子ども扱い
ふと、見ると。
広間の、隅で。ユリウスと、フェンが。何やら、話して、いた。
人間の姿の——フェン。すらりと背の高い、金髪の青年。腕を組んで、やれやれといった風に。ユリウスと、何か、言葉を交わしている。
(……仲、いいなぁ)
私は。ふらり、と。その方へ——歩み寄った。
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「あ。緑」
ユリウスが。私に、気づいて。ふっと、表情を——やわらげる。
その、何気ない、笑み。
(……あ)
なんだか、急に。胸の奥が——ぎゅう、と。なった。
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思い、出す。
この世界に、来て。ずっと、ずっと。「シルヴィアのフリ」を、して。誰にも、本当の自分を——言えなくて。
そんな中で。この人だけが。気づいて、くれた。
『君は、あのときのシルヴィアじゃない』。『今の、中身の君が——好きなんだ』。
完璧な、悪女の仮面の——奥。私が、必死に隠していた、本心を。たった一人——見抜いて、くれた。
(……ほんとうに)
この人は。ずっと——「私」を。見て、くれていた。シルヴィアの、姿じゃ、なくて。中身の、池崎緑を。
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胸の奥から。じわじわと——あたたかいものが。湧き上がって、くる。
気づけば、私は。ユリウスの、横顔を。じっと——見つめて、いた。
その、深い青の瞳。すっと通った、鼻筋。少しだけ、無防備な——口元。
(……かっこいい、なぁ)
なんて。ぼうっと——見惚れて、いたら。
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ふと。
ユリウスが。視線に——気づいた。
目が、合う。
彼は——ふっ、と。少し、いたずらっぽく。笑った。
「……どうした? そんなに、見つめて」
「——っ!?」
かああっ、と。顔が、熱くなる。
「ち、ちが……! 別に、見てな……っ!」
(……み、見てました! めちゃくちゃ、見てました!)
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わたわたと、する私を見て。ユリウスは。くすくすと——楽しそうに、笑う。
それから——フェンの方を、向いて。
「フェン。緑は、この通り——僕に、夢中だからな。もう、あまり——からかわないで、くれよ?」
「——っ、ユ、ユリウス様!?」
な、何を、さらっと——!!
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『……フン』
フェンが。鼻を、鳴らした。やれやれ、と言いたげに。けれど、その口元は——どこか、面白がっている。
『稲荷寿司を、くれたら——考えてやってもいい』
「……稲荷寿司?」
ユリウスが。きょとん、と——首を、かしげた。
『なんだ、おぼっちゃん。知らんのか。あの、黄金色に、輝く——至高の、料理だ』
(……いや。そんな、大層なものじゃ)
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「……ところで」
ユリウスが。ふと、思い出したように——口を、開いた。
「前から、気になっていたんだけれど。その……『おぼっちゃん』というのは——」
そう。フェンは。いつからか、ユリウスのことを。「おぼっちゃん」と、呼ぶように、なっていた。
『……あ?』
フェンが。心底、不思議そうに——ユリウスを、見た。
『俺からしたら。おぼっちゃんは——おぼっちゃんだ』
「……いや。それは、答えに……」
『俺が、何百年——生きてると、思ってる』
フェンが。やれやれ、と——肩を、すくめた。
『お前みたいな、人間の若造なんぞ。俺から、見れば。みぃんな——おぼっちゃんか、お嬢ちゃんよ』
(……あ。なるほど)
そういう、こと、か。何百年も生きる、精霊から、見れば。ユリウスも、私も。まだまだ——ひよっこ、なのだ。
「……つまり。子ども扱い、というわけか」
『察しが、いいじゃないか。おぼっちゃん』
「……むぐ」
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子ども扱いされて。ぐぬぬ、と——言葉に、詰まる。ユリウス。
その、いつもの余裕が——崩れた、横顔が。おかしくて。私は——ぷっ、と。吹き出して、しまった。
「ふふっ。ユリウス様が、子ども扱い、されてる」
「……緑まで」
『くっくっ。仲が、いいな。おぼっちゃんと——お嬢ちゃんは』
「「——っ」」
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長い、長い夜が、明けて。
あんなに、張り詰めていた、すべてが。嘘みたいに——ほどけて。
ただ、こんなふうに。くだらないことで、笑い合える。
その、何気ない時間が。
(……しあわせ、だなぁ)
たまらなく——愛おしくて。
私は。そっと——隣の、ユリウスの手に。指先を、絡めた。
彼が。ほんの少し、驚いて。それから——きゅっと。握り返して、くれた。




