第9話 裏切りの決意
「お疲れ様です」
若い男がさらに若い空見へと頭を下げる。彼女は軽く一礼すると、刀を机の上に置きながら椅子に腰かけた。
「大丈夫ですか?」
「ちょっと疲れただけ……」
今回、国民解放戦線の構成員として動いたのは2回目。まだ精神的に慣れていないのもそうだが、予期せぬ相手と邂逅したことも意外と効いたものである。幸いなのは空見が奇襲を受けたのではなく、空見が奇襲をしたこと。戦場であったとはいえ心構え自体はできたことと、血で血を洗う状況に気分が高揚していたこともあったのだろう。
思い出して幸いだったことは、旧友を斬ることにはならなかったことと、旧友に斬られることにならなかったことであろう。できることであるならばあの場ですべての真実を話して味方へと抱え込みたかったところである。もちろんその場で彼女の発言すべてを信じてもらえる保証はなかったが。
「なんとか……連絡できれば」
できることならば旧友と戦いたくない。だがあの場にもう戻りたくないし戻れない。であるならば旧友をこちら側へと丸め込むことではあるが、今の空見に彼ら彼女らへと連絡を行う手段はない。今まで用いていた連絡用の端末も、GPSで位置情報がバレたり、盗聴器を仕掛けられていたりという危険性から寮へと置いてきた。電話番号は分かるが、猪原らの端末側で盗聴の危険があることに変わらない。
つまり今回のように突然出会える時を待つしかない。
「またいつか会えたその時は」
彼女は制限解放器を外して自由になった手首に目を落とす。
「みんなを解き放つ」




