52_打ち合わせ
「お疲れ様です、団長」
「……相変わらずよね、そういうところ。
そんな堅苦しい挨拶なんか、わざわざいらないんだけど……まあ、受け取っておきましょうか」
リカは、遠征先で班を任せられたら必ず合流の際に挨拶をしてくる、この男の律儀さに若干辟易していた。
しかし、時間をかけてまで必ずしに来てくれる理由も理解していた。
「あたしの事なんて、別に気にしなくてもいいのに。
で……これからの方針のことを聞きに来たのかい? それとも、班のことかい?」
「班については……まあ、アズサの所は心配ですけど、俺の所は大丈夫っす。相変わらずポーラ嬢がやかましいのは気がかりですけど。
……それとは別で、一ついいですか?」
「何かしら?」
リカが首を傾げながらギルに聞き返すと、彼は馬車の方を指して言う。
「あの子、どうしたんですか?」
その言葉に深い意味など無く、かといって不満があるわけでもなさそうだった。
単純に彼女を拾った経緯をギルは知りたいのだろう。
「……あれは、あの子はね、ルナの一番の親友。
彼女がルナを、そしてルナも彼女のことを思ったからこその、奇跡よ。
……ルナがこの遠征の前、すっごく体調が変……というか、不調だったでしょ?」
「ええ、それは俺も見てましたから。危ないからやめろとも言いましたし。
……てことは、あのとき言ってた子……?」
ギルの言葉にリカは正解、といわんばかりに人差し指で丸を描き、言葉を続ける。
「ご明察、その通りよ。
三つ目の村を巡回した後かしらね。……村といえる状態じゃなかったけど。
野宿になったものだから、皆で寝ずの番をしていたときだね。
ルナ曰く、彗星のようなものだったみたいだけど……それがルナをめがけて落ちてきたのよ」
不可思議なことには人間はすぐに対応できないとは言うが、この話を聞いていたギルも若干頭を悩ませながら、理解していく。
「それが、彼女だった、と。
……珍しいこともあるもんですね、人間が空から降ってくるだなんて。
でも、どうしてここまで連れてきたんですか?」
「……それが、彼女自身、そしてルナの希望だったからよ」
ギルベルトの当然の疑問に、リカはどこか俯きながら答える。その返答には思わずギルも口を開けたまま固まってしまった。
「まあ、言いたいことはあるわよね。
それはそれとして、理解は追いついてなさそうかな……」
「団長、こーゆーときのギルは基本、理解は全くできてないわよ。
だってこいつは、色恋沙汰にはとんと縁もないし、向けられてる恋心も分かってないからね」
気付けば、リカのすぐ傍にアズサが来ていた。
殴られた箇所だけは簡単な治療をして、話を聞きに来たみたいだった。
「アズサ……言いたいことは分かるけどちょっと言い過ぎじゃないかしら。
……まあ、なんでそうなったかというと、ルナも、彼女……シズネも、なんていうのかしらね。共依存みたいな状況なのよね。
引き離した方が得策のように見えるけど、二人の間柄だと、正直、危険なのよね。
だから、『旅団』としては足手まといかも知れないけど……それ自体はルナも分かっているはずだし、だからあたしは了承したのよ」
『旅団』を率いるリカが出した答えはそれだったが、アズサは彼女がいることを不安視していた。
「団長、それ、本当に大丈夫なんです? ルナさんだって、不安はあるでしょうに」
「大丈夫じゃないの? ルナだって分かってるわよ。今回だけは違うって」
「……ギルはどうなのよ。先陣を切るのはギルとイツキたちでしょ」
あくまで足手まといになるならば、と思っているアズサがギルベルトにも話を振る。
「俺は……そりゃ、できれば、居ない方がいいとは思うけど。
でも、『旅団』は全員が戦力である以上、その子がここで外れるとして、それでルナさんが弱ってしまうなら、いっそ一緒に居てくれた方がいいと思いますよ」
彼が話したものは、アズサの予想を大いに裏切る内容であった。
「いいの!?」
「……いいも、何も団長が既に確定事項として考えている以上は、仕方ないだろ。
それに、アズサの班は分かるだろ。魔術の力の重要性は」
「そ、そうだけど……ルナさんの力が、絶対必要とは……」
少しずつ自分の論が劣勢になっていくアズサに、とどめを刺さんばかりにリカが答える。
「絶対いるよ。あたしの班はルナがいなきゃ危なかった。彼女の機転のおかげで馬車が無事でここまで来れたからね」
「……でも、その子……シズネさんは、どうするんですか。ルナさんが、守るってことですか?」
「まあ、そうねえ……それはルナが考えることよ。
……で、アズサ、ここに来たのはそんな話をしに来たわけじゃないでしょ?
今の第三班の状況、改めてどうなのよ?」
リカはため息をつき終えたところで、アズサの班の事情を聞く。
リカの第一班、ギルベルトの第二班は共に全員無事、あるいは軽症であった。
それに対し、アズサの率いた第三班は、蹂躙された村落からそのまま来たであろう二個旅団レベル、数にして二千匹もの魔族の一団により襲われ、二人が軽傷、もう二人は重傷を負い、無事といえるのは班長であるアズサ一人だけであった。
三方向から襲ってきた魔族の一団により、村落の襲撃も多くなり、無辜の民への被害も、他の班が回った地域よりも多くなっていた。
「……というわけで、現状うちの班は、一晩治療を受ければ何とかなるのを含めれば、私含めて三人、ですね。
あとの二人はかなり酷いから、恐らくベネルーシェには行けそうにないわ。
もし全員で、となるなら、このヴィシュトレンの中の病院で最低数日は待っていてもらわないと難しいわ」
これまでのアズサからの説明を聞いて、リカが少し考え、結論を出す。
「……うちは前々から言っている通り、全員が向かうことを前提にしているわ。だから病院での治療を優先にはしたい、してあげたい。
でも、これ以上はベネルーシェが持たないかも知れない。可能な限りで向かうしかないでしょうね」
「第四班、第五班は?」
「あいつらは何とかなるはずよ。それに、彼らはベネルーシェ集合だしね」
「……師匠、馬車はどうしましょうか。可能なら、後発のために一台置いておくべきかと……」
ここまで黙って聞いていたマリが手を挙げて話し出す。
彼女は、治療を完了した者たちがベネルーシェへと来られるようになったときのことを考えていた。
「うちの馬車じゃ入れられないでしょ?
それに、ギルのところの馬車だって決して大きい馬車ではないし、そこに三人は危ないわよ」
「ですが、私の班だと引き手が……」
「それは二人で話しなさいよ。二つの馬車で一つの、大きな班だと思って考えればいいと思うわよ」
それが一番難しいのだと、この場にいるリカ以外の全員が思っていた。
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