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夜明けの新世代  作者: 日下田 弘谷
第1章 新世代
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第5話 力の弊害

 横須賀市西部にある彼らの本拠地・国立新科学開発機構。元々は海洋研究を主要としたただの研究所であったが、立地などの理由により関東エリアにおける『新世代』の主要拠点と使われている。さて、そんな国立新科学開発機構には、商店、飲食店のみならず、娯楽のようなものも含めて生活基盤が揃っている。それには、防衛戦力の基地として強化された医療機関も例外ではない。


「うぅ、死ぬぅ」


 猪原に背負われて病院に入ってきた空見。あらかじめ連絡を受けていた看護師がただちにストレッチャーを持ち出すと、猪原が彼女をそこへと寝かせる。


「大丈夫。人はそう簡単には死なないから」


 数年であるとはいえ生死を分ける第一線に身を置き続けた彼は、今まで幾度となく人間のしぶとさというものを見てきた。身体能力に加えて回復能力も人並み以上である新世代であればなおさらである。


 彼は処置室に運ばれていく彼女を見送りながら受付へと向かった。


「失礼。ちょっと」


「はい、どういったことでしょう?」


 と、そこにいた事務員はそう言いながらタオルを渡し、机の上に置いてあった鏡を彼の方へ向ける。彼はその鏡を覗いて気付くが、ほんのり顔が血で濡れている。拭けということであろう。


「第9班。稲嶺(いなみね)の様子は?」


 関係者の者であることを示す身分証を見せると、事務員の女性はその人の部屋番号を伝える。


 第9班。猪原達の所属するグループの名前であるが、そこは現在4人編成となっている。が、本日は他グループと連携作戦であったとはいえ、前線戦力2人+後方支援1人の3人である。その残る1人はというと、当医療機関にて入院中である。


「稲嶺。元気か?」


 伝えられた部屋に入ってみる。するとそこには掛布団で全身は見えないとはいえ、比較的小柄な少年が1人。


「や、やぁ。元気そうで」


「そちらは相変わらず体調悪そうで」


 彼はいかにも顔色が悪そうに手を挙げて答える。


「何? お見舞いに来てくれたの?」


「いや。空見がお前ほどじゃないにせよ死にそうでな。『死にそう』って言ってた」


「ははは。元気そうで何よりだよ」


 彼は一呼吸置きながら答える。本当に体調が悪そうである。もちろん猪原も、この少年、稲嶺もこれほど体調が悪くなった原因は知っている。新世代として戦うにあたって、すべての説明は受けているからである。


「輪っか、壊れるとそんな辛いか?」


 猪原は自分の腕に付けた『輪っか』こと制限解放器を指さす。彼のそれは長らく付けていたことで傷も多くなっている。しかし稲嶺のものはまるで最近新調したかのようにきれいで真新しい。というのも彼は戦闘の過程で1度壊してしまったのである。その弊害がこれである。


「本当につらいよ。壊してすぐはどうもなかったけど、入院してからかな? どんどん体調が悪くなって。お医者さんが言うには、入院してたからこれで済んだって」


「だろうなぁ」


 彼の言葉を聞いて猪原も納得する。今まさに辛そうな彼が言うからでもあるが、こうして解放器を壊して体調を崩す人は彼だけではないからだ。なかには死んでしまった人もいるというから恐ろしい話である。


「力の暴走って感じがする?」


「それはどうだろ? よくわからないなぁ」


 そもそもこれほどまでに体調を崩す原因というのが、制限解放器で人間の体のリミッターを緩めているからである。開発者曰く、それが壊れることで急激に体のバランスが崩壊してしまうらしいのだ。もっともそれ相応の計画を立てて徐々にバランスを通常時に戻していけば制限解放器なく生活できるらしいが、それはそれでパワーが元に戻ってしまうとのことである。稲嶺は壊れて1日後に新しく付けたみたいだが、それでもこれほどまでになってしまうとなる本当に弊害が大きい。大きな力にはリスクが伴うということだろう。


 猪原は適度に会話をしたところで立ち上がる。


「じゃあ、お前も体調が悪そうだしここらで帰るよ。空見の処置もそのうち終わるだろうし」


「お見舞いありがと。空見さんにお大事にって伝えといて」


「お前が言うな」


 グループ1の重傷者に一言告げ、彼はその部屋を後にした。


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