50_合流
シズネが新たに加わったことにより、リカが班長をも務める『碧氷ノ旅団』第一班は、イツキ以外の五人全てが、身体的性別が女性となっていた。
そのためなのか――ルナはシズネが加わったことでより話しやすくなったのか、笑顔が増えていた――それまで以上に馬車の中が騒がしいとイツキは感じていた。
「……でも、シズさ。一ヶ月か?」
「ルナがいなくなってからだと……それくらい、かな。
……ああ、思い出すだけで気分が悪くなる」
喋りながらも、その当時のことを思い出したからか、シズネは確かに顔が青くなっており、ルナもばつが悪そうな表情をする。
リカも不思議に思いながらシズネに声をかける。
「……そんな状態で、よく耐えられたわね、一ヶ月も」
「耐えられてたわけじゃないです。
……ただ、ヨミからの手紙が、あんまりにも訳わかんなさ過ぎて、ちゃんと理解したときには、一月経ってた……それだけです」
「……あぁ、あれのことか」
レイが意味深に呟く。
その一方で、ルナはもう一人の自分が遺していた手紙のこと自体を全く知らないのか、きょとんとしていた。
「レイは、知ってたんだね。やっぱり」
「このアホが死んでたようなもんだからな。最後のゼミ終わりから丸二ヶ月か?」
「……まあ、うん。あのときはね…………」
ただでさえ表情の暗かったルナが、更に顔を曇らせる。
「ルナがいない……しばらく表に出てないことは、なんとなく分かっていたし。状況も聞いていたからね。
それに、遺ってた文面を見ても、ルナが書きそうにはないからさ。……レイはもっとないと思った。レイならそもそもこんな手紙遺さないと思ったし。
まぁ、それにしても…………ちょっとなあ、とは思ったけどね」
そう語りながらルナに笑みを見せた。だが、目は全く笑っていなかった。
「…………次は、許さないから」
シズネが、誰にも聞き取られないような声で呟く。
「え?」
「……なんでもないよ」
わずかに気付いたルナは聞き返すも、シズネにははぐらかされるだけだった。
******
これ以上の襲撃は受けることなく、公国の副都たるヴィシュトレンへと辿り着く。
すると、副都の城門の前では二つの馬車と、赤髪の女性が待っていた。
「団長、お疲れ様です。ここまで抜けてくるのに、大分手間取ったようで」
待っていたのは、第三班の班長であるアズサであった。
リカは馬車が止まってすぐに降り、彼女の話を聞きに行った。
「出迎えかしら? アズサ、ギルはどうしたのよ」
「城門で門番と言い合いしてますよ、どうせ。
どうやら、ここへの入城は団長が来てから……『旅団』としての旗頭がいないとダメだとのことで。
……そんなわけで、私の班も、ギルの班も門前で立ち往生ってことですよ。特に、うちの班は傷だらけだってのに」
若干の嘆息を交えつつ、アズサがこれまでの状況をしてすぐに、リカはマリを呼ぶ。
「マリ! 城門まで行くわよ。傷病人もいるから早めに入れなきゃいけないみたい」
「ちょっと待ってください! ほかの班はまだ――――」
「第四班と第五班は後からの合流よ。恐らく、彼らは直接ベネルーシェに行くと思うわ」
本来とは全く違うはずの予定を聞かされマリは戸惑う。
「なら、第三班の状況は……」
「後で見に行ってあげて。三班は……多分、アズサくらいしか」
マリは更に困惑を深める。
どれだけ彼らの中身が腐っていても、『旅団』の各班の強さは、帝国に存在する武装ギルドはおろか、正規の帝国陸軍の連隊にも勝るとも劣らない、そう信じられていたからだった。
「アズサ! 一体どうなってんのよ! 第三班がこんな有様になるなんて――――」
「……少佐殿も、二個旅団級の敵勢に囲まれれば、どうしてこうなったか理解すると思うわ」
マリはアズサに食ってかかるが、彼女の表情は、当時の状況に対する諦観を示していた。
二個旅団級、つまりは四個連隊、数にして三千弱の魔族。
それを僅か六人で相手にしながら、彼女らはここヴィシュトレンへと辿り着いたのだ。
普通の武装ギルドが同じ目に遭ったとすれば、いとも容易く血祭りに上げられたであろうか。
「私だってね……できることはしたのさ。魔族につけられた傷なんてそうそう治るもんじゃない。でも止血だけしてね。
それにね、追いつくわけないのよ! 気付いたら囲まれてるんだからさ!
……とにかく、そんなのだったのさ。とにかく、ただ生き抜く、生きてここに辿り着くが――――」
アズサの泣き言はだんだんと止まらなくなり、思わず口をついた言葉が、マリの琴線に触れた。
気付けば、マリはアズサに拳骨を食らわせていた。
「私たちの役目は! 私たち全員が! 生きて桐都へ再び戻ること!
ここに辿り着くことは、あくまで通過点! 馬鹿たれが!」
どうにも腹の収まらないマリはアズサを組み伏せ、殴り続ける。
「そこまでよ。傷だらけの第三班に、また怪我させるの? もう話もできなくなるわよ」
「ですが……!」
普段は師匠と慕うリカからの言葉さえも食ってかかりそうなマリの表情を見て、あえて冷静に、諭すように彼女の師は言う。
「それ以上は、私の領分よ。
確かに、私たち『碧氷ノ旅団』の役目は、全て終えて、無事に帰ってくることだわ。
だけど、それを言うために班長をボコボコにしては、意味がないじゃないの。
……それに、私からもアズサには話したかったこともあるのに……これ以上副長たる貴女の出る幕はないわ。
私の話が聞けないのなら、もう帰ってもいいわよ?」
「……分かりました。すみません」
「分かればいいわよ。でも、後でこの事はカゲトに言うから」
軍人でもある彼女は、上官の言葉には逆らえないため、この顛末が報告されることに恐怖を感じていた。
やれやれとリカは呆れながらアズサの手を取って馬車の座席へ戻していると、イツキが馬車から降りて駆け寄ってくる。
「団長! ギルが第一班の馬車の方に来てます。団長を呼んでますから、対応をお願いします」
「分かったわ。マリ、行くわよ」
「はい……」
明らかにトーンの下がるマリとイツキを連れて、リカは第三班の馬車の周りを後にする。
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