兄弟喧嘩
——その、とき。
謁見の間。
ずっと、みんなを——押さえつけていた、あの。重い、重い——重力が。
ふっ、と。
嘘のように——消えた。
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「……っ、え?」
ユリウスが。剣を、支えに——よろめく。
フレデリカお姉様も。ピピも。フェンも。シルヴィアも。急に、身体が——軽くなって。何が、起きたのか——わからず。顔を、見合わせる。
ずっと、世界を——凍りつかせていた、あの。冷たい、圧が。今は——どこにも、ない。
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「緑——!?」
ユリウスの、声。
その、視線の先。玉座の——前に。
ふっと。掻き消えていた、はずの——私が。立って、いた。闇の精霊王の、すぐ、そばに。
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私は。隣を——見上げる。
闇の精霊王。さっきまでの、底なしの——憎悪は。もう、その瞳に——ない。
私と、闇の精霊王は。目を、合わせて。そして——小さく、頷き合った。
うん。——いこう。
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その、瞬間。
操られていた、人たちを——縛っていた、黒い靄が。すうっと——ほどけて、いく。
コンラート様が。ローザ様が。ユリウスの、ご両親が。令嬢たちが。街の、人たちが。
ひとり、また、ひとりと。意識を——取り戻して、いく。虚ろだった、瞳に。光が——戻る。
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「……これは。一体——」
戸惑う、みんなの、前で。
闇の精霊王が。ゆっくりと——口を、開いた。
『——さて』
その声に。もう。世界を、呑み込もうとしていた——あの、禍々しさは。なかった。
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『本気で。ぶつかり合う、とするか』
ふっ、と。
その口元が——緩む。
それは。今までの、嘲るような——笑みでは、なくて。どこか、少年のような——無邪気な、笑顔だった。
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「……え?」
ユリウスが。ぽかんと——する。
フレデリカお姉様も。ピピも。フェンも。みんな——状況が、飲み込めずに。きょとんと——している。
……うん。そうだよね。いきなり、こんな——展開。ついてこられ、ないよね。
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私は。へなへなの身体で。それでも——にっと、笑って。
みんなに、向かって。ひらひらと——手を、振った。
「……ただいま。みんな。——お待たせ、しました」
まだ。何も、終わっていない。でも——きっと。ここから。本当の、決着が——始まる。
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闇の精霊王が。ゆっくりと——顔を、上げた。
その視線の先には——時計塔から、この場に。降り立っていた、光の精霊王。兄が、いた。
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『……兄者』
闇の精霊王が。呼びかける。
その声は。もう、憎しみでも——絶望でも、なかった。ただ、まっすぐに。たった一人の、兄を——見つめて。
『——兄弟喧嘩と。いこうじゃ、ないか』
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光の精霊王は。
ふっ、と——笑った。
ずっと、ずっと——待っていた。堕ちた、弟が。こうして、もう一度。自分の前に。戻ってくるのを。何百年も——待ち続けて、いた。
その笑みには。万感の——想いが、滲んでいた。
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「……あの。緑、さん?」
ユリウスが。おそるおそる——私に、聞く。
「闇の、精霊王……様は。一体、誰に。話しかけて——いるんだ?」
みんな。きょとんと——虚空を、見つめる、闇の精霊王を。見比べて、いる。
……うん。やっぱり、こうなるよね。
私は。へにゃ、と——笑った。
「……長く、なるので。あとで。ぜんぶ——説明、します」




