選ぶ
光と、闇が。ぶつかり合う、たびに。
世界が——軋む。
兄弟は。一歩も——譲らない。何百年分の。想いの、丈を——ぶつけ合うように。
-----
『——どうした、兄者! その程度か!』
闇の精霊王が。哮える。その声は。憎しみでは、なく——どこか。歓喜に、近かった。
ずっと。ずっと——堕ちてから。誰とも、本気で——ぶつかれなかった。兄と、こうして。全力で、やり合える。それが。嬉しくて——仕方ない、みたいに。
-----
『……ああ。お前こそ』
光の精霊王も。静かに——応える。
その、横顔。緑には——見えた。兄もまた。微笑んで、いた。
堕ちた弟と。もう一度。こうして——向き合える。叶わないと、思っていた。その願いが——今、ここに。
-----
でも。
闇の力は。あまりにも——巨大すぎた。
ぶつかり合う、ほどに。荒れ狂い。制御を——失っていく。このままでは。兄弟もろとも。世界まで——呑み込んで、しまう。
『……っ、まずい』
光の精霊王の、声に。焦りが——滲む。
-----
(……私の、出番だ)
私は。よろめく足で——立ち上がる。
倒す力なんて、ない。でも——私には。鎮める力が、ある。それに。
あの闇と、私は。もう——通じ合った、はずだから。
-----
「——闇の精霊王!」
私は。指輪を、かざして——叫んだ。
「ぶつかり合うのは、いい! でも——呑まれないで! あなたは、もう。あなたの、ままで——いられるでしょう!?」
闇が。びくり、と——する。
『……みどり』
-----
指輪が。淡く——光を、放つ。
その光が。兄の——光と、溶け合って。荒れ狂う、闇を。優しく——包み込んで、いく。
倒すんじゃ、ない。鎮める。受け止める。——引き戻す。
「精霊王。今です——!」
『ああ』
-----
光の精霊王が。両腕を——大きく、広げた。
まるで。幼い弟を——抱きとめる、ように。暴れる闇を。まるごと——受け止める。
『——もう。いいんだ。よく、戻ってきた。よく——耐えた』
-----
それでも。
闇の精霊王の、身体を。黒い、奔流が——なおも。暴れようと、する。世界を、呑み込もうと。兄ごと——壊そうと。
長い、長い、年月で。彼自身にも——抑えきれぬほど、巨大になった。その、闇が。
でも。
『——もう、やめろ』
低く。けれど、はっきりと。
闇の精霊王が——自らの、闇へ。そう、命じた。
『……もう。誰も。壊したく、ない』
誰かに、鎮められたんじゃ——ない。受け止められて、許されて。その上で——最後は。彼が、自分の意志で。自分の闇を——選び取って、抑えたのだ。
呑まれるんじゃ、なく。
最後まで——自分の、ままで。
-----
その、瞬間。
ふと。
どこかで——あの子が。笑った、気が、した。
闇の——猛りが。ふっ、と。和らいで、いった。
-----
『……兄、者』
闇の精霊王の、声が。子供のように——掠れる。
『俺は……ずっと。兄者みたいに。輝きたかった。なれなくて……怖くて。それで——』
『知っている』
光の精霊王は。ただ、静かに——弟を、抱きしめた。
『お前は。お前だ。——俺の、弟。それは。いつだって——変わらない』
-----
闇が。ほろほろと——崩れて、いく。
禍々しさが、抜け落ちて。荒れ狂っていた、力が——静まって。
残されたのは。ちいさな、ちいさな——闇。あの、核の中で、泣いていた。生まれたばかりのような——小さな、影だけ。
-----
そして。
ぐらり、と。
玉座の上で。ずっと、闇に——蝕まれていた。一人の——男性の、身体が。
崩れ落ちる、ように——傾いだ。
その、身体から。最後の、黒いものが——すうっと。抜けて、いく。
(……あれは)
王様。イザベラの——お父様。
-----
「——おとう、さま!?」
イザベラの——悲鳴が。広間に、響いた。
長い、長い——夜が。
ようやく。明けようと——している。




