第6話 新任務の噂
あの片道数時間の遠征から1日経ったその日。開発機構の施設内にあるひとつのビル。ドアに『第9班』と書かれたその一室には3人が集まっていた。猪原と新谷、そして頭に包帯を巻いた空見の面子だ。
「今日は他の班が緊急出動かかって出ているんだっけ?」
「そうですね。私たちは昨日、出動したばかりなのでよほどのことがないと命令が出ないでしょう」
暇つぶしの新聞を読みながら問う猪原に、新谷がこちらも暇そうに答える。
今の彼らは出動待機状態。有事に備えて待っている状態であり、休日というわけではない。この状態の時は準休日状態と言っていいが、基本的には命令1つで現場に向かえる場所に行くことが暗黙の了解となっている。
「何かないかな~。ほんと、暇」
「うちは稲嶺に加えて空見も怪我してるんだから、何かあると困るんだけどなぁ」
「同感です」
能天気に他人事のように無茶苦茶を言う空見に、怪我をしていない2人は呆れ顔。
しかしそんな時に限って平穏はその場を後にするのが世の常である。
と、言うわけでその平穏を連れ去るノックがする。
「どうぞ~」
面倒くさそうに猪原が答えると、開けられたドアから2人の男女が入ってくる。
片方は昨日、空見と話になっていた少女。体よりも大きな『大剣』を振り回す超パワータイプの子であり、名前は平安かなみ。そしてもう1人は、
「何しに来た?」
「遊びに来た」
「帰れ」
猪原と仲が悪いのか仲がいいのか分からない男。喧嘩するほど仲がいいとは言うので、この2人については喧嘩するほどの仲と言えばいいだろう。こちらの名前は籠谷青空。なお『青空』と書いて『そら』と読む。
「嘘だよ。ちょっと小耳に挟んだ話でさぁ」
籠谷が適当な椅子に腰かけると、その横の椅子に平安が静かに座る。
このおとなしいところを見れば新谷のような子なのだが、戦場に出れば空見以上にゴッツイ大剣を持って、空見以上にパワフルな戦闘を繰り広げるのだから、戦場と言うのは人を狂わせるものなのだろう。もっともそうでもなければ人の生死を目の前にして正気を保てるものではないのだが。
「聞いた? テロの話」
「ウチの新谷から聞いた。だいたいの話はね」
「なるほど。ウチにその手の依頼が来る可能性があるって話も?」
「いや、それは初耳」
籠谷の話にそれまで興味なさそうだった猪原もやや前のめり。
「あくまでも噂だけどさ。なんでも大物政治家が近くに来るとかなんだけど、その時の新生物対策とテロ対策を兼ねた護衛任務があるらしい。普段なら民間のボディガードやら警察やらがやるべきなんだろうけど、新生物対策も兼ねるとなると」
「マジか。なんでまた政治家が来るんだろ?」
現行の首都機能は日本国内でも比較的安全な場所に備えている。わざわざこんな最前線に来る意味が分からないところであるが。
「ニュースくらい見ろよ」
「新聞は読んでるけど?」
「じゃあ、目を通してるだけで頭に入ってないんだな」
籠谷は机の上に置いてある新聞を見ながらため息をつく。と、近くにいた新谷が口を開く。
「選挙。ですね」
「そう。そろそろ選挙の時期だから。有権者のいる地域に来ようってことだね」
その籠谷の指摘に今度は猪原がため息。
「こんな忙しく危険な時に票集めか」
「危険な時だからこそ政治家の一言に動かされやすい票を集めようってことだと。まっ、衆愚政治らしい出来事だ。国民の安全を担う俺たちを、そんなくだらないことのために動員、拘束しようなんてそれこそ国益に反しているんだが……国民は分からないだろ。そんなこと」
籠谷の毒の吐き方はえげつないところがあるが、だが一方で彼の言わんとしていることも分かる気がする猪原。自分たちが命を賭けて安全を確保しているその後ろで、無防備に自分の利益を求めてうろちょろされるなど腹立たしいことこの上ない。
「戦地派遣じゃなくて警戒だから比較的安全だけど、嫌だなそんな任務」
「安全だからこそ行くなら第9班だと思うけど? 今、そっちは怪我人多くて戦闘力下がってるし」
「うげ」




