51_残った者と来訪者
ヴィシュトレンの城門前、リカとマリ以外の第一班のメンバーは入城の許しを得られるまで待っていた。
ルナも例に漏れず、シズネやレイと一緒になって待っていた。
すると、馬車の扉の向こうからノックする音がする。唯一、幌の外に居たイツキがそれを見てその人の元へと行く。
「おお、ギルか。団長なら、アズサの班か門番の所に行ったと思うが」
「ウチの班の馬車の方が少し遠いからな……気になったんだろうな」
この馬車を訪ねてきた男……第二班の班長、ギルベルト・ヴェルテンベルクはイツキの言葉を受けてそう推察した。
まだ比較的元気そうであった第二班は門から遠い場所へ馬車を移していた。勿論、被害著しい第三班のためである。
「……元々見に行くつもりだったんじゃない? ギルの班よりもずっと打たれ弱い連中ばかりだからな、アズサの班は」
「まあそうか……でも、流石に外で待ってるのも疲れたわ。少しお邪魔させて貰っていい?」
「転移の少女三人だから少し居心地悪いかも知れんが、いいか?」
「ああ…………三人?」
なぜか一人増えていることにギルベルトは訝しむが、すぐにイツキは言葉を返す。
「ここへの道すがらで拾ってな。全く……団長の予言も困るものですね」
「団長の、今回したと思われる予言は、決して予言じゃないと思うがな」
ギルベルトから思ってもみなかったことを言われたことで、イツキは変な顔になる。
「考えてみろよ。
転移の少女が二人、団長も含めれば三人居るんだ。また増えてもおかしくはないし、それにルナがアレだろ?
また来たところで、驚くことじゃないと思うぞ。
……まあ、元々少数で動いているこの体制だからこその芸当だな」
ギルベルトの指摘を受けて、イツキは納得ができるような、できないような、そんな表情になっていた。
「……とりあえず、団長を呼んでくるわ。中の連中と話したきゃ、話してるといい」
その言葉を残して、イツキはリカを探しに行くため馬車を離れていった。
「お邪魔しまーす」
そう言いつつ馬車の扉を開けたギルを見て、中に居た少女三人はギョッとした目をする。
「ルナ、レイ……この人、誰」
「……ギルベルトさん。一応、先生の二番弟子……三番弟子、だったっけ?
ともかく、悪い人ではないわよ。尤も、イツキさんと同じで、私や先生のように魔術が自在に扱えるわけではないんだけどね」
「ま、大方あってるな。別に団長の弟子になったつもりはないんだけどなあ……イツキさんに連れられて入ったってだけで。
俺はギルベルト・ヴェルテンベルク。この旅団では……イツキさんの舎弟、やらせて貰ってます。
気軽にギルって呼んでくれよ!」
ルナからの他己紹介に突っ込みたくなるギルベルトだったが、訂正は最低限にとどめていた。
舎弟というと、別のものを想像してしまう可能性があるし、事実ルナたちも一瞬そういったものが浮かんだ。だが彼らは元々孤児、あるいは戦争孤児であり、二つほど年の離れた義兄弟のような関係であった。
なかなか人見知りが故にまともに相手ができそうになかったルナの代わりに、レイがギルに、ここに来た理由を問う。
「で、第二班の班長さんがどうしたんですか。先生はここには居ませんよ。自分の班はどうしたんですか?」
「うちの班は大丈夫や。トウマも、ナズナも、ビートもちゃんとしてるからな。ここに来たのは、ちょっと、色々な」
「……あれ、あんたの班、ポーラお嬢様居るだろ。お嬢様はどうしたんだよ」
ルナの代わりに『旅団』のメンバーを覚えているレイが何か気に掛かったのか聞くと、ギルは少々気まずそうにする。
「……まあ、あの方は自由奔放だけど、三人で止められるから大丈夫だ、と……思うけどね」
「馬鹿たれ。だったらこんなとこ居らずに、さっさと自分の班のところに帰りなさいよ」
初対面なはずなのに、深くギルを言葉で刺しに行くシズネ。
久々の三人の逢瀬――レイは見守り役であって二人の間に入るつもりは毛頭無いから実質的には二人の間――を、邪魔されたくないのだろう。明らかに嫌味が籠もっていた。
「別にいいじゃないか! ……たまには、さ」
ギルは内心、元の班の馬車の中で待っているのが嫌そうに見えた。
何でそんなに馬車の中で待っているのが嫌なのかと、レイが聞き出そうとするところに、馬車の扉をノックする音がした。
リカを呼びに行ったイツキが戻ってきたようだった。
「……呼んできたぞ。本当はアズサもつれて話し合いしたかったけど、ちょっとマリがやらかした」
「副長さんはなにしてんの」
「……まあ、簡単に言えば、我を忘れてボコボコにしようとしたな」
「はあ」
ギルは呆れたという顔で答える。
馬車の扉は閉めていたはずだが、聞こえていたのか、ルナたちは珍しそうな顔をしていた。
ルナたちは知らないが、マリは軍紀を逸脱することが実は多い……いや、多かった。
部下に与えた命令がなされない場合には、女性でありながら鉄拳制裁することは珍しくなく、カゲトの副官となるまでは、魔術師にあるまじき武闘派武官であった。
詳細は省くが、リカが心を閉ざしていた、『冷血の氷華』とあだ名されていた頃よりも無鉄砲であり、帝国の魔術本部や陸軍省、参謀本部ですら扱いかねていた。
「……で、いつ来るの」
「俺は先に来ただけだからな。もう少ししたら、二人で来ると思う」
「そうか……マリはどうせ、団長に怒られてまたしょぼくれてんだろ」
「だと思うぜ」
少しだけ日差しがきつい気もしたが、これくらいは気にしても仕方ないと思ったギルベルトは、イツキと共に二人の到着を待った。




