第2話 解体
自衛隊のような本格的な国防機関ではないが、対新生物戦においては警察・海上保安庁をも上回る戦闘能力を誇る新世代。それは準軍事機関と言ってもいい扱いであるが、新生物によって国民の安寧が脅かされている現在においては、軍事機関とそん色ない立場でもある。その機関において脱走というのは重罪ともいえる。脱走者にとって幸いなのが、日本の法律においては他国に比べて罪が軽いことであろうか。
「空見さんが無事であると信じます」
新谷はそう猪原・稲嶺の両名に呟いた。
あの後、彼女はただちに空見の不在を彼女らを管轄する上部機関へと報告。新生物蔓延る現在においては失踪など、「現れた新生物に丸ごと食われた」とでも言われれば不思議ではない。が、自宅謹慎中の人間が、それも居住地は新世代の機関敷地内と言うのだから、その可能性は限りなく低い……いや、ゼロと言ってもいい。だからこそ警察に失踪届が出され、かつ上層部も捜索隊を派遣するに至っている。
「で、どう言った?」
「自分は特に」
猪原の問いに答える稲嶺。彼らは空見にここ最近、不思議な様子はなかったか。といわゆる取り調べのようなものを受けたのである。男2人はそういったようだが……
「私は空見さんの様子を正直に言いましたよ」
「「マジか」」
新谷の一言に驚く2人。さらに猪原はその言葉に苦言を呈す。
「新谷。まがりなりにも仲間なのに、かばう気はないんだな。そんなこと言ったら、空見が見つかった時に何を言われるか。仲間より組織が大事か?」
「私は仲間より国民の安心安全が大事だと思います。もっともその国民には『仲間』も含まれますが」
その国民を守るためならば組織に尻尾を振ることも厭わないと言ったところである。現状においては組織に忠実である。
「ですから心に決めています。もし空見さんが国家に弓引き、国民を危険に晒すというならば、迷わずこの引き金を引きます」
そう口にしながらライフルを手にする。もっとも彼女に人のような小型の目標を、しかも空見のように機敏に動くモノを射抜くような射撃スキルはないわけだが、それだけの覚悟があると言うことだろう。
「まぁ自分もそれはするかもしれないな。理由くらいは聞くだろうし、できればそんなことをしたくはないけど」
猪原は言いづらそうに返し、横にいる稲嶺も「できれば仲間を斬りたくない」と自分の刀を鞘の上から撫でる。
「まぁなんにせよ……私たちもここでお別れかもしれません」
「へ?」
「どういうこと?」
新谷のさらに予期せぬ一言に驚く両名。
「不信感を持った失踪者が出たとなった日には、私たちのこの班は解体となるでしょう。仮にそうでなくとも厳しい監視の目の元に動くことになる。そこまでしたとしても今までのような活動はできないことは間違いないかと」
新生物退治を行う新世代は本格的な軍人ではない。それどころかそもそもが親が新生物絡みやその他の理由で死亡したなど、身寄りのない若い世代が多い。そんな普通の人間に制限解放器とかいう超先進科学機器を用いて身体強化を行って戦わせているに過ぎない。ある種のドーピングである。だがそれでは精神面は強化できない。それゆえに部隊内の『信頼関係』は精神面からかなり重要度が高いわけだが、この状況で彼らは信頼関係を維持できるだろうか。
誰もが思うだろう。無理であると。
「そっか……割と楽しかったよ。新生物との戦いは嫌だったけど」
「稲嶺。まだ気は早いぞ。新生物との戦いが嫌だったのは同感だけど」
「気は早いですけどほぼ確定です。新生物との戦いが嫌だったのは否定しませんが」




