55_援軍
「ねえ、聞いてもいい? ……一つだけ」
じっと聞いていた——手を挙げることは皆無に等しい——ルナが手を挙げた。
確かに精神面での成長が見れたその姿に、リカは若干の笑みを零した。
「いいわよ」
「……他の武装ギルドって、どうして役に立たないというのでしょう?
断言した理由を聞きたいです。特に、マリさんに」
「言ってあげて、ご指名よ。現役から見た彼らのことを教えてあげて」
ルナからとんでもないことを聞かれ、リカからも実態を話すようにと促され、ため息をつきながらマリは語り出す。
「ご指名ですので……できるだけ手短にします。
私たちに関しては、私のように、数名の現役将校、あるいはそれと同等クラスの戦闘技術を持つ人間がいるので、まだ魔族を相手取って戦えます。
それに、本来軍隊ではない、私たちのような武装・戦闘を主にするギルドは、魔族に対しては、基本的に一騎当千を求められます。
だけども、あれら他の武装ギルドに関しては、戦争というのを恐れている。
いわゆる落伍した軍人の集まりであり、十全にその技術を発揮できない者や、技術を持たない者が中心なために、戦場から逃げる者もいてもおかしくはないわ。
それに加え、従軍経験でのトラウマにより、武装・戦闘を主体としながら対人戦闘を極端に恐れている。
だから……足手纏いにしかならない、そう言ったのよ」
手短にと前置きをされながら、想像以上に長い話へとなったために若干頭を抱えながらルナは思考を整理していく。
「……だとしたら、どうして此処のギルドは? 先生たちはできるんですか?」
ルナが次に質問したこれもまた、ごくごく単純な疑問だった。
マリが再び説明しようとするのを制して、リカが理由を示す。
「それはあたしから話すわ。
……でも、ある意味、至って単純な話よ。さっきマリが話した通り、武装ギルドでありながらその大半は臆病風に吹かれている。
その代わり、あたしらのような、危険をいとわずに戦闘へ赴ける人間が重宝される。
軍隊にとってははみ出し者がほとんどだったさ。でも、命を張って金を稼ぐんだ。それに死んだところで世界に影響は出ない。
だから、何一つ気にすること無く戦うことができる。
だから、戦場へと向かう数が増え、そして帝国最強とも呼ばれる武装ギルドになった、というわけだよ」
リカがそのように語っていると、一台の馬車がよろよろと走りながらこちらの元へと向かってくる。
「遅れました! すみません!」
馬車を牽く馬上の男が、真っ先に、リカに向けて謝罪を述べる。
「……別に、遅刻じゃないわよ、アイン。でも……どうしたのかしら?
あなたたち第四班には第五班のお守りを任せていたと思うけど……」
「それが……。
副都に合流して、団長とお話をした上で後詰として動くつもり、そう考えていたのですが……。
中途の村落にて攻撃を受け、一人以外は重傷を負い、戦闘行動が不可能と判断しました」
馬上の第四班副長・アインが言うやいなや、馬車の後方より、一人の傷を負った男が出てくる。
「……まあ、この有様よ。この俺がな」
出てきた金髪の男……アーシェの、傷を負った姿を見て、その場にいたほぼ全ての人間がこう思った。
“班長・ユリウスの過信のせい”だと。
「それで、また“不死身”のアーシェだけ……かい」
「……ええ。後はヴィシュトレンの病院ですよ。他の仲間と一緒にね」
死んでいるわけではないことが、彼の言葉で分かったのは、リカにとって僥倖であった。
それであれば、馬車二台もいらず、アーシェ一人を加えるのみで問題はなく、一台で来ていた理由も確定した。
「それで……皆様こそ……馬車は、どちらに?」
第四班の班長であるイオリが尋ねたそれは、ある意味当然のことだった。
「一旦、森の中に片付けたわ。まだ首都の城壁まで、二里近く先だから、この辺ならば容易に近づけないと思うわ。
……あたしは問題ないと思うけどね」
「しかし……それでは、馬車を放棄するようなものでは?」
イオリの発言はリカにとって嫌なものだった。既に他の班が承諾していることを、蒸し返されるような形で提起されたからだった。
「別に、放棄するわけではないわよ。帰れなくなるでしょ?
作戦的にも、馬車を使って攻め込むのは、難しいわよ。
……この森の奥くらいであれば、その日のうちに問題なく回収できるでしょう」
「迂回される可能性は……大丈夫でしょうか?」
イオリが尚も懸念を示し、周囲もざわつくが、リカは平静を装い続けた。
「森であれば、例え迂回されたとしても、すぐに見つけられるものじゃないわ。
それに……他に対策があるわけじゃないからね」
平静を装ってこそいたが、リカの心中は、決して穏やかではなかった。
その証拠に、だんだんと言葉尻が、少しだけ震えるようになっていた。
「団長……言い分は理解しますし、確かに他の策はなさそうでありますが、これでは馬車を放棄するようなものと見なされても何らおかしくないことではありませんか?
勿論、団長の率いる第一班には色々と秘密があるやもしれません。それを喋れないことがもどかしいのかも知れませんが、最悪の想定を少しはしておいた方がよろしかったのではありませんか?」
唐突にアーシェが口を開いたかと思えば、長々と自分の意見を言ってくる。
ルナたち三人以外の中では、また始まったよ……、と言いたげな者や、長広舌に欠伸をする者もいた。
まともに聞いていたのは、団長のリカと副長のマリだけであった。
「……だから、前を焼く。これができるだけ早くできるなら、簡単だと思いますよ」
アーシェの言葉が続く中、リカはひたすら作戦の細部を思案していた。
その中で、先ほどの発言をきっかけとして、彼女はとある考えを口にする。
「なら……前に行かせてみる?
人数的にも、前衛と後衛は別に考える必要無い……というか、考えてられないだろうしさ」
ダメなときはダメなとき、と呟いてはいたが、その考えを言葉にした途端、周囲がざわつく。
リカも、この考えにはとうに辿り着いていた。ルナ、レイ、シズネの三人のことを危ぶんだために、諦めていたものであった。
「……団長が、本当に、それでよいと考えられるのであれば、私は賛同致します。
当然ながら、死ぬ危険性も上がりますし、ここにいる全ての人間が直接戦闘する可能性も、当然上がります。
……それでも、よいというのなら」
アーシェも、流石に未知数の三人を前提には考えていない。それ故に、自身の意見がまさか通るとは思ってもみなかった。
彼の心配をよそに、リカは決心して受け入れた。
それ以降も作戦会議は続いていた。主には、どのような動きをするかのすり合わせが中心であった。
「私の氷が合図よ。それまでは、できるだけ視認されにくい場所で待っていてほしい。
……例えば、この森の中から出ない範囲で、ね」
「……師匠、あれは……完成したんですか?」
マリの質問に、リカは答えようとすらしなかった。
しかし、どこか含みを持ったマリの質問が気になった者は多く、相手にしようとしていなかったリカも態度を軟化させ、口を開く。
「……此処で言うなら、敵の間諜があり得ると思わないの? バレてしまっては意味が無いわよ。
だから、話すならこの戦いが終わった後ね。
……他に何か、聞きたいことはある?」
既に基本的な作戦行動は共有されており、リカの秘策も秘密のままにされてしまったことによって、それ以降に手を挙げる者は誰一人いなかった。
「それじゃ、いいわね。
これより作戦行動に移るわ。誰一人、音も漏らさぬように、宜しく」
リカがそう締めて会議自体を打ち切り、目標地点まで急ぎつつ、ほとんどの者が足音すら漏らさぬように向かうことになった。
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