第5話 空見流ドライビング術、再び
結局のところは近隣において特段の被害は無し。通報者は危険でありすぐに逃げており、新世代が着いた頃には新生物が片付いていたとあっては、事の真相は分からない。そこで後処理は新世代の事後処理班に任せて実働部隊となる彼らはいち早く撤退する。いったいいつ新たな新生物の攻撃が来るか分からない以上は、すぐさま拠点に戻って再出動態勢を整えるべきなのである。
「しかしこうなると無駄骨というかなんというか」
稲嶺のつぶやきに頭を押さえる新谷。
「よかったじゃないですか。何事も無ければ。警察・消防や軍隊というものは、役に立たないことが平和平穏の象徴なんですよ」
「それはそうだけどもねぇ」
別に稲嶺自身は戦闘狂というわけではないのだが、かといってここまで出張って来て何もしませんでした。というのも、ただ疲れただけで何も得られずという徒労に終わった感じがして嫌なのである。つまり感情論である。
「あんなに早く現場に着いたのにもう事が終わってるっていうのがあまりにも肩透かしというか」
「確かにすぐ現場に着いたな。避難してくる車とかで渋滞になって、現場到着に時間がかかるってこともあるくらいなのに」
相変わらず愚痴を垂れる稲嶺であったが、ここまで黙っていた猪原がふと気付く。それだけ早く現場に来れたのに、その短時間の間に事件が片付いていたというのもそうだが、そもそもそれだけ早く現場に来れたのも意外なことであった。
「今確認した限りですと……この近辺の道路については交通規制がかかっているようですね。と言っても検問があるわけでもなければ、道路が完全封鎖されているわけでもないようです。せいぜい警察がいるというくらいですね」
「なんでまた? このあたりって大きなイベントあったっけ?」
猪原は後ろの座席で説明する新谷を振り返る。
今や戦時下と言っても差し違えのない、超長期に渡る対新生物戦の真っただ中にある世界、そして日本である。しかしだからと言って国民の娯楽を規制していては、国民の不満も溜まるであろうということで、ある一定の警備下においてライブを始めとしたイベントと言うのは問題なく行われている。猪原らが以前やった海水浴場における沿岸警備もそのひとつである。
「この近辺において政治家による視察が行われているようです。なんでも新生物対策の新施設が……」
「新谷。その場所は?」
「え? 先ほどいた場所から数キロの場所にある……」
猪原は前の座席に飛びつく。
「運転手さん、行先変更。新谷の指示する場所へ」
「そ、そんな急に」
「緊急事態発生」
若いドライバーは驚いていたが、猪原はすぐさま車内のボタンを押す。すると車に付いている緊急走行を表すサイレンが始動。さらにマイクを手に取る。
『緊急事態。緊急事態。これより緊急走行に入る。道を開けろぉぉぉ』
他の班の車もいるなか、彼らの乗った車だけが対向車線に滑り込み来た道を引き返す。しばらく何があったか分からなかった他の班であるが、彼らの車を追うようにUターンして道を引き返し始めた。
『新谷。道の案内を』
「車外スピーカーで言わなくても分かります。というか恥ずかしいので車外に向けて私の名前を呼ばないでください」
新谷は手にしていた携帯端末で彼の指し示す場所に向かう地図を開き、半泣きでハンドルを握るドライバーに押し付ける。
「なんだか空見さんがいなくなった気がしません」
「猪原ってこういうタイプの人間だっけ?」




