサイザーを鳴らし続けてはその音で応酬する木根TK。ハンドマイクで苛烈なまでのオーラを放ちながら前のめりに歌い続けるウツのパフォーマンスも相まって圧巻の一言。


今回はFIRST IMPRESSIONとSECOND IMPRESSIONのみのショート編成だったが、25年振りの演奏に感激したFANKSは少なくないはず。



その山を越えた先で待っていたのは名曲 Fool On The Planet。

DEVOTIONツアー版のシンセストリングスアレンジを土台に、木根さんのアコギが加わる編成でまた一味違った側面を見せる。背後の映像では同じ夕陽を見て連絡を取り合う3人の姿が描かれており、量子もつれというテーマを改めて感じさせる演出に唸った。


自身も歌うTKソロを挟んでから、大胆なシンセアレンジとドラムのパターンチェンジで派手にメイクアップしたBEYOND THE TIMEが登場。ジークアクス放映後初の演奏ということもあり客席の反応も熱い。よしこのアレンジを音源化しよう(提案)


TK Remix版から更にアレンジが施されたKiss Youとウツの決め台詞に沸いた会場。そしてもちろん演奏されるGet Wild Continualは木根さんの光速アコギストロークが光るし、そこから引き継いだTKのシンセリフも最高に気持ちいい。


モニターでは現代の香港とオリジナルGet WildのMVの香港の映像が交互に流れる。量子もつれ、同時性の観測、同じ場所の違う時代の間での同時性?

定番ナンバーでここまで新たな解釈を観客に投げ掛けることができるとは。



さて、Get Wildが来るということはもう終盤。

曲終わりの無音空間で上下が再び交代する。グランドピアノで華麗に弾き出す木根さんにショルキーを持ち出したTK。そして流れるイントロは40周年のSTAND 3 FINALで聴いた……You can Dance!! 木根ピアノバージョンだ!!


おお……あの高難度ピアノを弾きながらコーラスする木根さん偉すぎる……

ウツめっちゃ楽しそうだし。曲終わりでピアノの前に集まってツアータオルなんか広げちゃうウツ、無邪気すぎる。



そして最後の曲はCUBE。あのイントロでもう天を仰いだ。

Major Turn-Roundを演奏した上で、アルバムの締めであるCUBEが最後に来る。


しかも2014年のthe beginning of the endツアー以来だよね? その時と同じで途中の歌詞が密室から屋根裏に変更されてた。とするとアンドロイドキャロルも量子もつれという概念に絡む存在かも? CAROLというアルバムと、当時のロンドンへ送られたアンドロイドキャロルの存在は量子もつれ? 異なる世界間での同時性?


そしてエンディングへ。

サイコロを連想させるためのCUBE。量子もつれの希望? 同時性、関連性。

電気じかけの予言者たちはこの先も創作を続けてくれるのだろう。


エンディングのスタッフロールに映し出される三人の姿に沸くFANKS。

ああ、このライブ来てよかった。







客電が点いた会場に観客の声が戻ってくる。


ただ、私はしばらく我を忘れてぼーっとしてしまったな。

すごいものをまだまだ見せてくれるTM。これじゃFANKSやめられないって。

どうしよう、TMのライブがある度にこっちに帰省してこようかな。


……いやあ、それにしてもMajor Turn-Roundが凄すぎてなあ。

だってアルバムツアー以来だよ? 四半世紀経ってまた戻って来たんだよ?


うわー……あれはヤバいな。

Don't Let Me Cryも大概ヤバいけどさ。めっちゃ嬉しかったけどさ。


ふー、そろそろ現実に戻るか。

じゃあ荷物を整理して帰る準備を……って。



…………



「あっ、奏水が戻ってきました」

「…………ああぁっ!?」



あああぁぁああ琥珀が一緒にいるの忘れてたあああああ!?

ヤバいこれヤバいってぶっちゃけもう一曲目から存在忘れてたし!!

待って私ここまで没入して嫁の存在を忘れるつもりとかなかったのに!!



「……ご、ごめんなさい」

「何がです?」

「琥珀の存在を忘却してて……」

「それは構いません。奏水が楽しめたのならそれでよいのです」

「…………本当?」


本当? 怒ってない?


「奏水が楽しそうにしている様子を横で見れてわたしも嬉しかったですし」

「……そ、そう?」

「はい。奏水が基本的に自律の強い人間ですが、こうして好きなものにのめりこんだ時の心から楽しそうな姿を見ているととても安心しますし嬉しいですね。この子にもちゃんと素直で純粋な気持ちがあるのだとわかります」

「なんか保護者みたいな言い方だね」

「実際保護者ですし」

「…………返す言葉もございません」


と、とにかく、琥珀は怒ってないしむしろ喜んでくれているということで。

うん、ならよし。安心。


で、琥珀の感想も知りたいので帰り道で歩きながら聞いてみる。

有明アリーナは導線がよろしくないから出るのに結構時間掛かるんだよね。



「琥珀はどうだった? ちょっと難解だったけど」

「そうですね、細かいところまで読み解いて楽しむというのはできませんでしたが、映像や物語から感ずるものはありましたし、鳴っている音が多種多様で面白いので飽きませんでしたね」

「なるほど。気になる曲はあった?」

「途中のバイオリンみたいな音が鳴ってるやつが好きでしたね」

「シンセストリングス版のフルプラだね。まあ確かに紅灯恋歌でバイオリンもチェロも使ったし馴染みはあるか。落ち着いた曲の方が好き?」

「はい。速い曲も嫌いではないですが、気持ち的に落ち着くのはゆっくりした方ですね。途中で炎が吹き上がっていた曲はもう舞台芸術として見ていました」

「Major Turn-RoundのFIRST IMPRESSIONの方だね。あれはもう空間芸術と称していいと思う。聴覚と視覚の融合が極限まで極まった例っていうか」

「空間に浸ってしまいましたね。今もまだ頭に残ってますよ」

「わかる。忘れられない」



おお……感想を語らう相手がいるというのはこんなにも感動的なのか……



「で、結局量子もつれってなんなのです?」

「わからない」

「ですよね」

「だよね」



いや、これはマジでわからない。

今日のお昼に一応予習としてネットで調べたけど本当にわからない。

わからないままでいいけど。わかったから何かあるわけじゃないし。


でも、こういう量子もつれに端を発するロマンだったり、ちょっとSFめいた物語だったり、そういうのをエンタメとして楽しむのはいいかもなって。


その点TMは常に新しい技術やテクノロジーを取り入れる人たちだから面白くていいね。あー、次のツアーも行きたいなあ。向こうの世界でこっちのネットとか見れるのかな。そしたら帰省希望出せるんだけど。バイトのシフトみたいに。バイトしたことないけど。



というわけで帰省の一大イベントは終わった。

帰りの電車で疲れ果てて寝そうになったのは危なかった。


なお、琥珀は超元気だったので私が寝そうなところをじっくり観察していたらしい。

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