第2話 空見不在の戦闘
新谷のリハビリに1週間を要したが、言い換えれば1週間しか要すことはなかった。
今日は本拠地の南に現れた新生物との討伐任務である。
「猪原さん。援護します」
「分かった。それとスカートの中見える」
「下に履いてます」
割と大きなライフルを持ったまま猿のように木に登る新谷はとにかく器用である。本当に腕の怪我は問題ないらしい。彼女は太い枝の上で上手く体を固定すると、遠くに見えるカバのような何かに銃口を向ける。とにかく人間1人くらいいとも簡単に丸のみしてしまうであろう口の大きさであり、歯に赤い何かがついているような気がするのは、今戦闘中の彼ら彼女らにとっては気のせいであると思いたいところであろう。
そんなカバがこちらに向いた途端、新谷の銃口が火を噴く。しかし彼女自身、別に凄腕のスナイパーと言うわけではないのである。目を狙った一撃は胴体に当たってしまう。それでも銃弾はカバの体に穴を穿ち、そこから鮮血が飛び出し始める。
『すみません。外しました』
「構わん。新谷の銃の腕は期待してない」
そしていつもの鉄の棒を手に敵へ突入を図る猪原。
『猪原さん、じゃあ間違って背中を撃ってもいいですか?』
「やめてあげて」
新谷はこちらに敵が向かってきてしまうため、木の上から飛び降りながら無線機に一言。そのすぐ横を走り抜ける稲嶺は、もちろん彼女の一言が冗談であることは分かっているが釘は刺しておく。
「新谷。引き続き目を狙って視界を潰してくれ。さっきの傷、辺りが浅かったせいかもう止まりつつある」
『ほんと、厄介な回復力ですね。でもさすがに目のような複雑な組織なら、簡単に再生はしないでしょう。撃ちます』
「期待してないけど任せた」
『嘘でも期待してほしいです』
相変わらず新谷に期待していない猪原。彼の背中を間違って撃ち抜くことが無いように細心の注意を払いつつ、彼女は引き続き銃弾を放つ。その銃弾は目的となる目をなかなか射抜くことはないが、それでもカバの胴体へと当たって着実にダメージは蓄積していく。
さすがに多少とはいえダメージを負っては相手も一切抵抗しないなんてことはない。カバは迫ってくる猪原に食らいつこうと大きく口を開けて飛びかかってくる。それをものともしない猪原は立ち止まると、鉄の棒を構えて待ち受ける。
「よいしょっ」
するとその棒をしっかり敵の口にねじ込む。カバはその口を閉じようとするが、
「特注のこいつをへし折れるかな?」
つっかえ棒となってしまったそれで口が閉じられない。なんとか口を閉じようともがくカバだが、猪原が敵から離れるなり新谷から射撃再開。敵の得意攻撃を封じ込み、新谷が敵の注意を引き付けてる間に、刀を抜いた稲嶺が敵に飛びかかる。その背に馬乗り・・・ならぬカバ乗りした稲嶺は背中に刀を突き刺していつもの中枢切断に移る。それによりカバは大暴れするわけだが、手慣れた稲嶺はなかなか離れない。
「しかしこうなると暇だな。刀か拳銃くらいは補助で持っておくかな?」
自前の得物は口につっかえ棒の猪原。少し離れた場所でただ状況を見守るしかない。石でも投げて援護するかと閃くが、邪魔にしかならなそうなのでやめておく。
時間にして10分弱。そうしておくと次第にカバの動きが鈍っていき、ふと力尽きたように倒れこむ。
「ようやくですか」
「かなり粘ったな」
猪原の横に立つ新谷は、万が一敵が動き出した時に備えて銃弾を装填しつつ一呼吸。見てみると稲嶺が刀を抜いたそのカバは、あれだけ稲嶺が切り裂き、新谷が銃弾を撃ち込んだ割にはきれいな体である。無駄な攻撃はなかったと考えるべきか、与えた攻撃の多くを回復されたと考えるべきか、はたまた逆に回復の難しい大きなダメージを与えられなかったと考えるか。
「……空見がいればもっと楽だったんだろうか」
「どうでしょうか。なんにせよ」
新谷は鉄の棒をカバの口から回収し、こちらに駆けて戻ってくる稲嶺を目にしながらつぶやく。
「近いうちにまた会う予感はします。女の勘と言うヤツですが」




