アイシズ編⑥
彼らの旅路はまだ終わりではない。本来の目的がある。
ノビーはガストノとクラーケンの肉の調理をさせる約束をしていた。クラーケン被害の情報はスダリクまで届いており、ガストノは得体の知れない化物を調理させられる約束をして顔を青褪めていたのだ。保冷箱に入れられた複数のクラーケンの足を調理場に運び、ガストノはどう調理しようか悩んでいた。ガストノは腕の立つ調理人であり、彼がこの街で細々とやっていけるのもそのこだわりゆえである。
ガストノは自身が行え得る様々な調理法を試した。焼身や炒め、茹で、和え、あらゆる素材やレシピを駆使してノビーの期待に応えようとした。しかし結局美味かったのは必要以上に焼かれたあの船上の焼身のみであり、そのすべてが異常なまでの水分によって味を台無しにしていた。
「期待と違うな」
「なんか水っぽいわ」
「おいしくない!!」
ガストノは膝から崩れ落ちた。彼は得体の知れない怪物を調理する不安で頬をこけさせている。味見などできるわけもないが、腕を振るった料理をここまでコケにされると来るものがある。
「約束を守ってくれて感謝する。これは礼だ(金をテーブルに置くノビー)」
ガストノは崩れ落ちた姿勢のまま退店するノビーらを見送った。彼は気が弱く、同郷のよしみということでノビーの頼みを断れなかったのだ。
肉が余ってしまったのでシュガー・シュガーにも持っていく。彼ならもしかすると上手く調理してくれるかもしれないという淡い期待があった。クラーケンの足をまじまじと見た後、彼はおもむろに大鍋にすべて入れ込み、袋いっぱいの砂糖をすべて鍋に投入した。
「……大丈夫なの? アレ」
鍋からは良い匂いが漂ってきており、彼の独特の目線が光る逸品が完成する。
「これは……(皿に盛りつけられたクラーケン料理を見るダリアン)」
甘露煮と名づけられたそれは甘いシロップがてかてかと纏わりついており、香ばしい匂いと湯気が食欲をそそる。
「パクッ(恐る恐る切り身を口に運ぶダリアン)」
一口咥えたダリアンは想定外の美味しさに喉を鳴らした。瑞々しさが甘いシロップとなって非常に喉越しが良く、不快な臭みも消えている。ノビーらは驚きのなかその一品を心ゆくまで食した。店主は先のようにガハハと笑いながらその様子を眺めていたのだった。




