↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある日、勇者に選ばれた  作者: 染舞
【01】ある日、俺は勇者に選ばれた。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/19

01-03

 試練の島はとても神秘的で美しく、同時にとても不気味だった。


 外の世界を余り知らないネールは、ただ「綺麗ね」とはしゃいでいる。イデアルは……気づいているのかいないのか。そんなネールに相槌を返していた。彼も余り外に出るタイプではないから、気づかなくてもおかしくはない。

 いや。この男が気づかないわけがないか。


 試練の島の森は、誰も住んでいないにも関わらず、あまりにも『整い』すぎていた。


 一見自然の風景。しかし、計算され尽くしたように草木が生え、苔が覆う。


 そこに住まう生き物たちは、自身の行動範囲を決められているかのように、一定範囲内でのみ動いているように見えた。


 どうしても通らないといけない場所には、まるで神が配置したかのように魔物が待ち構え、罠があった。――そう。罠があった。

 人の気配がない場所に存在する罠。誰が設置したのか。


 以前の勇者?

 それにしたって以前から150年経っている。だが、目の前の罠は朽ちてはいない。


 そして奥に向かうほどに、人工物のあとである石畳や柱が現れてきた。

 崩壊した遺跡。

 だがその崩壊具合ですら、わざとそうしたかのように見えてしまう……のは、疑い過ぎだろうか。


 試練の島、なのだからそういうものだと言われたら、否定はできないが。


「ギシャアアアアアっ」

 朱と緑の巨大な鳥の首を切り落とし、息をつく。ネールがいるので、なるべく平坦な道を辿っているが……そう。ちゃんと道まで存在することには違和感しかなかった。

 前回の勇者も、その前の勇者も通った道だろうとはいえ、こんなにもしっかりと踏み固められた道が100年以上保たれているというのは、やはり疑念が残る。


 誰がこんな島を作ったのだろうか。


 やがて見えてきたのは、巨大な建造物。

 朽ち果てつつも、元来の形を残している。ただその入口には扉はなく、ぽっかりとした大きな穴が、口のように開いて俺達を待っていた。

 ぞくりとした。


――本当に、食べられるような感覚に襲われた。


「わぁっすごい! ここが勇者の剣が安置されてるところ?」

「これはまた……素材は普通の石じゃないね。どうしてこんなに形を保ててるんだ?」

 ネールが歓声を上げ、イデアルが眼鏡に触れながらじっくりと建物を見つめていた。知識欲が湧いたらしい。


「この建築様式は、二千年以上前のセルベル様式にも似てるけど、違う。もしかしてセルベル様式はこれを真似たもの……? となると、これは一体いつからここに……」

 ぶつぶつと呟いている様子に、ネールと顔を見合わせて肩をすくめた。イデアルは気になることがあると周囲が見えなくなる。


「イディっ? もう行くわよ」

「え? 待ってくれ! もう少し……ああっ! 置いていかないで~」


 奥へ進む。特に光源らしいものが見えないのに、不思議と中はほどよく明るかった。

 すべてがハッキリ見えるほどではないけれど、恐怖を感じるほど暗くもなく、歩くのに困らない。


 一本道の最奥には祭壇があり、そこには――剣があった。


「あれが、勇者の剣!? ……思ったより、地味ね」

 ネールは一瞬目を輝かせてから、残念そうにした。

 俺は苦笑した。

 たしかに勇者の剣というすごい名前にも関わらず、あまり装飾はなかった。だが、逆に言うととても実践的な剣に見えた。武器屋に置いてあっても納得できそうな、シンプルな『武器』だ。


「なんの変哲もない剣に見えるけど」

 イデアルがじっと見て、何気なく剣に手を伸ばす。

「イディっ?」

 驚いて駆け寄るが、イデアルはすぐに剣から手を離した。


「……だめだ。持てない」

 珍しく、眼鏡の奥の目が開き、鋭い目が見えた。ネールが「へえ」と感心する。


「やっぱり勇者に選ばれた人しか持てないってこと?」

「そう、かもしれないね」

 ひとまず、イデアルには特に怪我もなさそうで安堵する。


「何か罠でもあったらどうするんだ」

「あはは、ごめんごめん。好奇心が先走っちゃって」

 笑う彼をジト目で見つつ、改めて剣を見下ろした。

 陛下が、修繕するために持って帰ってきてほしい、と言っていた剣は刃毀れ一つない。むしろ新品に見えた。

 だが、この剣でなければ魔王は倒せないそうだから、見た目以外の何かがあるのかもしれない。


 慎重に手を伸ばして、柄を掴む。


――なんということだ! まさか、我が子が……。


 ふと、脳裏に声が響いた。その聞き覚えのある声は、父のものだった。


「くっ」

「アルっ?」「アル!」


 視界がゆがむ。様々なものが頭の中へ押し入り、声が響く。やがて腹の底が熱くなり――ピシッ、と何かにヒビが入るような音が聞こえた。

 そして、視界が一気に晴れ渡り、身体が軽くなった。


――そういうことか。


「……ふぅ」

 息を吐き出し、心配そうにしている二人に笑いかける。

「大丈夫。なんか一瞬変な感じがしたけど、これが勇者になるってことなのかもな」

「ほんとに? 大丈夫なの?」

「顔色は、たしかに元気そうだけど……少し休もうか」

「大丈夫大丈夫。むしろ調子はいいくらいだから。

 ただ、たしかに休む準備はしたほうが良いかもな。今日は野宿しよう。ここは逃げ道がないから、入口に行こうか」


 この遺跡の中は、常に一定の明るさを保っているから、時間の感覚が狂う。

 あと、俺とイデアルだけなら急いで師匠のところまで戻れるけど、ネールもいるから安全を取って早めに野営の準備をしたほうが良い。


 入口付近に戻り、野営の準備をする。

「ネール、乾いた枝拾ってきてくれ。それでイデアルに火をつけてもらって。

 俺は適当に何か食べるもの獲ってくるから」

 三人で野営の準備をする。


 獲ってきた兎肉と持ってきた乾燥野菜でスープを作り、あと偶然見つけた食べられる果物もデザートにした。野営にしては、中々豪勢だ。

 器を両手で持ったネールが上機嫌にスープを飲んでいる。イデアルはスープに入った肉をすくって口に放り込んでいた。

 俺は硬いパンをスープに浸してそれを食べた。うん。なかなか美味く出来た。


「んーっ美味しい! やっぱり外で食べるとなんだか違う感じがするわね」

「そうかい? どこで食べても一緒だと思うけど」

「ロマンがないわねぇ……あなたはもう少し陽の光浴びなさいよ」

「ちゃんとじいちゃんの散歩に付き合ってるよ」

「そういうことじゃないわよ」


 軽快な二人のやり取りに、ふっと笑う。魔王退治の旅をしているなんて思えない光景だ。


(まぁ、歴史によると魔王退治に失敗だなんてなかったみたいだし)

 皆が呑気なのも、そのせいもある。そもそも失敗していたら、国なんて滅んでるだろう。ここは魔王城から最も近いのだから。

 そう思うと、少し気が抜けた。

 



 夜。

 火の番をイデアルと交代ですることになった。俺が先に少し寝る。

 勇者の剣を抱きながら、目を閉じる。

 

――アル。お前は、父さんの自慢の息子だ。

 

 父の声が聞こえる。もうその声を最後に聞いてから何年も経ち、忘れていた。だけど、一度思い出すと鮮明に頭の中で再生できた。


 ある日突然、自分と母を置いて外の世界へ旅立った父。

 ある日突然、英雄として戦死したと聞かされた父。

 

 少し、考える。

 父の望みは、なんだろうか。今ここに父がいたら、どうするだろうか。


 深く考え込もうとして、カッと目を開け、自分に迫るものを掴む。


「っ!」

 息を呑む音。やや苦痛に歪んだその声は、イデアルのものだった。イデアルの手は――勇者の剣に伸びている、ように見えた。


「イディ?」

「いたたたたっ! ちょ、ギブ! ギブだって! 寝苦しそうだから外してあげようとしただけだってば」

「あ、ああ。悪い。寝ぼけてた」

 慌てて手から力を抜くと、イデアルは大げさなほどに手首を掴んで「ひどいなぁ」と言いながら、真っ赤になった手首を数回撫でた。真っ赤な跡が消える。


「……相変わらず、見事な治癒魔法だな」

「まぁね。君のお母さんに鍛えられたし……おばさん、普段はあんなにのほほんとしてるのに、治癒魔法のことになると人が変わるからねぇ」

「ははは、そんなこともあったな。俺はてっきり、お前はそのまま治癒師になるんだと思ってたよ」

 パチパチと、焚き火の音が耳を打つ。


「って、ごめん起こしちゃって。交代までまだあるから寝ときなよ」

「ああ……だけど、寝てるときに気配消して狩人に近づくなよな。常識だろ」

「それはごめん。ちょっと気が抜けて忘れてたよ」

 降参っという風に両手を上げるイデアルに肩をすくめてから、再び剣を抱いて横になる。眠れそうにはなかったが、目を閉じるだけ閉じた。


 どこかから聞こえるフクロウの鳴き声と、ネールの寝息が、心地よいくらいに調和していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。