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雑文SF「ツインズ・ブラッティの大冒険」  作者: ぽっち先生/監修俺
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女の戦いは肉弾戦っ!

基本、光速の280倍という巡航速度ですっ飛んでいるラブリー・ペガサスに手を出せる船はそうはいない。なのでプラズマ亜空間循環エンジンによる初期加速が終了し、恒星間航行用推進機関『マリー・アフロディーテ』による超高速巡航に移行すると私たちはブリッジに居ても大してする事はなくなる。

となれば私たちがやる事はひとつだ。そう、アンソニーの争奪戦である。アンソニーはブリッジにはみいくんがいるのであまり来たがらないので、ここでなら誰はばかる事無く雌雄を決する事ができるのだ。


「リリィ、今日こそ決着をつけるわよっ!」

「ふっ、あら嫌だ。エルったらもしかして昨日、私とアンソニーが『私の部屋』で今後の打ち合わせをした事に嫉妬しているの?」

リリィは勝ち誇ったようにわざと『私の部屋』という言葉を強調して私を挑発してきた。くぉのぉ~っ、私がお風呂に入っている内に抜け駆けしたくせにその言い方かっ!と言うか『今後の打ち合わせ』ってなんじゃいっ!一体なんの打ち合わせをしたんじゃーっ!


うんっ、普通に考えれば外縁恒星国家『ティスティニー』への残りの航程とか、万が一の時の独立承認文書の扱い方とかなんだろうけど、そこはほら男と女がひとつの部屋にいたらそっちの方へ自然と合意がなされるもんじゃない?

えっ、そんな事ないの?いや、確かに相手があまり可愛くない女の子だったり、ブ男なら絶対無理って事になるだろうけどアンソニーは超イケメンよ?リリィだって私よりは劣るけど世間一般の基準では美少女と呼ばれるはずだ。私よりランクは落ちるけどね。うんっ、大事な事なので2度言いました。

そしてリリィにしてもここぞ勝負の時とばかりに気合を入れていたはずなのだ。それはもう、これまで幾多の青少年相手に磨いてきた猫を被りまくってアンソニーに迫ったに決まっている。そう、決まっているのだっ!だって私だったら絶対そうするもんっ!

そして多分、いやきっと、アンソニーはその毒牙にぶすりとやられてしまったのだろう。いや、ぶすりとやるのは男の方か?

きゃっ、ちょっと頭に血が上っているせいか下品な表現をしてしまったわ。おほほほっ、今のは聞かなかった事にしてねっ!言いふらしたりしたら、顔の形が変わるくらいに殴るわよ?

しかも癪に障るのが私に対する余裕綽綽としたリリィの態度だ。こいつ本当にぶすりとされちゃったのか?でも時間的には20分もなかったはずだぞ?むーっ、アンソニーって結構早漏なのかしら?だとしたらちょっとやだなぁ。

まっ、その件に関しては後々改善してもらおう。と言うか私相手ならそれでもいいのよアンソニーっ!だって世界一可愛い私の一糸まとわぬ姿を見たらあっという間に昇天するなってのは酷だもんねっ!


なので私は当面の障害であるこの泥棒猫足るリリィを排除すべくジリジリと間合いを詰めた。リリィもそんな私に対して後の先をとるべく身構えている。そんな私たちをみて、みいくんはとばっちりはごめんとばかりにブリッジの隅へと場所を移しころんと寝そべって高みの見物を決め込んだ。


「リリィ、謝るなら今の内よ。あなた、体術で私に勝った事ないでしょ?」

「笑わせないでエル。それはいつも私があなたに華を持たせてあげていたからじゃない。そんな事も判らなかったの?」

「言ってくれるじゃない。でもその余裕もいつまで持つかしら。」

「あなたが血反吐を吐いて床に這いつくばるまでかな。私は負け犬には優しいのよ?」

「ちっ、相変わらず口だけは達者ねっ!でも3分後には後悔する事になるわっ!」

「ふんっ、あなた相手にそんなに時間は要らないわ。瞬殺してあげるから覚悟するのねっ!」

「ほざけっ!この寝取りビッチがっ!」

この私の台詞がゴングとなって私とリリィは一旦間合いを取る為にシートから飛び出し戦闘形態へと移った。リリィは狭いブリッジに合わせて跳猿の型。私は一撃必殺を狙う竜虎の型だ。

はい、突然『型』なんて言われても普通の人は判らないわよね。でもリリィと対峙している今は、詳しく話している余裕はないんでさらりとだけ説明しよう。

ここで言う『型』とは武術において初動を開始する為の『体位』の事です。かけっこで例えるとクラウチングスタートと、えーともうひとつはなんだったっけ?言葉は忘れてしまったけどそうゆう違いです。

そしてそれぞれの『型』には当然そうする意味がある。リリィの跳猿の型は狭い場所で縦横無尽に動き回る事を主眼としているので身を低くし、且つ足のグリップを最大限にする為に片足にほぼ全体重を乗せている。

対する私の竜虎の型は突進してくる相手に渾身の突きをお見舞いする為、体を相手に対して斜に構え、且つ重心移動を前後に特化させる形で足を大きく開いている。これにより前から突進してくる相手に全体重をかけた突きを繰り出せるのだ。

まぁ、言葉で言うと何と言う事はない普通の戦闘ポーズなんだけど、この『形』にはちゃんと意味があるんです。そして跳猿の型は相手の先を取る攻撃型で、竜虎の型は先に相手から攻撃を掛けさせて、相手の攻撃より速く拳を送り込む、所謂先の後を取る戦法だ。なので守備型ともいえる。

まぁ、これらの型は使う人の体格や得意とする動きによって定番みたいなものがあり、大抵の人はそれら得意分野をより一層深く探求しカスタマイズしてゆく。でもそれしか出来ないようでは臨機応変をもっとうとする武術の世界では生きられない。あまりにも専門化した技術は一旦アクシデントに見舞われると使い物にならなくなるのだ。

だから私も跳猿の型は使えるし、リリィの竜虎の型も私に劣らず威力がある。なのでその場その場の状況によって『型』は変化してゆくのだ。

とは言っても、そもそも武術とは本来相手を倒す為に編み出されたものだから勝負は一瞬で決めるのが武術の基本だ。なのでアクション映画みたいにポカスカ延々と組み合う事は稀である。まっ、あれはあれで面白いから演出としては間違っていないんだけどね。師匠も、がははっと笑いながら観ていたもの。


そして自慢ではないが私は体術においてリリィより若干秀でている。だから先程のリリィの言葉は張ったりだ。いや、ある特定の条件下では確かにリリィは手に負えないくらい強いのだが、それ以外ならまず私に負けはない。

なので一旦跳猿の型を取ったもののリリィは動こうとしない。下手に先制したら私からキツイ一撃が返ってくる事をやつも知っているからだ。だけど口喧嘩じゃないんだから動かない限り勝負はつかない。勝負はつかないが精神的なHPは時間と共に減ってゆく。

ここ、大切なところだからしっかり覚えてね。基本肉体を動かすのは精神力なのよ。だからどんなにスタミナが残っていても精神的に諦めたら体は動かないの。いい例が恐怖ですくんで動けなくなるやつね。

そんな状況を第三者がみたら、とっとと逃げればいいのにと思うんだろうけど当事者は精神的に負けているから体が反応しないのだ。精神と肉体の関係ってそれくらい繊細なのよ。だから肉体の鍛錬ばかりしていては本当の強さは手に入らない。精神の鍛錬も肉体の鍛錬同様大切なのだ、・・と私たちの師匠が言ってました。


そんな私たちの睨み合いも突然終焉を迎える。結局仕掛けなければ勝機は掴めないと悟ったリリィが覚悟を決めて動いたからだ。だけどその動きは私の予想の斜め上をいった。

「はっ!」

まずリリィは挨拶代わりとばかりに軽いジャブを私に仕掛ける。だけとそれは私の間合いにはちょっと遠い。当然リリィの間合いからも遠いから当たりもしない。所謂けん制というやつだ。これに釣られて手を出すと手痛いしっぺ返しを喰らう。なので私は送り込まれるリリィの拳を払うだけにして重心は動かさなかった。

もっともリリィもそんな私の動きは織り込み済みなので更に踏み込んではこない。踏み込んではこないのだが、手数だけは止めようとしなかった。なので私たちはまるでお互いに猫パンチを繰り出してじゃれ合っている子猫のように、その場で軽いパンチの応酬となった。

たけど子猫の遊びなら見ていても可愛らしいけど私たちのは真剣勝負である。なのでその実体は相手がミスを犯すのを待つ持久戦だった。


そして最初にミスを犯したのはリリィの方だった。

「ちっ!」

私がわざと外したリリィの拳が私の頬をぎりぎりで掠めて行く。その誘いにリリィは抗えず更なる一撃を加えるべく一歩前に出てしまった。


よっしゃーっ、貰ったぁーっ!

「ぐはっ!」

私の渾身のアッパーが、リリィのみぞおちに深々と決まる。だけど残念ながらリリィは反射的に身を僅かに引いたので完全には決まらなかった。


ちっ、往生際が悪いわね。でもこれで動きは止めたわ。次でお仕舞いよっ!

私は動きの鈍ったリリィに回復の時を与えないように矢継ぎ早に拳を繰り出す。そんな私の猛攻にリリィは防戦一方だ。なのでずるずると後退してゆく。


「ふふふっ、動きが鈍っているわよリリィ。だから言ったでしょ。体術では私の方が上だって。」

「はぁ、はぁ、はぁ。だから何?勝負は決着がつくまで何があるか判らないから油断するなって師匠に教わらなかったの?」

あーっ、教わりました。それも耳にたこが出来るくらい口煩く。でも今の状況はどう見ても私が有利でしょう?あなたは一発喰らって動きも緩慢だし、多分本来のパワーだって出せないはずだ。対して私はほぼ無傷です。これで負けたら師匠に大目玉を喰らうわ。


なので私はちょっと慢心してしまった。そのツケが次の一撃で私に跳ね返ってきた。

「これで終わりよっ、リリィっ!地獄に落ちなっ!」

私は肩で息するリリィに向けて避けようのない速さでストレートパンチを送り込んだ。だけどそんなパンチをリリィは紙一重でかわした。うんっ、来るのが判っているパンチって結構かわすのは簡単です。ましてや啖呵を切りながら繰り出したら相手にはバレバレだ。

でも判っていても何故か言っちゃうのよねぇ。何でだろう?


そしてこれはリリィの作戦だった。そう、リリィは私に大振りのパンチを出させる為にわざと動きが鈍い演技をしていたのである。なので本来来るのが判っていても避けようのないはずな私の超高速パンチもぎりぎりで避けられてしまった。

だけどそんな全体重をかけたくそ重いパンチは、相手に避けられると放った方は爆発点を失ってたたらを踏む事になる。そしてそんな私の拳の先には黒く艶やかに光るみいくんの体があったのだ。


「みぎゃ~っ!」

私の拳を脇腹に受けてみいくんは「なにすんじゃい、われぇ」とばかりに文句を言ってくる。

うんっ、ごめんね。でもあなた戦車砲の直撃を受けても涼しい顔をしていたじゃない。なのになんでパンチを受けたくらいでそんなに大騒ぎするのよ?なぁに?もしかして構って欲しいの?もうっ、みいくんたら素直じゃないんだからっ!

だけど、本当にみいくんは素直じゃなかった。多分私たちの戦いを見ていて自分も参加したくなったのだろう。なので密かに介入のチャンスを伺っていたらしい。そんなみいくんの気持ちをリリィは利用したのだった。

おかげで私はリリィとみいくんを相手にする羽目となる。まぁ、みいくんの方は遊びたいだけだろうから適当に構ってやればいいけど、そこをリリィに付け込まれてはたまったものではない。なのでいきなり私は不利な状況に陥ってしまった。


「ちっ、みいくんを味方につけるなんて卑怯よ、リリィっ!」

「ふふふっ、おつむが空っぽのエルにはこんな高度な戦術は思いつきもしなかったでしょ?勝負はパワーだけじゃ決まらないのよっ!自分のアホさ加減に自滅するのねっ!」

「ぬーっ、なによっ!ちょっと私より学校の成績が良かったからってつけ上がらないでよっ!あの程度の差なんて五十歩千歩でしょっ!」

「エル・・、千歩も違ったら300メートルは差が開くわよ。」

「その程度、みいくんなら一瞬よっ!ね、みいくん。」

「みぎゃ~。」

みいくんが律儀にも私の問い掛けに応えてくる。だけどそこに隙が生まれた。まっ、所詮は獣よ。単純なものねっ!

私はみいくんに向かって突進すると、直前でみいくんの体を踏み台にして直角ターンを決める。そして横で身構えていたリリィに足払いをかけた。みいくんが何とかしてくれると思っていたリリィはこの動きに対応できない。なのでこれでもかという程きれいにコケました。


「きゃーっ!」

「貰ったぁーっ!」

私は倒れこんだリリィに馬乗りになると最後の一発を決めるべく拳を振り上げる。だけどその腕を止めるモノがいた。はい、みいくんです。

みいくんはもう完全にお遊びモードに入っていた。だから私がみいくんを差し置いてリリィに向かった事が気に入らなかったらしい。なので2本ある尻尾を私に絡めてきたのだ。

みいくんの体長はゆうに4メートルを超えている。尻尾の長さも3メートル以上だ。体重も500キロを越しているので華奢な?私は軽々と尻尾で宙に持ち上げられてしまった。


「こらっ、みいくんっ!今大切なところなんだからちょっと待ちなさいっ!後で遊んであげるから今は駄目っ!」

「みぎゃ~。」

だけどお遊びモードに入ったみいくんは聞く耳をもたない。尻尾を絡めたまま私を床に下ろすと、そのままその巨体で私に圧し掛かって寝技に持ち込んできた。

こうなるとリリィも私に下手に手出しは出来ない。そんな事をしたらみいくんの興味が私からリリィに移るからね。なのでリリィはそーっとその場から離れようとした。

だけど私がそんな事を許す訳がない。私だけでみいくんの相手をするのは大変なんだからなっ!お前も手伝わんかいっ!

「みいくんっ!リリィが逃げるわよっ!」

「みぎゃ?」

私の声にみいくんがリリィの方を振り向く。当のリリィはいらん事を言うなとばかりに私を睨んでくる。

「ぐるるるる・・。」

みいくんは私とリリィを交互に見比べてどちらで遊ぶか思案し始める。そして結局両方で遊ぶ事にしたようだった。

なのでみいくんは尻尾でまた私を持ち上げると、そのまま背中に乗せリリィに向かって飛び掛った。私は振り落とされないようにしがみ付く。リリィは一瞬逃げようとしたみたいだけど狭いブリッジでは逃げ場もない。そもそも下手に逃げたりしたらみいくんにブリッジを破壊されてしまう。そうなったら修理代は自腹だ。うんっ、それだけは避けたいわね。

かくしてその後、私たちはみいくんに玩具として1時間程いい様に遊ばれてしまった。あーっ、疲れた。本気でみいくんの相手をすると体力が持たないわ。リリィなんてへばって倒れこんでるもの。これじゃアンソニー争奪戦はお預けね。


こうしてみいくんの乱入により私とリリィのアンソニー争奪戦は有耶無耶の内に終了した。だけど決着がつかなかったと言う事は火種は燻っていると言う事だ。なので一時休戦となったものの、何か切っ掛けがあれば忽ち再燃するはずである。


えーと、誤解の無いようにもう一度言っておくけど、本気じゃないから。この私たちのやり取りは単なる暇潰しです。アトラクションです。仮にヒートアップして本気になったとしてもそれは鍛錬だから。ちゃんと手加減します。まぁ、時々失敗してパンチが決まる事もあるけど、それはいなしきれなかった方が未熟なだけだと師匠も言ってました。

だからふたりとも結構本気で技を繰り出します。でもまぁ、二人とも体術に関してはどっこいどっこいなので中々決定打は決まらないのよねぇ。うんっ、もう一度言うけど、本気じゃありません。

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