第4話 包囲網突破
鮮血が飛ぶのがこの暗い夜であっても分かる。
そうして男は倒れこんだ。
「い、稲嶺?」
「必要な犠牲」
猪原に対しそう口にした彼の拳銃を握った手は小刻みに震えている。当然である。今まで銃弾は生き物に限るなら新生物相手にしか撃ったことなんてない。しかし彼はいまここで初めて人に向かって撃った。今すぐ助ければまだ意識のある男を助けられるかもしれない。だがきっと3人は止まらないだろう。そうなれば稲嶺が1人の命を奪ったとみても間違いはない。
彼の中で様々な葛藤がありながらもそれを振り切り足を止めず走っていく。
「申し訳ありませんが、邪魔をするなら容赦はありません」
新谷はその一般人を越えた新世代のパワーで、落ちた銃を再び掴もうとする男の手を踏み潰す。明らかに骨の一つや二つが砕けていそうな音と、男の絶叫が聞こえるも新谷はもはや人間を見るものではない目で見下し、そして見捨てるように走り出す。
「し、新谷。稲嶺。そこまでやるかよ」
「理由は後で話します。ですが、きっとここまでやる意味はあります。そして猪原さん。あなたなら分かってくれる」
何度も何度も聞いた新谷の釈明の言葉。
男の叫び声とそれを聞きつけた者たちのものであろう音を聞きながら、彼女の言う目的地である3番ゲートへと急ぐ。
普段ならばちょっと広くはあるものの、徒歩でも移動も苦にならないこの施設。だが何がなんだか分からないこの状況と、そして理由も分からずに終われること。これらがその目的地へと道を遠く感じさせる。
それでも確実に一歩一歩前へと進んでいく。
ところが彼らだって簡単に3人を逃がしはしない。3人は一般人離れした身体能力を持つ新世代だが、彼らだって一般人離れした装備を持つ国家権力なのである。
『逃走中の3人へ告ぐ。ただちに武器を捨てて投降せよ』
暗い空に響くヘリコプターの音と投降を促す声。そのわずか数秒後にライトが照射され3人の姿が映し出される。そのまま突っ切ろうと新谷は一歩踏み出すが、目の前に2台の車が止まりそこから数人の武器を手にした男たち。さらに後ろからは先ほどの仲間が迫っている。
「あと少しだったんですが……」
「ここまでか?」
新谷や稲嶺が悔しがるような声を出す。いくら新世代の戦闘力と言えども、これほどの装備と数の相手を前にして無傷で突破することは不可能である。
『謀反を企てた君たち3人は、この国に争乱を持ち込もうとしたとして重罪は免れないだろう。だがおとなしく投降し、こちらに情報を提供するなら司法取引を行う余地はある』
やろうと思えば武力によって3人を制圧することはできるだろう。だが確実性とその理由・バックの存在を明らかにするために交渉を行おうとするその相手。
「この国に争乱を持ち込もうとした……ですか。持ち込んだあなた方がよく言ったものですね」
新谷が意味深な一言を口にすると、先ほどから交渉をしていたのであろう声の主が車の中からゆっくりと出てくる。
「君はいったい何を言っている? 我々は新生物から国民を守るために日々戦っている。それは君が一番よく分かっていることだろう?」
「いえ、あなたには関係のない話かもしれません。そうなのだとしたら、あなたも私たちと同じく騙された者……正義ではないものを正義と思っている側なのでしょう」
簡単には投降しない3人。そして投降を促し情報を得たい新世代上層部。その間で長らく舌戦が繰り広げられる。しかしそうしている間にも時間は経っているのである。次第に3人の周りに敵は増えていき、増援なのであろうヘリコプターのさらなる音も聞こえてくる。
そこで新谷はふと答える。
「なんにせよ、私たちはあなた方に従う気はありません。私は国民を守るためなら政府にだって弓引いてみせます。私たちの国を形作るのは守るべき国民です」
「そうか……だが3人でこの包囲網を突破できるとでも?」
男は小さく笑みを浮かべる。
「3人なら無理だと思います。3人なら」
新谷のその言葉の直後、3人にライトを照射していたヘリコプターが大爆発を起こす。
「な、何事だ⁉」
先ほどまで勝ち誇っていた男が空を見上げる。そこには新たにやってきたヘリコプター……もっとも味方ではなかったようであるが。
「ちょっと、これ任せた」
ヘリコプターの中。開け放たれたドアから携行対空ミサイルによってヘリコプター一機を撃墜した彼女は、その不慣れな武器を仲間に押し付けて腰の愛用の得物に手をかける。そしてそこそこの高度であるにも関わらず、ロープも使わず飛び降りる。
「助太刀いたす!!」
「来ましたね。私たちの救世主たるお侍さん……いえ、空見さん」
空見は飛び降りた先にあった車を勢いそのままに一刀両断。
強力な援軍によって戦局は一変した。




