銀色と金色
夜が、明けて。
張り詰めていた、すべてが——ほどけて。私が、ほうっと。息を、ついた、そのとき。
「——ところで」
いつのまにか。すぐ、隣に。フレデリカお姉様が、立っていた。
「ひゃっ!? お、お姉様……?」
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「あなた。さっきから——ずっと。『緑』と、呼ばれていらっしゃいますわよね?」
「……っ」
心臓が、跳ねた。
(……あ)
そうだ。闇の精霊王も。ユリウスも。みんな、私を——「緑」と、呼んでいた。お姉様の、前で。
お姉様は——私を。実の、妹だと。シルヴィアだと、思っている。なのに。
(……私は。お姉様が、心配してくれている。本当の、妹じゃ……)
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「それと——」
お姉様が。すっと。視線を——少し、離れた場所へ、向ける。
そこには。金色の光をまとった——精霊の、シルヴィアが。穏やかに、佇んでいた。
「……なぜ。銀色の、シルヴィアと。金色の、シルヴィアが。二人——いますの?」
「——えっ!?」
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私は。思わず、目を——見開いた。
「お、お姉様。い、今——はっきり、見えて……?」
「ええ。はっきり、くっきり。見えてよ」
お姉様は。当然のように——頷く。
「このお城に、来てから。なんだか——いろんなものが。見えるように、なりましたの」
(……えっ。ま、まさか)
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(妹を、守る——っていう。一念で。神聖力が……覚醒、した、とか?)
隣国の血を引く、お姉様。その身に宿る、神聖な力。それが——この、闇との戦いの中で。妹(と、お姉様が思っている、私)を、守ろうとして。花開いて、しまった、のかもしれない。
でも。今は——そんなことより。
お姉様に。見えて、しまっている。精霊の、シルヴィアが。「二人の、シルヴィア」が。
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「あの……お姉様」
私は。おずおずと——声を、かけた。
もう。隠して、おけない。それに——隠したく、なかった。これまで。何も知らないまま、私を——不器用に、心配し続けてくれた、この人にだけは。
「実は……」
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私は。ぽつり、ぽつりと——打ち明けた。
私が、本当は。シルヴィアじゃ、ないこと。元の世界から——この身体に、来たこと。本当のシルヴィアは。もう、精霊になって。あそこに、いること。
お姉様は。ぱちぱちと——目を、瞬かせて。
「……えぇっ!? て、ことは。こちらの、シルヴィアは。シルヴィアの——みどり、で。あちらの、シルヴィアは。シルヴィアの——シルヴィア、ですの!?」
「えっと……は、はい。だいたい、そんな……感じ、です」
(……すごく、混乱、してらっしゃる)
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お姉様は。高速で——あわあわと。両手を、宙で、わたわたさせ、ながら。
「で、でも。それじゃあ。わたくしの、妹は。本当の、妹は——もう。い、いえ、でも。あなたも、妹で。あ、あら? どっちも——妹?」
ぶつぶつと。目を、白黒させて。
そして——。
ぴたっ。
突然。動きを、止めた。
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うつむいて。
わなわなと——肩を、震わせ、始める。
(……っ。お姉様)
やっぱり——ショック、だったんだ。
本当の妹は、もう、自分の知る形では——いない。そう、知って。当たり前だ。ずっと、心配して。ずっと、見守って、きたのに。
「か……」
(……?)
「か……か……」
よほど——衝撃だったのか。お姉様は。言葉に、詰まって。
俯いたまま。ぷるぷると、震えて。
(……ごめんなさい、お姉様。私、ずっと——黙ってて)
私が。そう、胸の中で——謝った、瞬間。
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「——かわいい妹が、二人に、増えてしまったのですわーーーーっ!!!!」
「——————っ、へ?」
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がばっ、と。
顔を、上げた、お姉様の——その目は。
きらっきらに。輝いて、いた。
「まあまあまあ! どうしましょう! 銀色の、シルヴィアも! みどりの、シルヴィアも! どちらも、こぉんなに——かわいくて!」
「お、お姉様!? あの、話を——」
「あなた、ずっと! わたくしのこと『お姉様』と、慕ってくれて! それが、別の子だったとしても! 妹は、妹! いいえ——妹が、二人! これは、もう! 嬉しいに、決まってますわ!」
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(……あ、あれ?)
予想と——あまりにも、違う、反応に。私の方が、ぽかんと——してしまう。
精霊の、シルヴィアまで。金色の光の中で。くすくすと——肩を、揺らしていた。
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「ふふっ。……お姉様ったら。昔から、そうなのよ」
精霊シルヴィアの、声。私にしか——聞こえないけれど。とても、優しい、響きだった。
『素直じゃ、なくて。いつも、つんけんしてて。……でも。本当は。誰よりも——あったかい人なの』
(……うん)
知ってる。私も——ずっと、そばで。見てきたから。
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「さあ! こうしては、いられませんわ! 二人とも——ちゃんと、紹介してくださいな! わたくしの、新しい妹を!」
ぐいぐいと。私の手を——引っぱる、お姉様。
その、強引で。あったかい、手のひらに。
私は——思わず。笑って、しまった。
長い、長い夜が明けて。最初に、訪れた——あたたかな、騒がしさ。
ああ。
ちゃんと——日常が。戻って、きたんだ。




