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ある日、勇者に選ばれた  作者: 染舞
【02】ある日、親友が勇者に選ばれた。

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13/19

02-06

「ネール!」

 彼女の前には骸骨騎士。巨大な剣を振り上げている! アルがいる場所からは……十メートルは離れている。

 僕はその剣を受け止められる結界の準備をしていた。普通に間に合う。しかし、手を出さずに見ていた。

 アルは、ネールと骸骨騎士しか見えていなかった。彼らしい。


 いつだってアルは、僕やネールが危険に陥ると、他のことが見えなくなる。


 アルの身体が一瞬沈んだと思った時、彼の姿は消えていた。僕の目が遅れてその姿を捉えた時は、アルの持つ勇者の剣は骸骨騎士の腕を切り落とし、二撃目で頭蓋骨を叩き割っていた。


 カタカタカタッ。

 骨は不愉快な音を立てて、崩れていった。床に骨と剣が落下して、霧散していく。霧散して――勇者の剣に吸い込まれていった。


「はぁはぁはぁっ」

 目の前ではアルが肩で息をしている。まだ僕に気づいてない。

 ネールが安堵して笑う。


「アル……ありがとう。助かっ」

「なんで着いてきた!」

 珍しいアルの怒声。それだけアルにとって肝が冷えた出来事だったのだと分かる。それだけ必死なのだ。僕は、そうはなれない。


 羨ましいのかと言われると、よく分からない。なることができないと分かっていることを求めるほど、愚かではない。

 深呼吸をした。


「足手まといだって分かってるだろうっ?」

「っ! ご、ごめんなさい。私……で、でも……アルが、なんか変な気がして」

 涙目になったネールへ、あるが更に何か言おうとしていた。


「ちょ、ネールっ? 大丈……って、アル!」

 慌てた様子で二人に駆け寄った。何も知らないという風な顔をして、平然と嘘をつく。


 嘘はだめだと教わってきた。

 たしかに嘘だらけは駄目だろうと思う。

 けれども、嘘がない世界は……僕にとっては息苦しい。アルとネールなら、そんな世界でも普通に過ごせるのだろうけれど。


「アルが怒ったのは、君が大事だからだよ。僕も朝起きて君がいないからびっくりしたんだよ」

 何も知らないという風にネールに声をかける。アルが僕を観察していることを察しながら、本当に今駆け寄ってきたのだという風に呼吸を乱す。


 じっと僕を見ていたアルは、額を手で押さえて首を横に振った。必死に心を落ち着けているようだ。


「イディ。お前が来たなら、ネールを連れて帰れ。見ただろう? 魔物の強さはそうでなくても、魔王城だ。何が起きるか分からない」

 そう言われたので、頭を掻いた。


「あー、それがさ……入口、さっき閉ざされちゃったんだ」

「……は?」

 唖然とするアルに、その気持はわかる、と心の中で同意した。


 さっき自分も、扉が閉まった時に慌てたものだ。僕の考えでは、船長がついてきていなければならないのに、その気配が掴めないから。

 もちろん、船長が本気で隠れたら自分では見つけ出せない。


 ただ、アルの目が天井に向いた。


 それで安堵した。どうやら船長は着いてきているらしい。何かあっても、船長がいれば大抵はなんとかなる。なんとかならなければ、運悪く災害にあってしまったと思って諦めるしかない。


「はぁ~~~~~~~~。イディのそばを離れないようにな」

 アルは結局、そんな長い息を吐き出して、ネール(と僕)の同行を許可した。現状、それが一番安全だと彼も判断したのだ。


 城の奥へと向かっていく。アルの頭の中にはすでに地図ができているのか。動きに迷いはない。

 だけど、僕はわざとゆっくり歩きながら、建物内の装飾を見ていく。


「この装飾は、ずいぶんと古い様式だね。……って、それもそうか。魔王と勇者の話なんて、もう何千年と続いてるし」

 

 緩めかしくも豪勢な装飾の城内を、亡霊たちが住民のように歩いている。本来ならば、肝が冷えるおぞましい光景なのだろう。しかしなぜか、城内には温かみすら感じた。ずっと誰も住んでいないはずなのだが、今も誰かが住んでいるかのような、不思議な生活感のようなものを感じた。

 別に何か、住んでいる証拠が見えたわけでもないのに。


 深く考え込みたかったけれど、そうもできなかった。


「……っ」

 ヒュッと飛んできた矢を、アルが叩き落とす――生身でやるなんて相変わらず無茶苦茶だ。そのままアルは流れるような動きで、骸骨の弓兵へ短剣を投げてから、飛びかかって剣を振り下ろ……す前に、飛び退る。


 バチッと大人を立てる手を振ると、雷が骸骨を砕いた。


 アルが振り返って僕を見る。なので、笑顔でひらひらと呑気に手を振ってみた。睨まれた。ネールがむきーっと怒った。やっぱり、アルとネールの反応は面白い。


「僕にも活躍の場ちょうだいよ」

「ちょっと! アルに当たるところだったじゃないの!」

「いたたたたっ! 大丈夫だって! アルはアレくらい避けられるから……イタイっ」

「やっぱりアルはすごいのね!」

「そんなっ、ネール! 僕は? 僕だって魔物倒したよ?」

 ネールに耳を引っ張られる。イタイ。冗談抜きでイタイ。ネールは僕に対して本当に手加減してくれない――だからこそ、好きになったのだけど。

 アルのため息が聞こえた。


「じゃれてないで、行くよ」

「あっ、待ってアル!」

「僕を置いてかないでよ」

 

 肩をすくめて歩いていく彼を追いかける。どこか、その背中が苦しげに見えた。わざと回り道をさせているような城内の構図に、苛立っているようだ。

 実際、この城の崩れはおかしい。道が崩れているのに、崩れている箇所と瓦礫の量が合ってない。明らかに人工的に崩し、道を塞いでいる。真っ直ぐゴールにいかせないように。

 そういった人工的な道は、試練の島を思い出させる。

 でも、試練の島で感じた気持ち悪さはなかった。むしろ、温かさすら感じる。この違いは、なんなのだろう。


(アルは察してるっぽい? だから、この回り道に何か思うことがあるのかな?)


 二階へ続く階段を登りつつ、そんなことを考えた。



 二階は、一階とは違い、静かだった。魔物の気配がない。

 それどころか、美しく整った部屋があった。四つのベッドがあり、やや埃っぽかったが、軽く払えば十分に使えそうだ。さらにまだ使える結界石も置いてあるし、簡易的な調理施設も付いてある。

 まるで魔王(ラスボス)前の休憩場所のようだ。


 違和感しか無いのに、悪意を感じない。――なんとも奇妙な部屋だった。


「わぁっ、ここならゆっくり寝られそうね! 先代の勇者もここで休んだのかしら?」

 アルが僕を見た。僕もアルを見た。

 この部屋がおかしいことは、互いに分かっていた。


「そうかもな」

「どのベッドが勇者が使ったベッドだろうね」

 僕たちは部屋について何も言わず、ネールに合わせた。

 はしゃぐネールは、「んー」と悩んでから「きっとコレよ! 勘だけど!」と窓際のベッドを選んだ。勘というより、枕の色がピンク色だったからだろうね。ネールはピンク色が好きだから。

 

 アルは肩をすくめ、料理を作りはじめた。


「じゃあ、僕はこのベッドにしようかな。落ち着いた色だから、きっと歴代の賢者が使ったに違いないよ」

「えー!? ただの地味なベッドじゃない?」

「地味! ひどいよ、ネール!」

 いつもの調子で泣き真似しつつ、アルを見た。


「…………」

 アルは腰につけている革袋の一つから、瓶を取り出した。……目を細める。


「アル、その瓶なに?」

 何気なく声をかけると、アルは僕をまっすぐに見つめた。


「スープの素だな。コレを入れて溶かすとスープになる」

「へぇ。この前のとは違う香りするね」

「毎回同じスープも飽きるだろ? ほらっ、もうすぐできるぞ。これ飲んで、ひとまずゆっくり寝ろ」


 そしてアルは、スープを器に入れ、僕たちに差し出してくれた。

 

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