53_救援前夜
私たちは、馬車でどれくらい待っただろうか。
一日も経ってはいなかったが、城門に到着したのは昼の暑い盛りであり、実際に街の中に入れたのは、その日の夜であった。
ヴィシュトレンの街に入るとようやく、馬車の外へ出ていいと先生から言われる。
聞いてすぐに馬車から出て、大きな背伸びをして変な声を上げていると、先に降りていたレイから呼ばれる。
「ルナ……疲れたな。大丈夫か? そんな声出してるけど」
「疲れたね。私は大丈夫だけど……シズは大丈夫?」
「私も大丈夫よ。むしろ、気になったのは別のとこよ。
ルナがあれだけ他の人としゃべれるようになってるなんて」
シズ……シズネは何を言っているのだろうか。そこまで私が人と喋らないと思われていたなんて、若干心外だった。
「……シズ、こいつは意外とおしゃべりだぞ」
「え? そうなの? 私といるとあんまり喋んないのに」
「昔は、中ではうるさいくらいだったぞ、こいつ。
自分のことばっか喋って、人のこと聞かないなんて何回あったやら」
レイの言っていることは確かだったけど、そこまで喋ってたかなあ……。
なんて考えていると、途端にシズの頬がプクリと膨れる。中にいた皆のことを、嫉妬しているのかと思うと呆れてくる。
「……なによ。その顔」
「ルナは私と喋ってくれなかったのに……」
「今更なことを、今言うんじゃねえよ」
冷静にレイから突っ込みが入る。
そもそも私はこの世界に来る直前まで中で引きこもりしてたし、仮にレイが表に出てたら、私たちの言いたいことほとんど全部喋るでしょうが……とは思ったが、彼にそれを言う気は無い。
だから、あえて別のことを話す。
「まあまあ。最後の方……ヨミが出てた頃は、あんま喋ろうともしなかっただろうしね。
私だってずっと一緒にいるしさ。それで、それだけで私はよかったのよ」
私を愛してくれている彼女をどうにかして宥めようとするが、膨れっ面は直りそうになかった。
彼女自身の感情が優先されて、パートナーなはずの、私のことを置き去りにされているのは、私は辛かったし、嫌だった。
「……そろそろその膨れっ面、やめろよ、シズ。
泣くぞ、ルナが」
レイも私のことを私以上に理解してくれている。
私自身の感情による被害を一番に受けてきたのは彼であり、このままだと何が起きてもおかしくはない、そう考えたのだと思う。
「私も、昔の泣き虫じゃないんだからさ……それに、街中ではやらないよ」
「街中では……? ウソつけ。どうせ泣き出すときには、そんなこと考えてないくせに」
「はあ……やっぱ、ルナたちと一緒が一番だよ」
膨れっ面してることが馬鹿馬鹿しくなったのか、ようやくシズの機嫌も直ったようだった。
たまには歩こう、とレイが言うので、馬車から降りたまま、宿屋へ向かうその後をついて行くことにした。
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「彼女たち、大丈夫そうですね」
「……ああ。でも、明日からが正念場だわ。一夜で片付けば……楽なんだけどねえ」
馬車の中ではリカとマリが、馬車後方の扉からわずかに見える三人を見ながら談笑していた。
その中でも二人は、雲った表情のままだった。
「二十五対二万、ですか」
「そうね。でも、足りないわ。
……そもそも、現在ここヴィシュトレンにいるのは僅か十五人……シズネさんを含んで十六人。
そのうち第三班の面子の二人が重症でここの診療所からは出られない。あと二人も明日の状況次第ではまだ難しい。
……第四班も、第五班も、一体どこにいるのかしらね」
リカの心配は、二つの班がいないことによる戦力ダウンのことではなく、各班の全体的な行動のペースが遅すぎるということだった。
第三班の状況以上のことが、今いない二つの班に起きているのではと考えていた。
「師匠、考えすぎても仕方ないかもですよ。
今いる面々でどうにかするしか無さそうですし」
「まあ、それもそうね」
二人の共通認識として、どうせ、第五班はどこかの村落、あるいは街中で油売ってるだろうと思っていた。
だが、比較的真面目——そもそも第五班とは基本的に比べてはいけないが——な、第四班がまだ来ないのは二人とも不思議だと思っていた。
彼ら二つの班には予め同じルートを通るように指示していたため、何かあったらどちらかの班——おおよそ第四班——が、連絡するという算段になっていたはずだった。
「待ちますか?」
マリの提案は、二つの班が来るまでということだろう。
しかし、リカは首を横に振った。
「いや、多分追いついてくれるわよ。
それに、ここからベネルーシェまでは、そこまで距離が遠い訳じゃない」
絶対に追いつく、追いついてくれるという自信がリカの答えから見えたのだろうか、それとも来なくてもいいと思ったのか。
マリは師匠の言葉に、わかりました、とだけ答えた。




