宿
結局、最後まで名前を聞かないままお姉さんと別れた。
有難いことに完売が早かったため、まだ陽は高く散策もしやすい。
露店通りから、少し離れたところに宿場通りがあるので
今回の散策は宿探しがメインだ。
満室でないことを祈りながら、足早に進んでいく。
流石に街中で野営はしたくないからな。
しかし、目の前には沢山の宿が並んでいる。
どこにしようか。
キョロキョロしながら歩いていると、いくつかの宿は満室になっているようだった。
これは早めに決めないとな…。
考えれば考えるほどに決められなくなってしまう。
これはまずいな…。
考えるのはやめだ!
見た目で決めることにしよう!
そこそこ大きな建物で、外装も綺麗なところに決めた。
「こんにちは、部屋は空いてますか?」
カウンターに座るおじさんに聞くと、部屋は空いているそうだ。
「一泊でいくらになりますか?」
「一泊なら銀貨一枚だ。 飯が欲しければ、一食ごとに銅貨五枚を追加で払ってもらう」
ふむ、ご飯は自分で食べるからいらないな…。
とりあえず一泊でいいかな。
一度泊まってみて、よさそうなら追加で泊まろう。
「ご飯は無しの一泊でお願いします。 細かくなっちゃいますが銅貨でお願いします」
二十枚の銅貨を出して、おじさんに手渡した。
「はいよ、これが鍵だ。 二階の真ん中の部屋になる」
おじさんから鍵を受け取り、軽く会釈をして部屋に向かった。
そして、部屋を見つけて中に入ったのだが
家具がない。
家具が何も置いてないのだ。
ベッドどころか、布団もない。
毛布は持っているので、困ることはないのだが
予想を大幅に裏切られ、少しの間放心していた。
だが、部屋自体は綺麗にしてあるので良しとしよう。
それに、部屋を広く使えるのは好都合だ。
カセットコンロを三つとも取り出し、上に鍋を置いていく。
牛筋は時間がかかるので、最初は牛筋を煮込む。
他の具は、一人用おでんのパックを利用しているため
温めるだけで食べられる。
なので、仕込が必要なのは牛筋だけだ。
沸騰しないように弱火で温めながら、のんびりとした時間をすごしていたら
突然部屋の扉がノックされた。
誰かと約束した覚えはないのだが…。
「はい、どちら様ですか?」
返事をしながら扉を開けると、先程の駅弁をあげた少年が立っていた。
「突然押しかけてごめんなさい。 お弁当美味しかったです! ありがとうございました!」
「おう、それはいいけどさ…。 どうかしたのか?」
「兄妹みんながお腹いっぱいになったのは久しぶりで…。 それも、あんなに美味しい物で! お礼を言わなきゃと思って探していたんです。 そしたら、ここからあのスープの匂いがしてきたので…」
「そっか。 美味しく食べてくれたんだな、こっちこそありがとう」
こうして、少年と少し話して解散した。
アローネさんとの約束の日まで、まだ十日以上ある。
散策してない場所もまだまだ沢山あるので、これから楽しくなりそうだ。




