第6話 偽物
「どういうことか説明してもらおうか」
どこぞの工場の倉庫に降り立ったヘリコプター。そこから車に乗り換えて山奥にあるコンクリート製の建物へ。その建物内部にあるちょっとした会議室に通された猪原は、不満そうに椅子へ腰かけて一声発した。空見の仲間であろう小柄な女性がお茶を差し出してくるが、それに気づかないくらいの不機嫌さである。
「どういうことって説明受けてないの?」
「まったく」
目の前にいるかつての仲間、そして一時は敵対した空見は呆れたように返す。その言葉に新谷は釈明。
「稲嶺さんにゆっくり説明していたら時間が無くなったので、猪原さんは無理やり連行しました」
「一歩間違えれば国家転覆罪で死刑なんだけど軽くない?」
「死刑⁉」
その言葉を居合わせた女性からお茶を受け取りながら軽くいう空見も空見だが、曰くそんな死刑の境界線を知らぬ間に越えてしまった猪原も大変である。
「この子ってこんなにアホの子だっけ? まぁいいや、私が説明する」
新谷も猪武者だった空見に言われたくないだろうが、そんな猪武者であってもこの状況を最もよく理解できている者であることには違いない。
「ここは国民解放戦線の関東司令部」
「国民解放戦線って」
「そう。新世代ではテロリストと言われてた組織。そして、今の私の所属組織」
「つまり」
猪原は自らの得物である鉄棒を手にする。しかし、
「やめといた方がいいよ。ここはあくまで前線司令部であって、本当の中核司令部は別のところあるし。だいたい、新世代複数人相手はさすがの猪原でもきついでしょ」
「複数人ってのは空見とそこの2人か?」
状況を見るに新谷、稲嶺も国民解放戦線に寝返った。それに猪原は巻き込まれたと見るのが妥当なところである。要は国民解放戦線には3人の新世代がいると見るべき。
「本当にそれだけだと思う?」
空見は横に目を向ける。そこにいたのは先ほどからお茶を差し入れてくれた小柄な女性。よくよく見てみると腕や顔にヤケドの跡があり、とても痛々しく感じる。それさえなければその美貌は新世代の表に出してもいいほど。
「ねぇ。いつぞや外国使節に新世代のメンバーが誘拐されたことあったでしょ?」
「え? うん」
「あの時に誘拐されたメンバーって全滅したと思う?」
「まさか」
「そういうこと」
そう説明を受けた彼女は軽くお辞儀する。
「新世代が他にも……」
「私たちだって新生物の退治はしてきたからね。その武力は伊達じゃないって」
「ん? 待った」
猪原はもう一度、部屋の隅にいる女性に目を向け、さらに空見にも目を向ける。
「あの子は本当に新世代か?」
「と、言うと?」
「新世代の力の源は制限解放器。それが腕に付けられていないじゃないか」
猪原は自らの腕にあるそれを見せようとした。だがそれをする前に動いたのは新谷だった。彼女は自らの制限解放器を外すと、それを床に放り投げた。その上で猪原の鉄棒を掴むと力いっぱい叩きつける。新世代のパワーと、新生物の攻撃にも耐える猪原の棒。それをぶつけられた制限解放器はいとも簡単にはじけ飛ぶ。
「さて、これにどれだけの科学的な力があると思う?」
立ち上がった空見はその制限解放器だったものを机の上に置く。きっと砕けたそれは中に電子回路の基盤や、人間の筋肉に作用する機械があるものだと推測された。しかしその中には何もなかったである。
「え……これは」
「偽物の制限解放器です。中に何もないのは当然です」
猪原はそれを聞いて驚愕した。偽物の制限解放器を目の前で破壊し、その中には何もなかった。それは当然であり、何も驚くことではない。だいたい驚くべきポイントはそこではないのである。
本物をいつの間にやら外し、偽物の制限解放器を身に付け、それでいて他の新世代と同じパワーを誇っていた新谷の力はいったいどこから来ていたのか。
「結論から言うとね、新世代の力の源は制限解放器じゃないのよね」




