第7話 新生物と新世代
「制限解放器が力の源じゃない? いったいどういうことだよ」
猪原はやや驚きを隠せず強い口調で空見へ問う。すると彼女は逆に落ち着いた声で話を始める。
「一般人と比べれば桁外れの攻撃力に耐久性。加えて俊敏性もかな。その身体能力はそれこそ私たちがオリンピックなんて出ようものならば、日本はメダル独占レベルで飛びぬけてる」
彼女の口にするそれは今のところ事実である。新生物によって人の往来が阻害され異国間交流が希薄になってからは、そうした娯楽や文化的なイベントは鳴りを潜めている。だがもしもそれが行われたならば、日本代表は新世代に独占され、そして競技の上位成績者もまた独占されるだろう。例え20歳にも満たない少年少女でも、体力全盛期の男性すらも凌駕する。それが新世代の持ちうる力である。
「加えて大きなダメージでも時間を掛ければ、小さなダメージならあっという間に治っている回復力も。もっともさっき言った運動能力と合わせて個人差はあるみたいだけどね」
空見はお茶を入れてくれた少女へと目を向ける。少女は火傷の跡がしっかり残っている程度の回復力であるし、そもそも彼女自身も現役時代は決して戦闘力に優れるタイプではなかった。だがそれでもあれほどの大爆発に巻き込まれて生命を繋いだのは新世代ゆえというべきだろうか。
「それくらい知ってる。だからこそあんな化け物みたいな新生物とやり合えるんだろ。そのパワーを制限解放器以外にどうやって生み出したって言うんだ」
「ねぇ、猪原。普通とは桁外れの身体能力と回復力。それを持つのが『新世代』だけだと思う?」
「何言ってるんだ。さっき空見も言ったじゃないか。オリンピックがあろうものなら新世代が独占するって。僕らみたいな人間がそういるかよ」
「人間ならね」
彼女は意味深に返した後、その単語をひとつつぶやく。
「新生物」
「え?」
彼女のその一言にまたしても驚かされた猪原だが、そのタイミングで一人の男が部屋に入ってくる。
「そこから先は私がお話ししましょう」
白衣を着たいかにもな科学者スタイル。20代の若い男である。こうした男には猪原は接点がないはずであるが、記憶の片隅に何か引っかかる。
「お久しぶりです。父は日本人。母はドイツ人。日本原子力工学大学にいました、ヨハネス仁科です」
「あっ、確か」
「えぇ。あの海ではお世話になりました」
2人が出会ったのはしばらく前。猪原が沿岸警備に出向いた際、海洋研究の一環で海に来ていた彼と巡り合った。お互いに年も近かった2人はそこそこに会話をかわしたのであるが。
「さて、思い出話もしたいところではありますが、簡潔に状況を説明しましょう。新生物と新世代には、身体の構成成分に似たようなところがあると言うことです」
「似たようなところがあるって」
「私はあなたと出会ったあの海で2つのものを回収することに成功いたしました。と言っても別に回収する目的で海に出向いたわけではないので偶然ですがね」
彼はひとつの試験管とビニール袋に入ったタオルを取り出す。
「こちら。試験管に入っているはあなた方があの海岸で討伐した細胞の体の一部分だと思ってもらえればいい。そしてこの血が付いたタオル。この血液はそこの彼女のものです」
仁科が目を向ける先にいたのは新谷。予めこの状況を聞いていたのであろう新谷であるが、まさかの展開にそこは平常心ではない様子。わずかに動揺しているようにも見える。
「その構造が妙なまでに一致していた。そのことから私はひとつの仮説を立てました。新生物を生み出した存在と、新世代を生み出した存在は同一人物もしくは同一組織であると」




