治安維持
「なんだ、治安をどうたらと言っていたから警備の者かと思ったが…。 なかなか美しい女性ではないか。 どうだ? うちの使用人にならないか?」
使用人ってことは貴族か…。
だけどおかしいな、貴族なら騎士隊との交流があってもおかしくないのだが…。
「貴様は…。 そうか、ルカリスの長男だな? ルカリスの一族は謹慎処分が下ったと聞いたぞ。 なぜこのようなところにいる」
ルカリス…、どこかで聞いたような。
「はははっ! パパが王様の遣いと難しい話をしていたからな! 厠に向かう振りをして抜けてきたのだ!」
ダメだこいつ。
「そうか、ならば王には伝えておいてやろう。 謹慎処分を言い渡され、一日も守れなかった家がどうなるかは流石にわかるよな?」
周りの露店からは、いいぞ! やってやれ! 等の声が飛び交っている。
よっぽど嫌われているんだな。
「ふっ、ふざけるな!! 平民風情が王様に伝えるだと? パパに言いつけて奴隷落ちさせてやるからな! 覚悟しておけよ!!」
今まで見たことがなかったけど、この世界には奴隷もいるんだ。
「全く、余計な手間を増やしおって。 それと店主! 貴方も貴方だ! 貴族に食いかかるようなことなどしていないだろうな? もしも、そんなことをしていたら…」
突っかかってきたのは向こうだろ、こっちに向けるなよ。
「へー、どうなるのかな? 王宮ごとぶっ潰せばいいのかな、アローネさん?」
「へ?」
先程までの怒っていた声音はどこへやら
名前を呼ばれ、漸く顔をあげて俺を認識したアローネさん。
その表情は真っ青だ。
「と…とと…。 透殿!? 何故ここに…。 いや、待ち合わせは神殿だったのだから居てもおかしくはないのか。 失礼した、徹殿。 どうにか許してはいただけませんか!!」
腰を九十度に曲げて謝罪するアローネさん。
しかし、俺は別に怒ってはいないのだ。
「別に怒ってはいませんよ。 しかし、貴族を主とした価値観を改めた方がいいと思います。 国民かあがってくる税で生計を立てているのでしょう? どんな立場であれ、善は善で悪は悪だ。 それ以外のことなんかないと思いますよ」
これだって俺の価値観でしかないのだが、少しでも考えが変わればと思ってかけた言葉だった。
「そうか…確かに。 今度は気をつけます。 店主方、大変失礼しました! これからは考えを改め、身分の差を排除しての取締りをすることをここに誓います!」
先程の平民軽視の言葉で、各方向からの鋭い視線が飛んでいたが
謝罪と敬意のこめられた一言で、その視線も穏やかなものに変わった。
「その調子です。 騎士の目が届かない場所にも、平民ならば目が届くことだってあるのです。 双方が双方に敬意を持って生活するのが治安維持に繋がるんですよ」
しかし今更だが、何故アローネさんがここに居るのだろう。
移動時間を考えれば、まだ早い気がするのだが。




