03-02
弟子が、笑った。
俺に、二人を頼むと言って笑った。――その笑顔は、最後に見たあの人が浮かべたものと一緒だった。
「あなたの弟子になれたこと、嬉しく思います」
そんなことを言ってくる弟子に俺が出来ることは、
「お前なんか弟子にするんじゃなかった」
そんな無意味な後悔だけだった。
意識を失った二人を抱えて、不気味に振動を始めた魔王城の入口に向かう。
足でドアを蹴り開け、振り返った時、すぐに扉が閉まった。不自然に。
「くそっ! 開けろ! アル!」
アルが閉めたのだと、なんとなく分かった。叫びながら扉を叩いたが、三度叩いたあと……四度目は空を切った。
身体が前のめる。
呆然と、その場所を見た。
先ほどまであった巨大で不気味な魔王城は、瓦礫一つとして存在しなかった。
あったのは、アルが最後まで握っていたあの勇者の剣だけ。
「くそがぁっ!」
怒りのままに炎の魔法を剣に放つ。
剣は――俺を嘲笑うように魔法を吸収した。
そして、何事もなかったように地面に刺さり続けていた。
気味が悪い。
なのに、やはり空気だけは美味かった。
***
結局、俺はその後も理解できないままだった。
お嬢が、アルがいなくなったことを理解できず、受け入れられずに泣き叫んでいるのを、聞いた。
あいつの母親が、呆然と立ち尽くしている姿を直視できず、顔をそらした。
「……すまない。お前のせいじゃないのじゃ。私が、悪い。
お前はよくやってくれた」
「へい、か」
陛下は俺を気遣い、アルの死に嘆き悲しむ二人の相手をしているのを、情けないことに、ただ見ていた。
足は床に張り付いたように動かない。
そんな中、イデアルが部屋を出ていった。
ようやく足が動いて、後を追いかけた。それがイデアルを案じたのか。その場にいたくなかったのかは、良くわからない。
イデアルは、ムカつくことに、こんなときでも俺の行動を予測していたらしい。
「船長さん」
驚くことなく、静かに俺を出迎えた。
「……僕を、鍛えてくれない?」
あの面倒くさがりで、戦闘訓練などそんなに必死にしてこなかったイデアルが、そんなことを言った。
俺はこの状況を理解してない。
だが、それでも言えることはあった。
「お前、まさか弱かったからこうなったと思ってんのか?」
「? だって、あの時僕が勝てていたらこんなことにはならなかっただろうし」
このクソガキは、頭がいいのに馬鹿だ。
いつか自然と理解していくと思っていたが、ちゃんと言わないとこいつは理解できないと、俺もようやく悟る。
「んなわけねーだろ! お前がいなくなっても、同じに決まってるだろうが!」
分かりきったことを理解していないのだ、こいつは。昔からそうだ。
今も、不思議そうにこちらを見ている。
胸ぐらをつかんで引き寄せる。
アルは弟子だった。
長く側にいた。あいつのすべてを知っているとは言わないが、それでも分かる。アルが一人で背負おうとした理由。親友のイデアルに隠し通そうとした理由。それは――。
「お前がお前自身の未来を考えねーから、アルはお前に何も言わなかったんだろうが!」
アルは、悩みを誰にも言えなかった。誰かに話せば、その情報はどこかから漏れるし、イデアルは賢い。少しのヒントでも正確にたどり着く。
何も言われなくても答えにたどり着いた今を見れば分かる。
きっと本当は相談したかったのだろう。
しかしイデアルが知れば、イデアルは全力で自分が代わりとなってアルを生かす手段を取る。アルに取れる選択肢は、他になかった。
つまり……俺が問題を放置した結果がこれだった。
もっと早くに、イデアルにこのことを理解させていれば、アルは別の方法を求めてイデアルに相談していたかもしれない。イデアルも、全員が帰ってこれる方法を探し求めただろう。
「え? それって、どういう……?」
イデアルは、まだ理解が追いついてないようだった。頭がいいのに、やっぱりこいつはとてつもない馬鹿だ。
メガネの奥の目が湿り、頬を涙が伝っていることにも気づいてないようだった。
しばらくしてから自身が泣いていることに気づいたイデアルは、最初こそ不思議そうだったが、胸を貸してやると声を上げた。
「……クソガキが」
俺は、その声を聞きながら、立っていた。……ただ、立っていた。
ある日、弟子は『世界』に選ばれた。――完




