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好奇の旅  作者: やんでれスライム
アンダーレジェンド編
14/15

アンダーレジェンド編④

 サロメは手慣れた様子で古ぼけた書庫から書物を取り出し、ノビーの前に放り投げた。彼女は何度か侵入しているようで、国の歴史に関係しそうな古代語の書物に目星を付けている。



「さ、早く見ちゃって!」



 ノビーは埃塗れの書物に手を掛け内容を吟味した。ノビーの古代語の知識は専門外であるが、その書物の内容を紐解くには十分な知識量だった。



「『遺物』……やはり遺物が関係している。『国』の崩壊に遺物が関わっていたのは間違いないようだ」

「それ本当なの!?(目を見開きノビーを凝視するサロメ)」

「ああ……それと何か『事件』があったようだ。詳しくはわからないが……『捨てる』ことが『不可』であると書いてある」



 ノビーの解読によれば遺物を捨てることが困難だったため、国が崩壊したと読み解ける。さらに王は遺物の発見を喜んでいるとも書いてある。それは何らかの事情で遺物を捨てることになり、それができないから国を封鎖せざるを得なかったと解釈できる。サロメはその空白期間を紐解いて、故郷が封鎖された原因を探っていたのだ。



「皮肉な話ね。国を栄えさせた遺物によって滅びるなんて(遺物に超常的な力があった話を聞いたダリアンの感想)」



 サロメはおもむろに立ち上がり、禁書庫を抜けて図書館も抜け出した。サロメは城の中に入っていったのである。



「ちょっと!(驚くダリアン) 見つかったらまずいんじゃないの?」



 懸念する間もなく、城方面から金属が激しくぶつかる音が聞こえる。即座にノビーらの下に白い甲冑の騎士(空洞にいたものと同じ。ホワイトチョコレート近衛兵)がやってきて取り囲み、一同は逃げられなくなる。



「あーあ、やっぱこうなるのね(腕を広げて降参のポーズ)」



 ダリアンらはサロメの位置まで連行され、城の通路では(果実臭がする)極彩色のドレスを纏った、厚化粧の高貴な雰囲気の女性がサロメに話しかけていた。



「サロメ、何事ですか。また悪ふざけでもしているのですか?(冷たく視線を落とす女性)」

「女王様!! お爺ちゃんに会わせて!! 今どこ!?(床にへたり込んだまま、拳を握り込んで女王に訴えるサロメ。側近の近衛兵に槍を向けられている)」

「ドラモントなら、今は王の間に居ると思いますが……この者たちは誰ですか?(ノビーらに視線をやる)」

「そこに連れてって!! 早く!!」

「言われなくてもそうします……サロメ、またあなた良からぬことを企んでいますね?」





 王の間に連行された一行は、同様に縄で縛られているドラモント(下水道前で会った指揮官)を発見する。



「お爺ちゃんっ!!」

「(サロメの方を見やるドラモント)」

「何であの人捕まってるのかしら」



 ドラモントはサロメが到着するや否やすべて自分の指示だといった。連れてこられたばかりの一行には話が見えないが、少なくともサロメの思惑に近しい話だろう。



「どういうことですかドラモント。あなたの指示だというのは?(玉座からドラモントに質問する女王)」

「……その人物らを連れてこいと言ったのも、すべてわしの指示だということじゃ(女王を見据えるドラモント)」

「とうとう吐いたな、この裏切り者めが!(縄を持った興奮する大臣)」

「女王様、違うんです! 全部あたしがやったんです! あたしが連れてきたんです!!」

「話が見えてきませんが……二人のうちどちらかが推進派として裏切った、ということですね?」



 女王は冷静に二人を見やる。ダリアンらは全く話が掴めないが、おそらく政治絡みの話なのだろうと踏んでいる。サロメが女王に事の発端を言及すると、場が騒めく。



「女王様、遺物によって国が封鎖されたというのは本当なんですか!?」

「貴様……何をいっている……!(焦る大臣)」

「構いません(手で制止する女王)。その者たちが書庫から出てくるのを見ました……おそらく、サロメが見せたのでしょう。サロメ、あなたの言っていることは事実です。この国は遥か昔に遺物によって他国との交流を断絶せざるを得なくなって以来、数百年間秘密裏に隔絶されています」



 お菓子の国は夢だけで出来たお伽の国ではない。実際の歴史とそれに対応する人間が生み出した欲望に塗れた煩悩の国だった。お菓子の国は先住民によって開拓され、何世代にもわたって継承されてきた歴史ある国だった。開拓者の長だった初代王は、継続した開拓によって人々を招き入れ、「紫甘晶」と呼ばれる特産品を武器に、攻め入ることも、攻め入られることもなく、周囲の国々と友好的な貿易関係を築いていた。


 紫甘晶は調味料から薬品に至るまで様々なものに加工できる唯一無二の特性を持っており、周辺の国々はこの紫甘晶から作られる甘いスパイスに虜になっていた。だが、この紫甘晶の採掘中、遺物を発見する。巨大な紫甘晶にも見えたその遺物は「魔力を流した者の願いを何でも叶えることができる」と形容してよい程の力を持った危険な代物だった。


 しかし、当時の王はそれを国の発展のために使うことにした。さらなる紫甘晶の増産、国の整備、衛兵の製造といった、昨今のお菓子の国を継続するのに必要な土台がすでにこのころ出来ていた。


 だが、遺物による生産には一つ懸念点があった。それは段々増産の制御が効かなくなってきていることだった。魔力を流せれば誰でもよいため、当時の大臣がその作業に当たっていた。最初は多少の生産数のブレだったものが、いつしか生産現場全体を覆う程の暴走を見せ、終いには書物に書かれていた事件でもある「紫結晶事変」を引き起こし、国はその解体作業に追われた。紫結晶はきわめて硬度が高い難儀な鉱物であり、その解体作業には数か月掛かる見通しだった。貿易路が開かれなければ商人を帰すことも新たに呼び込むこともできず、国は混乱に見舞われる。


 遺物の研究を進めるうち、遺物の増殖能力が指数関数的に飛躍をしている事実が手に入る。これは最早制御できない破滅を齎す遺物に変貌していることを示しており、王は国を閉鎖せざるを得ない判断に迫られる(スパイやその即時破滅性を考慮して)。当然国は混乱に見舞われたが、国の閉鎖を宣言しても、意外にも多くの国民が国に残るという選択をした。これが昨今のお菓子の国の子孫の先祖たちであり、そこには鼠の獣人も含まれる。国民は研究施設の暴走という建前を信用し、王と共に再建していこうという覚悟があったのだ。王はこのような状況に至っても真実は王族の間だけに留め、遺物の情報を外部に漏らさなかった。


 お菓子の国は開拓者が開拓する前から遺跡として先住民の痕跡が残っており、遺物に関してもすでに先住民が遺棄している痕跡が見つかる。つまり遺物の遺棄という選択肢が否定されているということであり、同じことを繰り返しても危険な状態の遺物を放棄するだけになると初代国王の遺言で否定されている。遺物を遺棄する時は国の存続が危うくなった場合のみと明確に定められており、この王の遺言を守る王族の一派を「秘匿派」と呼ぶ。


 対して、外部に助けを求めるべきであると主張するのが「推進派」であり、「遺物の破壊」という目標は両者一貫しているものの、すでに存続が危ういと警鐘鳴らす一派である。ドラモントは推進派であり、国力が大幅に縮小しつつあることを懸念していた。



「一体どこから出入りさせていたのだ!(苛立つ大臣) 答えろ、ドラモント!(縄を引っ張る)」

「過去の地上進出用の経路の一部を使った……あそこなら『封鎖用の紫結晶』も薄かったし、わしの管轄じゃったからな」



 お菓子の国は過去に地上進出を目論んでいたことがあり、お菓子の兵舎やあの縦穴群はその名残だった(ブリキによる上層作業用の拠点)。しかし、そんな最中紫結晶事変が起こり、計画は中断、兵力は国中に散らばった紫結晶の解体作業に回すことになる。そればかりか、王が閉鎖を宣言したため地上と繋がる経路はすべて破棄され、研究によって生成可能となった高硬度の紫結晶によって人為的に封鎖された。


 密偵はドラモントの愛国者選抜を抜けた中位以上の魔術師だけが選ばれるいわばエリートだった。ドラモントは地上に魅了されるのを恐れ、深い愛国心を持った者のみを密偵に任命した。



「お爺ちゃんがあたしのことを『密偵』に任命した時、『この国は好きか?』って言ったの覚えてる?」

「……覚えておるよ」

「あたし、この国が好きなんだ! だから歴史についてたくさん勉強したけど、わからないこともあった……だけど、その原因が遺物のせいだってわかって、だからお爺ちゃんが極位魔術師を探してこいっていった意味がわかったんだ。女王様! お願い、あたしこの国が好きなの。絶対連れてくるから、あたしを――ううん、みんなを探しにいかせて!!(力強い目)」

「話が掴めないんだけど、極位魔術師ってあの人のことよね?(小声)」

「だろうな」

「(何もわからない様子で宙を見るノスタルジア)」



 ドラモントは過去の密偵から地上で王宮魔術師候補が逃げたというニュースを掴んでいた。極位魔術師とは王宮に仕えるのが一般的であり、その損失は大々的にニュースになって報じられる。密偵はその情報を掴み、ドラモントに渡していた。しかしその情報を掴んでから七年間、ドラモントは数多くの密偵を地上に送り込むが、その所在を掴むには至っていない(捜索範囲に対して規模が小さ過ぎる)。


 ノビーがその所在を知っているかもしれないと明かすと、現場は騒然となる。ドラモントまでもが目を見開き、縄を引き千切らんとする勢いで「それはどこじゃ!!」と血眼で食ってかかる。



「我々はどうなる?(女王を見据えるノビー)」

「ええと……あなた方は国の機密を知ってしまった以上、国から帰すわけにはいきません……いかないのですが……(交渉に目を逸らせる)」



 ノビーはそれは黒魔女の森だといった。黒魔女の森とは、このお菓子の国の丁度真上に位置するあの森である。ドラモントはそんな近くにと、笑うような怒るような不思議は面持ちで喜んでいる。



「あなたのいっていることが本当かどうか確かめる必要があります……サロメ、彼についていって発言が本当か確かめてきなさい」

「いいの!?(驚くサロメ)」

「しかし、彼が戻ってくるまでそこの子どもたちは城に軟禁します(ダリアンらを指定)。ドラモントも同様です。縄も解きなさい」

「ありゃ」(ダリアン)



 ドラモントは縄を解かれ、ノビーはダリアンに胃腸薬の残りを渡し、ブリキの兵隊とサロメとともに城の外に連れていかれた。



「あなた方はこちらです(女王自らダリアンらを牽引する)」

「ねー、その服って食べられるの?(裾に目をやるダリアン)」

「何を……(困る女王)ゴホン、食べられます。少量の保存剤で済みますから」

「その保存剤っていうの? 普通のやつじゃないでしょ?(鋭い眼光)」

「そのとおりです……メデューサ・アイスは紫甘晶から作られる硬化防腐剤および麻薬です。街の景観を見たでしょう? あれにはすべてメデューサ・アイスが塗布されています。初代国王が街全体を本物のお菓子に変えてから現在に至るまで、ごく初期を除き建材は長持ちするよう工夫されているのです……しかし、その紫甘晶も現在は採掘量が減少傾向にあります……もしこのまま紫甘晶が取れなくなったら……(そこまで言って口を閉ざす)」

「なるほどねぇ……(鼠たちが何をしているのか悟る)」



 紫甘晶は国によって徹底的に採掘場および流通量を管理されている。国は国民の娯楽要素として鎖国を維持するために紫甘晶を薄めた「レモン・キャンディー」を配布しており、国民の数少ないストレス解消要素となっている。しかし酔い潰れた鼠たちが食べていたのは加工前(薄める前)の紫甘晶(グレープ・キャンディー)であり、その効果は薄めたものの数倍以上である。


 鼠たちは地下に何かがあると踏んだサロメに指示されるがままに紫甘晶の存在を露わにし、すぐに虜になっていった。結果サロメは遺物という国の存続に関わる発見をしたのだが、その代償は大きかった。鼠たちは採掘可能な紫甘晶を取り尽くし、採掘量に大きな打撃を与えている。それだけならず、建材に使用されている微量なメデューサ・アイスも溶かして違法なレモン・キャンディーも製造しており、目も当てられない。


 ダリアンらは城の一角にある寝室に案内された。すべてが菓子で出来ており、麻薬が含まれていると知ってもその魅力は変わらない。



「お菓子は別に用意させますから建材は食べないでください……直すのも大変なんですから(ダリアンの目論見を察しながら)」



 扉を閉められ、ダリアンはノビーが帰ってくるまでこの部屋で過ごすことになる。扉の外にはブリキの兵隊が待機している雰囲気があり、出られそうにない(出る気もない)。

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