アイシズ編①
ノビーはケラーケンの肉が食いたいと言った。
「は?」
ダリアンは果てしない軽蔑の視線を浴びせる。クラーケンとはお伽噺に出てくる怪物であり、実在しない。彼女はそんなことを話し出す彼の頭がおかしくなったのかと軽蔑した。しかし、彼の言っていたことは事実だった。
「これを見ろ(写真を取り出して投げつける)」
ノビーは白衣の胸ポケットから一枚の写真をダリアンに投げつけ、ダリアンはその写真に写っている船を丸飲みにする大蛸を見る。
「これ本物? にわかに信じがたいわねぇ」
たしかにこれがクラーケンだというのなら納得である。しかしこの写真自体が作られたものではないかとダリアンは疑った。
「アイシズ地方に出没しているという大蛸のようだ。討伐依頼が届いている」
ノビーはとある地方で被害が出ており、その討伐依頼として高位魔術師当てに依頼書が届いているという。実際に見せたダリアンにはある程度信用されたようだが、ノビーは一つ懸念点があった。それは彼女たちがついてくるのではないかという懸念だ。
(彼女らについてこさせるわけにはいかない。助手ごっこはこれで終わりだ)
この任務は非常に危険であり、決して先の旅のように子どもたちが同行できるものではないと念を押して説得したのだ。ダリアンは怪訝ながらもそれを聞いていたが、ノビーにはそのような気などさらさらなかった。本心といえば自身の旅行のための方便であり、討伐依頼は本物であるが、その本心は先に述べたとおり肉を食したいという欲求と旅行内容そのものであり、危険がどうという話には点で興味がない。
「ふーん、そうなんだ」
ダリアンは疑っていた。ノビーが自分たちを置いて勝手に旅行に行ってしまうのではないかと恐れていたのだ。
ダリアンはこのことをノスタルジアに話した。
「――と、こんな計画があるそうよ」
「そんなのだめだよ!! ぜったい一緒にいこう!!」
ノスタルジアは今すぐにでも行こうと乗り気だったが、ダリアンの計画では彼女は家に置いていくこととなっていた。
「でも残念ながら私の計画ではあなたはここに置いていくことになるわ」
「え、何で!?」
その内容は、中位魔術師であるダリアンのみがノビーの旅行に飛行魔術で強引についていくというものであり、初位魔術師であるノスタルジアには決して実行できない代物だったからである。
「(だめだめだめと叫ぶノスタルジア)」
「仕方ないわねぇー(渋々新たな計画を考えるダリアン)」
ノスタルジアはこの計画に強く反対し、ダリアンは別の計画を立てる。それはロープをノビーの荷物に引っかけ、姉妹揃って飛行するノビーについていこうというものだった。決行は明日。
「――じゃあ、この計画で行くわよ」
「ゴクリ(ノスタルジアが生唾を飲み込む)」
ノビーが三日に一回帰るという周期に合わせて実行することの予想は容易であり、ダリアンたちは即座に準備に取りかかった。




