表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移少女は果てへと至るか  作者: 雰音 憂李
ⅳ 静かなひととき、されど

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/52

48_それぞれの感情

「……シズ、ごめんね……でも」

「言い訳なんていい! そんなの聞きたくない!」

 ルナが涙声になりながら呟くが、それすらシズネは拒絶のような反応を示していた。

 その反応は今まで見たことがないと、レイですら困り果てていた。

 シズネが持つ怒りはまっとうなものかも知れないが、その感情に呑まれている状態では、もはやどうしようもないとさえ、レイは思っていた。


 まだ真夜中だった、そろそろ夜が明けそうな頃でもそんな様子だった宿の一室に、若干強めに扉を叩く音が聞こえた。

 そしてそのまま、なんの遠慮もなく扉が開けられた。


 扉を開けて入ってきたのは、隣の部屋で寝ているはずだった、リカとマリだった。

「……うるさいわよ。今……何時だと思ってんのよ、バカ共。

 まあいいわ……京坂、静音さん、よね? ようこそ……でもないか」

「……この場合は、ようこそ、で合っているかと。改めて……ようこそ、この世界に」

 珍しく言葉を詰まらせるリカの言葉を引き継いで、マリは歓迎の意思を示す。


「……誰?」

「私……私たちの先生、それと、その……この世界でできたお弟子さん」

「そっか。シズは直接会ったことないもんな」

 シズネは全く知らない人からの言葉を違和感に思い、一瞬睨む。

 だが、ルナやレイから事情を聞いて、少しだけ安堵したようだ。

「……あ、そういうこと、なのね。ルナがずっと話していた先生って、あの人のことなのね」


 どうやら、ルナがずっとシズネに過去の話を度々していたことで、リカのことについても覚えていたみたいだった。

 問題は、ルナ自身が何を話していたかは全く覚えていないということだが。


「……どういう人だって、ルナから聞いているかは気になるんだけど、まあいいや。

 今はそれを聞いてる暇なんてないしね。で、この後、シズネさんは……どうしたい?」

「どうする……って、決まってますよ。ルナについて行きます。たとえ、何があっても」

 リカの急な質問にシズネは面食らってしまうが、さも当然のようにその回答は出てきていた。


 この世界を知った、いや、知ってしまったことでルナはうろたえる。レイは思わず問いただす。

「正気か? 何もこの状況が分かっていないくせに、いいのか? 絶対にルナと一緒に居るつもりか?」

「……逆に、ほかの選択肢が、何かあるの?

 ルナと居なきゃ、わたしはひとりぼっち……何もない、何も分からないのに、わたし一人置いていくの?」


「じゃあ、この際だし……はっきり言うわ。戦争中なのよ、この地域……この国は、ね」

 レイの言葉にも耳を貸そうとしないシズネを見かねて、冒頭の挨拶以降はずっと黙っていたマリが口を開く。

 だが、それでもシズネの意思は固いものだった。

「……戦争だろうと、なんだろうと、それはわたしの知ったことじゃないから。

 もしそれで、ルナと離ればなれになったら、どうしてくれるの……どうしてくれるのよ!」

「シズ…………」


 ルナは、罪悪感に苛まれていた。自分が彼女を見捨てて逃げたという自意識からか、何も言えないまま、ただ彼女たちを見ているしかできなかった。

「……はあ。

 まあいいわ。わかったわよ、シズネさん。貴女がそこまで言うのであれば、これから行く先がどんな場所であろうと連れて行くわ。

 ……それが、この世の地獄になったとしてもね。ただ、後悔はしないでね」

 リカは呆れながらもシズネの同行を認めたが、それにはマリが驚いていた。

「師匠! いいんですか!?」

「あそこまで意志の固い人間を、置いていけるわけないでしょ。

 ……ルナも、しばらくは傍にいてあげてね。彼女、多分だけどルナ以外にはあんまり一緒に居てくれなさそうだし……それに、ルナだって心配でしょ?」

「……はい、わかりました」

 急にリカから話を振られたルナは、シズネの右手を握りしめながら呟く。

「シズ、もう逃げないから」


「……師匠が認めた以上、私たちは従うだけだわ。

 でも、決まった以上は、ルナが必ず傍にいること。たとえ襲撃があったとしてもね」

「大丈夫、ですから」

 マリの、ルナへの忠告に、シズネはぽかんとした表情を浮かべていた。

「……襲撃……? そんなに、危ないの?」

「はあ……」

 話を聞いてなかったのかと、思わずマリはため息をついてしまった。

「世界、地域、うーん…………どう言うべきなんだろうね。

 まあ、この国は今危険にさらされているわ。魔族の襲撃によって、ね。だから、今はその救援に来ているのよ」


 リカは今の状況を簡単に説明をしたとき、なんとなく気付いたことがあった。

 ルナも、レイも、魔族のことについてはあまり知らない。全く知らないわけではないが、知識不足ではあろうと思った。

 ならば、三人が一緒に行動する可能性がある以上、簡単に教えておく必要があるだろうと考えた。


「……そうね。ついでだし、この際だから魔族自体のことも含めて、少し話そうか。

 まあ、魔族のほとんどは小鬼族……いわゆるゴブリンや、猛猪族と呼ばれるようないわゆるオーク、巨人族……トロルが中心なんだけど、この大陸とは別の大陸には、魔族と人間が交わった魔人族なんてのも居るらしい。

 で、今回の襲撃……実際は侵攻なんだけど、それはさっき言ったゴブリン、オーク、トロルを中心とする軍団が、魔獣も含めてだけど、数万単位の軍勢となってきているらしい。

 ……らしい、なのは、総数は数えらんないのと、情報が刻一刻と変化していっているのもあって分かんないけど、最初に話を貰った段階でこれだったから、増えていないことを祈るしかないわ。

 それで救援のために、この地域に外の国から呼ばれたのが私たち……ってとこね」

 

 三人は話を聞いていたが、最低限の情報はあったルナとレイとは対照的に、シズネはぽかんと口を開けたままだった。

「……先生は軍人ではないけど、この隊は、私たち以外は元軍人だったり、現役軍人も居たりするの。だから、国からそういった荒事を任せられるってことみたい、だよね? 先生」

「……まあ、おおよそはルナの認識であってるわよ」

 ルナの補足も、シズネにはかえって混乱させるだけだった。


「……ダメそうね、こりゃ。まあ……直にわかるわよ、何を言っていたかはね」

 リカの言葉は、すでにこの世界の“現実”を知っているルナにとっては理解できるものであり、全く分かっていなさそうなシズネを心配そうに見つめていた。

読んでいただき、ありがとうございます。


よろしければ、評価をお願いします。

またご感想、ご意見などがあれば宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ