表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移少女は果てへと至るか  作者: 雰音 憂李
ⅳ 静かなひととき、されど

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/56

54_公都救援へ

 ヴィシュトレンからベネルーシェまでの道は一本道だった。

 道中には村落もなく、木々の生い茂る森があるだけだった。

 ヴィシュトレンで合流した者たちは、重傷者を除いた十四名で、合流の翌日には公国の首都・ベネルーシェへと向かっていた。


「随分と、静かですね」

「ええ、そうね……気味悪いくらいにね。公都は森を抜けた先だから、向こうは見えないけど、余程彼らは賢いのかしら。

 人間が一番嫌がることを知ってる。いつ襲撃されるか分からないという疑念に駆られる。

 とはいえ、彼らは包囲に集中してるのか……それとも、ただこの馬車が見えていないから警戒感がないだけか」

 第一班の馬車の中で、団長と副長の師弟が話す。

 数度の襲撃を受けていた彼女らにとって、この一本道での襲撃が全くないことは、酷く拍子抜けであり、かつ疑心暗鬼にさせることだった。


「師匠……こんなに静かで、大丈夫なんですかね?」

「……そう思うのならば、構えておきなさい。あたしは取り越し苦労な気がするけどね」

 マリは……現役の軍人であるマリでさえ、不穏に感じるほどに、森の中を通る道は静まりかえっていた。

 リカも平静を装ってはいるが、決してその奥にある不安は見せようとしなかった。しかし、それでも漏れ出ていた。


「獣たちすらいない、というか……奴らに狩り尽くされているようにすら思える、というか」

「……なら、むしろ、この先で待っている奴らの方が、よっぽど嫌な感じがするわ。

 まるで、あたしたちを待ち構えているみたいね」

 この主従にして師弟が、揃って違和感と警戒感を感じ、口にしていたのは、緊張感を切らさないためだった。

 ただ、木々が揺れる音以外には全く、何一つ音のしないままであり、それが強烈な違和感になっていた。


 一本道を通って、数時間で首都の城門が見える、小高い丘まで来た。

「前方に城門! ——そして、城壁を囲むように、包囲する魔族を確認!

 ……数は、城門周辺のみで一万程かと!」

 先頭の馬車で手綱を握るイツキが叫ぶ。

 尤も、彼が報告した数は、実際に数えているわけでもない、なんとなくの数字を推測し、それを伝えたのみである。

 報告を聞いたリカは、あくまで冷静に捉え、ひたすら思考を巡らせる。

「イツキ、馬車を丘から降ろして。一旦、作戦会議よ」


 イツキがリカの指示に了解、と言おうとする前に、城内に乱入されていないかを気にしたマリが大声で聞く。

「城門の方はどうなってんのよ!?」

「マリさん、魔族は城門を囲んでいるだけです。だからか、めちゃくちゃ多いですけど」

「……なら、まだ、大丈夫、ね」

 よく統制された魔族の軍隊だと思いながら、先行していた、イツキの操る馬車は丘を駆け下りていく。


 ******


 慌てて馬車三台を森の中へと隠し、彼ら、彼女らはそのまま作戦会議に入っていた。

「……あの状況じゃ、奇襲しか、なさそうね」

「でも、そうなると、この馬車はどうするんですか?

 仮に放棄する場合、『旅団』(ウチ)のモノですし……そうそう買い直せる代物ではないでしょう?」

 アズサが当然の疑問を呈するが、リカは気にする素振りも見せなかった。


「放棄するつもりはないわよ。

 ……そんな余裕なんてないからね。本当なら、イツキやセルト、ラウルには馬車を守るために残ってほしい位なんだけどね。

 でも、十四人しかいないのに、それはできないわよ」

「じゃあ、どうするんですか?」

 リカの腹の中へと切り込むアズサ。少し考えて、リカも言葉を返す。

「早く敵の主力を潰すしかないわ。勿論、こちらの陽動も作戦には必要だと思うけどね」


「となれば、より奇襲を有効にする必要がある」

 イツキの呟きは、リカの考えていたことをより明確にさせた。

「奇襲、ねえ……もう、作戦なんていえたモノじゃないけど。

 魔族の軍勢の隙を突いて総攻撃を仕掛け、城門周辺の敵を蹴散らして、突破口をこじ開ける。

 ……これくらいしかないだろうね。だけど、これが一番有効だわ」


 聞けば聞くほどに短絡的な作戦——そもそも作戦とは言えそうにないと、彼らを率いる大将が言う位のモノ——ではあるものの、目的地、救援先であるベネルーシェがこの状況である以上、そしてこちら側の人数の観点から、それ以外にはあり得そうになかった。


「団長、仮に城門の敵を打ち払って、城内に入れたとして、残った外敵の排除はどうするおつもりで?

 一応聞きますけど、救援は私たちだけの、ベネルーシェ入城を指してるわけじゃないでしょう?」


 ギルベルトの後ろにいた、目を閉じながら考えていたポーラがリカに問う。

 『旅団』はこの紫髪の彼女も含め、大なり小なりポンコツはいれど、少なくとも今いるメンバーは、バカではない。

 自分からそれを切り出そうとしていたマリこそ、出鼻をくじかれたような表情になっていた。

 しかし、今この中にいる人間全て——そもそも戦闘要員ではない、そして何も知らないシズネを除く——が、一致してこんな作戦一つで片付く状況ではないと認識していた。


「……このままだと、城内に入れたとて、包囲はまたすぐに穴埋めされるでしょうよ。

 そうなれば、同じことをもう一回やらなきゃいけないですから。かなり厳しくなると思いますよ。

 それに、城内に入ったところで、今の状況を改善できなきゃ、それこそおしまいです。

 はっきり言って、『旅団』以外の武装ギルドは全くもって使えないですし、来れたところで足手纏いになるだけ、かと」


 言いたいことを先に言われたマリだったが、すぐに思考を切り替えて、ポーラの言葉に続けて発言した。

 それは、現役軍人としての自分が知りうる、機密に触れかねない内容ではあったが、状況としてこれ以上無く正鵠を射ていた。

 今のままではかなり厳しいと言う考えからの言葉であったが、普段からリカを師匠と立て、状況認識において信頼しきっているマリからは、なかなか聞くことのできないものであった。

 しかし、リカは眉一つ変えずに言い返す。


「……違うわよ。私たちだけで奴らを退かせる」

「本気で言っているのですか!?」


「ええ、本気よ。一旦戻ったところで、立て直せると思うの?

 あたしたちは、早急に、と言われたのよ。ここまで来たら、あたしたちだけで全部、やりきるしかないのよ。

 ……別に、数が全てで、それで優劣が必ずしもつくわけじゃないわ。

 前にカゲトの随員としてきたときならともかく……今なら、分かるでしょ?」


「でも、私には、今の私たちの数では、相手全てを倒しきる……殲滅は、いくら何でも難しいと思います。

 ……たとえ、残りの班が、合流したとしても、です」



 リカも、マリも、互いが言わんとしていることは理解していた。


 一撃を与えて退かせるのであれば何とかできなくもない、そして、全てはやってみなければ分からないと考えるリカ。


 根本的な解決には敵の殲滅以外あり得ない、そして、根本的解決を図ることは、今の『旅団』の戦力でも難しいと考えるマリ。


 二人の考えの違いが、二人の言葉の中に、鮮明に出ていた。

読んでいただき、ありがとうございます。


よろしければ、評価をお願いします。

またご感想、ご意見などがあれば宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ