子猫ちゃん
しばらく、すると。
避難して、いた——人たちが。ぞろぞろと。この、広間へと。戻ってきた。
みんな。どこか——ぼうっと、している。闇に、囚われていた——あいだの、記憶が。曖昧なのだろう。足取りも、視線も。少し、おぼつかない。
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私は。一人ひとり。怪我が、ないか——確かめて、回った。
「お怪我は、ありませんか? ……うん、大丈夫そう。お気をつけて、お家に、帰ってくださいね」
幸い。大きな、怪我を、した人は——いなかった。みんな、こくこくと、頷いて。ふらふらと、城を——後にしていく。
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「……シルヴィア?」
ふと。コンラート様が。私を見て——首を、かしげた。
「はて……。わしは。一体、何を……」
(……っと。お父様も、ぼうっとしてる)
まずい。正直に、説明したって——今の、ぼんやりした状態じゃ。きっと、理解できない。
なら——。
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「お父様。忘れて、しまったんですか?」
私は。にっこりと——微笑んで、みせた。
「昨夜は。朝まで——盛大な、舞踏会が。開かれていたじゃ、ないですか。みなさん、楽しまれて。少し、お疲れなんですわ」
「……朝まで、舞踏会。いや……うん? そ、そうか? ……そう、だったかの」
(……よし。乗り切った)
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(……ちょっと。力技が、すぎる、けど)
仕方ない。闇の影響が、残ってる——今の状態じゃ。まともに、説明したって。混乱させるだけだ。「楽しい、舞踏会が、あった」。そう思って、帰ってもらう方が。きっと——みんなのためにも、いい。
同じような、説明で。人々は。一人、また一人と。穏やかな顔で——帰っていった。
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(……あれ?)
ふと。私は——気づく。
「そういえば……エマは?」
いつも、そばにいてくれる——栗色の髪の、侍女。あの子の姿が。さっきから——どこにも、見当たらない。
きょろきょろと、見回す私に。お姉様が。胸を張って——答えた。
「エマなら! 家に、閉じこ——」
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「……安全な、場所に。匿って、いるわ!」
(……ん?)
今。お姉様。「閉じこめ」って——言いかけ……?
「ふ、不穏な、空気が、したから! エマを——安全な場所に。匿ったのよ! ……だって。あなた」
お姉様が。じとっ、と——私を、見る。
「前に。エマが、攫われたとき。あなた——後先も、考えずに。助けに、飛び出して、いったでしょう? また、同じことに——なったら。困りますもの。だから——先に。エマだけは。攫われないように、しておいたの」
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(……お姉様)
なんだ、かんだ、言いながら。エマのことも、ちゃんと——守って、くれていたんだ。
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「……もっとも」
お姉様が。ふう、と——息を、つく。
「あなたときたら。エマを、助けに行く——どころか。今回は。お城の、闇だの。とんでもないものに。自分から——飛び込んで、いったのでしょう?」
(……う。た、確かに……)
「まったく」
お姉様が。呆れたように。けれど——どこか、誇らしげに。微笑んだ。
「まったく——スケールの、大きい。妹ですわ」
「……えっと。それは……褒め、られて……ます?」
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そんなふうに。わいわいと。後始末に、追われて、いると。
「——みどり……で。よろしかったかしら?」
ふいに。背後から——凛とした、声が。
(……っ)
どきり、と——する。
振り返ると。そこには——イザベラが。立って、いた。赤い髪を、揺らして。まっすぐに、私を——見つめて。
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「……はい。緑、です」
私が、頷くと。イザベラは。すっと——背筋を、伸ばして。
そして——深々と。頭を、下げた。
「この度は。わたくしの、父を。救ってくださって——本当に。ありがとう」
「——っ、い、イザベラ様!?」
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「……む。緑、と言ったか」
その隣で。目を覚ました、ばかりの——王様までもが。ゆっくりと。頭を、下げる。
「後始末まで……対応してくれて。本来は、王家の、仕事を。……私からも。礼を、言う。ありがとう」
「——っ、そ、そんな! 頭を、上げてください! 王様も、イザベラ様も!」
私は。慌てて——両手を、振った。
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「わ、私は。ただ。やれること、を。やっただけで……! それに。私、一人の、力じゃ、ないですし! みんなで——力を、合わせた、結果、ですから!」
あわあわと、する私を見て。イザベラが。ふっと——表情を、ゆるめた。
「……ふふ。あなたは。本当に——変わった、人ね」
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「ところで——」
イザベラが。ふと。いたずらっぽく——目を、細めた。
(……あれ?)
その、顔。
ついこの間まで。あんなに、刺々しくて。近寄りがたかった——悪役令嬢が。今は。こうして、見ると。
(……年相応の。女の子、だ)
くすり、と。少し、意地悪く——笑って。イザベラは、言った。
「わたくしの、婚約者候補と。ずいぶん——仲が、よろしいようね?」
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「——っ!?」
(……あ)
(……あーーーっ! 忘れてたーーーっ!!)
そうだ。ユリウスは。表向き——イザベラの。婚約者、候補。
(……腹いせで、指名した、っていう。あの——!)
「あ、あわ、あわわ……っ!」
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「イザベラ。……からかうのは、やめてくれよ」
すっ、と。ユリウスが。私と、イザベラの——間に、入った。
「彼女が、困ってる」
「ふふん。……あら。庇うの?」
イザベラが。にやにやと——ユリウスを、見る。ユリウスは。少し、ばつが悪そうに——咳払いを、した。
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その、ときだった。
『——なんだ、なんだ』
ひょこり、と。フェンが。顔を、出した。
『まだ、その、お嬢ちゃんは。緑を、いじめて、くるのか?』
「ちょっ……フェン!」
冗談、めかして。けれど。さりげなく——私を、庇うように。フェンが、間に、割って入る。
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その、瞬間。
イザベラが。じっ……と。フェンを——見た。
(……あれ?)
なんだろう。今——イザベラの、視線が。少し、フェンに。留まった、ような。
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「……ふ。ふふ」
イザベラが。すっと——目を、細める。
そして——あの。かつての。背筋が、凍るような——悪役令嬢の、笑みを。浮かべて、みせた。
「お忘れ? わたくし——これでも。立派な、悪役令嬢、ですのよ?」
「ひぃっ!?」
(……で、出た! やっぱり、怖い……っ!)
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でも。
『……は?』
フェンは。きょとんと——して。
それから。心底、不思議そうに——首を、かしげた。
『何を、言ってる。俺から、見れば——』
じろり、と。フェンが。イザベラを、上から下まで——眺めて。
『パヤパヤに、毛を逆立てた——子猫にしか。見えんぞ。お嬢ちゃん』
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「——なっ……!?」
イザベラの、顔が。かああっ、と——赤くなる。
「こ……『子猫』!? わたくしが!? だ、誰が——お嬢ちゃん、ですって!?」
『お嬢ちゃんは、お嬢ちゃんだろう』
「——っ、こ、この、無礼な——精霊!!」
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(……あれ?)
ぷりぷりと、怒る——イザベラ。やれやれ、と——受け流す、フェン。
その、やり取りを。私は——ぽかんと、見て。
(……なんだろう。この、二人)
なんだか——妙に。お似合いな、気が。して、しまった。
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(……ま、まさか、ね)
私は。こっそりと——笑いを、噛み殺す。
長い夜が、明けて。
みんなが、それぞれの——あたらしい、関係を。少しずつ。結び、はじめて、いた。




