56_包囲軍の打破
待機地点に着くと、リカはすぐに自らの持つ杖を地に突き立て、目を閉じる。
何か、大事を——魔術ではない、別の何か——起こそうとしていることは、誰の目から見ても明らかだった。
静寂の続く中、リカは目を開き、掌を天に向ける。
天へと向けた掌から、奇妙な魔法陣が浮かび上がり、そして魔法陣から誰も目にしたことのない、とてつもない大きさの氷塊が出現する。
「Geh!」
確かな意思を持ったリカの言葉は、“魔法”によって作られた巨大な氷塊へと確かに伝わり、油断しているであろうと見た敵軍めがけて飛んでいく。
先鋒隊であったイツキ、アーシェ、ギルベルトらはその氷塊を見て、森から抜け出し、敵の軍勢へと突撃していく。
前方の彼らが動き、接敵したことで戦闘の火蓋は切られる。
ここにいる全ての『碧氷の旅団』の人間が、ただこの作戦の成功を信じて突き進む以外、道はなくなった。
******
「Stralun:Blitzxlag!」
「Stralun:Gross-Flambal:|Funf!」
氷塊が敵軍勢に着弾したのを確認した私たちは、魔術を使いながら更に前へ前へと進んでいく。森を抜けた先では、魔族共が続々と私たちの放った魔術や剣撃によって倒れていっていた。
「Expant:FucksFlam-Funf! Und |Jack-O-Lanton-Funf!」
数の差を手数の多さ、素早さで覆す。私たちにできることをすることが、私たちの、この戦場での一番の役割だった。
大小五つの火球を巧みに攻撃手段に宛がったため、後方を気にしている余裕は何処にもなかった。
しかしそれでも二十五対二万という戦力差は、いくら手数を擁するといっても数の上での不利は否めなかった。
一対多数の戦闘にならざるを得ない中で、私たちのような後方魔術専門の立ち回りしか知らない者も散開することになった——厳密には私たち三人だけは一塊となった——のは、危険であり、先生の策の難点だった。
私たちは持てる力を発揮し、全方位から敵が来てもいいようにと考え、魔術を発動させていった。私の大小五つの藍色に光る火の霊が常に三人の傍を固め、その外側をレイの魔力を込めた雷雲で守る。上空の積雲は今にも雷が降り注ぎそうな禍々しい色になっており、敵が突撃してきたらすぐに降る仕組みとなっていた。
「ルナ、俺が前に出る! 後ろを頼む! お前がシズを守れ!」
「ちょっと待って、レイは!?」
「俺がお前らの盾になる! Stralun:Blitzxlag!」
勇み立つレイの言葉を聞き後方を確認して、偶然開いていた方向へと私たちは下がる。
「なら……死なないでよ! レイ!」
「おう! 絶対にだ! 俺は死なねえからよ!」
私の調子に合わせて誓ったレイは進んでくる眼前の敵へと視界を移し、自らの持つスティックを曇天の空へと指し向ける。
「……練習の成果、見せっか!
Expant:|Blitzgexoss-Hundert!」
天上へと指したスティックを、レイが唱え終わると同時に敵へと指し降ろす。その瞬間、紫雲から同じ色を帯びた一センチほどの数え切れない位の弾丸が、レイの傍へと現れる。
「ルナ。俺に合わせようとして“炎”は出すなよ。爆発しちまうからな」
私の方から何かを察知したのか、それともただの呟きか。レイの傍にいた火球を雷の弾に当たらないように少しだけ下げる。
敵はレイのことを見てビビるどころか突っ走ってくる。隙ができたと思い込んだのだろう。レイとの距離が一メートルもないところまで奴らが迫ったときだった。
「Geh!」
レイの傍にいた弾丸は、その呪文によって敵へと突き刺さる。それは小鬼の手を、脚を、腹を、そして首をも貫いていった。
「Stralun:Blitzxlag!」
辛うじて息の残っていただろう敵すらも、この雷撃で沈んでいく。すぐ近くまで迫っていた小鬼達は、ほぼ全て壊滅したようなものであった。
「ふう……とりあえず、これだけか?」
一仕事終えたと言わんばかりに、レイは私たちの方へと向いて話しかけ、笑みを零す。
「気は抜かないでね。レイが私たちを守るんでしょ?」
「シズ……そうだけどさぁ……」
私もシズも、レイもだんだんと話していくうちに気が緩んでいっているようだった。
でも、ここは戦場だった。
「レイ! 後ろ————」
私が叫んだときには、もう遅かった。
倒れ伏していた小鬼達の最期のあがきか、私たちの気づかぬうちにレイの傍まで接近し、火球の遮らない場所から突き飛ばしていた。
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